依頼
「お前たちに今回頼む依頼はこれだ」
バン!ッと机に叩きつけられた紙、依頼書を見てみると叩きつけられた衝撃からかそれとも元からそうだったのか所々クシャクシャで読みづらい...
「坂下先生ぇ、読みづらいー」
横で日菜子が予想通り文句を言い始めたが無視して話を始めた。
「1年3組、村瀬 和樹と1年5組、斎藤はじめの行動を監視せよ、って普通にストーカー行為だと思うですが」
「確かになぁ、確かにそうだな幸の言ってる事もよく分かる....でも今そういう話してない!っ」
バン!ッとまた机を叩くと依頼書を読んでいた日菜子がビクッと連動するように動いていた。
「先生ぇ、うるさいー」
「すまんな、先生ちょっと興奮してたな」
そういうと僕と日菜子の前に椅子を持ってきて「はぁー...」とため息をつきながら座った。この先生は会うたびにおじさん度が増してきてるような気がする...
「監視といってもお前達には入部時に渡している手帳がある、それが依頼で任務を遂行しているのならその手帳を持っている限りは罪に問われることはない、正しいことをしてるんだからな、多分」
おい、多分てなんだ。
「上からの命令でな、この2人の能力の使い方によっては日菜子の<吸収>で能力を奪い取った後に幸の<合成・分解>で能力を消す必要がある、特に村瀬 和樹の能力は厄介だ」
先生が言っている日菜子の能力<吸収>は僕と同じで特殊で世間一般で言う<吸収>とは少し違う、普通この<吸収>という能力はある一定の物体を他の空間に保持しておけるという能力なのだが日菜子の場合は相手の能力を奪うことができるという能力なのだ。だが1つしか保持しておけず2つ以上になると能力同士が共鳴しあい暴発してしまう可能性があるため禁止されている。
依頼書のプロフィールを見ると村瀬の能力は<認識阻害>のLv.5、使いようによってはとても危険な能力なのだがこの能力には穴があるのだどれだけLvが高かろうが低かろうが関係なく見つけられる。認識阻害は認識を阻害するだけであり透明化ではない、よってその阻害を無くしてしまえばなんの意味の能力になってしまう。そしてその穴をつけるのは僕の能力<合成・分解>だ、僕の能力も一般の場合とは少し異なる、いや大分異なるといい直しておこう。普通この能力は名前の通り物体と物体を混ぜあったり逆に切り離したりするのだが僕の場合は能力を混ぜたり切り離したり出来るのだ。しかし完全に人と能力を切り離すためには日菜子の<吸収>で奪って能力を簡略化した後に使う必要がある。そしてこの能力で<認識阻害>の阻害を切り離して無理やり認識できるようにすれば能力を発動していても認識できるということだ。
そして斎藤の能力は<崩壊>この箱庭都市の中で最も危険な能力だと僕は思う。この能力は自分で発動するわけではなく使用者が身に危険を感じた際に自動的に発動するものであり使用者を中心に全てを原子レベルまで粉々にするというものだ、大体のこの能力を持っている人は使用しないまま生涯を終えるのだが箱庭都市では極力排除する形になっている。僕からすればこの任務は早々に終わらせたいところだ。
「ですが先生、斎藤の<崩壊>は仕方ないとしても村瀬の<認識阻害>まで奪ってしまうのは少し気がひけるような気がします」
確かに、能力は個人の所有物のようなものだ。それを意味もなく奪ってしまうのはただの悪党にしかならない。
「そうだったな...確かー...」
坂下先生はヒゲを人差し指と親指で触り始めた。これは先生の癖で考えるときはよくこの仕草をしている。
「そうだ、 この村瀬だが盗みの常習犯らしい<認識阻害>という能力を使って盗み放題の状態だからな。要するに村瀬の後をつけ盗みを働いている現場を押さえ、現行犯で捕まえればいい、していないのであれば保留という形になる」
「分かりました。村瀬はそもそも見つけることから始めなければならないので斎藤から消化していこうと思うのですが、先生それでもいいですか?」
「その辺はお前たちに任せる、期限は3週間だ出来るだけ穏便に解決するよう頼むぞ」
「はい、日菜子行くぞ」
「んー?」
いつのまにか隣で寝ていた日菜子を起こし依頼を解決するため僕たちは学校を出た。