プロローグ #0(1/3)
ねえ、お母さん!お話聞かせて!
―――あらあら、何が聞きたいの?
前にお話してくれた、ドラゴンたちのお話がいい!
―――ふふっ、まもちゃんはこの話大好きね、じゃあ、最後のお話を聴かせてあげるわね。
わーい!
―――むかしむかし、この星には、ドラゴンと言う、不思議で強い、動物がいました。
そのドラゴンは、人々の想像をはるかに超えた、魔法を使えることができました。人々はそれに驚きながら、ある時は手を取り合い、ある時は戦いながら、生きていきました。
ねえねえおかあさん、ドラゴンって、どんな力を使ってたの?
―――それはね、あるドラゴンは口から火を吐いたり、あるドラゴンは水をすいすい泳いだり、あるドラゴンはとっても頭がよかったり、あるドラゴンはそうね……人間を驚かしたり、かしら?
すごいんだね!ドラゴンって!
―――そうね。だけど、だんだん人々は、自分たちが知らないこと、出来ないことが出来るドラゴンを恐れて、世界から排除しようとしました。その為に、世の中が幸せになるために作った科学で、ドラゴンの力を調べようとしました。
悲しいね。ぼくだったら、もっと一緒にいたい、って思うのに。
―――そうね、まもちゃんみたいな人ばっかりだったら良かったのにね。……ドラゴンは悲しくなって、ある者は逃げ出し、ある者は戦って敗れ、そして残った者は人間のルールに従うために、人間の姿を借りて、人間として生きることを選びました。人間ともう一度、共に生きるために。そして、ドラゴンが絶滅しないように。
そっか……。
―――人間たちは、ドラゴンが人間の中にいることを知りません。でも、ドラゴンはこのお話を絶対に忘れていません。誰がドラゴンかわからないけど、ドラゴンは今でも生きてるの。だからまもちゃん。お母さんとのお約束。
うん、お約束ってなあに?
―――大きくなっても、貴方の隣にいるお友達のことを、大切にしてあげてね。もしかしたら、誰も友達がいない、寂しいドラゴンかもしれないから。
うん!ぼく、友達になる!ドラゴンでも、人間でも、みんなと友達になる!
―――うん、ありがとう。まもちゃん。あなたが優しい子で、よかったわ……。
あれ?おかあさん?寝ちゃったの?もう、風邪ひいちゃうよ、おかあさん。
おかあさん……。
「九頭竜、どうした?ボーっとして」
思わず顔を上げる。しまった、昔のことを考えてトリップしていた。
「いや、何でもないッス。ちょっと昔の事を思い出してて。ここの通り、子どもの頃通ってたのが懐かしくて」
「そっか、まあここは全然変わらないもんなぁ」
先輩と連れられて歩く通学路。目的は家ではなく、急遽決まったバイト先へのあいさつだった。
「ここから二番目の角を曲がったらすぐだから、もう少し頑張れ」
「ウッス」
心持ち歩みを速めて、目的地の骨董品屋に向かう。
名前は時竜堂。アンティークカフェもやっているそうで、そこのウエイター兼売り物の掃除を任された。
時給1500円。売れてない骨董品屋だと思っていたけどまさかそこまで出してくれるなんて思わず、二つ返事で承諾した。
誘ってくれた暁先輩も、ちょっと変わってるけど、良い人だし、信用に足りる人だ。
金の亡者と言われても否定はしないが、思えば親父一人で俺を高校まで行かせてもらって、一人息子とはいえ色々と心配かけたのは事実だからな、恩返しをしたいのは当然だと思うし、しないと罰も当たりそうだし。
……それに。
「ついたぜ、ここが時竜堂だ」
……なんとなく、ここに来れば、俺の運命が変わるような、そんな気がした。




