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その十二 ぶらり旅:呪われた村

「へへへ、いやあ、下品な趣味を披露してしまって、お恥ずかしい! んじゃ、ジャンさんの書いてるやつも実際の事件を基にしてるの?」

「……俺のは創作さ。題して『呪われた村』」

 マヤが身を乗り出す。

「お! ゾクゾクする題名! 内容は? あ、言っちゃ拙いのかな?」

「最初の部分だけなら聞かせよう。ある男が目を覚ますと、住んでいた村の住人が、自分以外みんな殺されている――」

「おおぉ~……」

「誰がやったのか? 何故? ……ってところで、まだ書きかけだ」

「あらら……でも、まあ、その目覚めた男ってのが犯人なんじゃないの?」

「それは前に他の劇でやってね。さて、お前さんならどう話を転がす?」


 マヤは身をよじった。

「う~~~~~ん、あたしそーゆーの苦手なんだよなあ! えっと……通りすがりのおかしな奴とかじゃダメ?」

「ふむ、その解決は悪くない。デウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神様の亜種だな。通りすがりに村人を全員殺していくってのは、べらぼうに薄気味悪くていいぞ!」

 ジャンの賛辞にマヤは頭を掻くと、赤くなった。

「へへへ……こういうので褒められたことないから、こそばゆいな……」

「他にはどうだ? おぉ! さっき話してくれた夢の話なんてどうだ?」

 キョトンとしたマヤの顔に、ジャンは細長い指を突きつけた。

「目覚めた男が村を捜索すると、街灯の上にセント・エルモの火が燃えているんだ」

 マヤはギョッとして、身を乗り出した。

「そ、それで? その火は、一体何なの?」

 ジャンは腕を組むと、ふーむと唸った。

「そうだな……古来、火を見つめると人間は心が落ち着くもんだよな?」

「うんうん!」

「その火には逆の効果がある、というのは?」

「んん? つまり火を見ると、ムカムカしてくるとか? ……え? もしかして、火を見て、みんながお互いを殺し合ったってことにするの?」

「いやいや……それじゃあ、目覚めた男もおかしくなっちまうからな。この火は、特定の、そうだな……波長の合う人間――わかるか? お前、力をを吸う時に、波みたいなものを感じないか?」

 マヤは膝を打った。

「わかる! こう、見えないけど何かがうねってるのがわかるんだよ! 相手が怒ってると、波が強くて速いんだ。こっちに興味がある時は、こう……深い感じ。わかるかな?」

 マヤはじれったそうに身振り手振りで、ジャンとの間に、大きな波線を描いた。


 ジャンは頷いた。

「なんとなくはな。俺は魔力をそういう風に感じる。お前が感じている物は、また違うんじゃないかな。まあ、ともかく、波長の合う人間をおかしくしてしまう火なんだよ。どうだこのネタは?」

 マヤも、ううむと腕を組んだ。

「……あたしには面白いけど、普通の人には説明が難しいんじゃないかなあ? それに、目覚めた男は、なんでその火の性質がわかったの? あ! 長生きの化け物こと、ナントカ大公が作ったってことかな?」

「……かもしれんな」


 ジャンはマヤから目を逸らすと、肩を竦めた。

「ちなみにな、長生きの化け物こと残酷大公の話は嘘じゃないぞ。各国政府はそれには目を瞑っている。公然の秘密という奴さ」

「……え? 本気? また、あたしの事からかってる?」

「お前、昨夜からガンマも含めて、散々いろんな奴を見てきただろうが。なのに残酷大公は化け物だって信じられないのか?」

 ジャンは窓の外を指差す。

「そら、ようやく沖合にソドムが見えてきたぞ」


 マヤは驚いて、窓に顔を近づけた。清々しい朝日の中、紺碧の海が広がっている。

 だが、その中に一点、真っ白な塊が小さくあった。

 それは、遥か彼方の海の向こうにある。

「……あの雲の辺り? 島?」

「違う。ふふ、ちょっと考えてみろ。長生きする化け物の家だ。並大抵じゃないぞ」

「ん~~~、残酷大公が長生きの化け物ってのは認めるのもやぶさかじゃないけどさ、あたしはなんであれ見た物しか信じないんだよなあ。だから実際に見るまでは……」

 ジャンは細長い指を組んだ。

「そうか。まあ、それでもいい。俺は少し眠る。換えの服を用意していから、ドーヴィルについたら変装するぞ」

「あれ? 馬車の中でソドムの事を教えてくれるんじゃなかったの?」

 ジャンは目を閉じた。

「ソドムに行く途中で教えてやる。お前が見た物しか信じられない、ってんなら百聞は一見にしかずだ。

 考えてみりゃ、あそこを説明して、一発で理解する奴なんてのは存在しないからな。俺も初めて聞いた時は冗談だと思ったし、この目で見た時には、正気の沙汰かと呆れたものさ」

「はあん……益々わからなくなったけど、ま、ジャンさんがそう言うなら、待つよ!」

 ガンマがにょろりとジャンの襟首から顔を出した。

「おやおやジャン、君もソドムに行くノカイ?」

「中には入らん。桟橋まで送るだけだ。大体、依頼人がドーヴィルにいると思うか?」

「さてネ……昨日までいたとしテモ、今はイナイんじゃないかな? 色々集まっテきていルだろウシね」

 マヤが目を白黒させる。

「げっ!? もしかして、あのオペラ歌手がいるの?」

 ジャンはガンマを襟首に押し込むと、目を瞑った。

「あいつは多分いない。だが、似たような奴ならいるかもしれんな」

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