ダンジョン育成もの
そうだ、ダンジョンを栽培しよう。
思い立ったがなんとやら。私は手早く準備を整えると、衝動に任せて外に出る。
朝というにはずいぶん日が高くなった時刻。
一歩出るなり照りつける陽射しの厳しさに目を細めた。
今年は太陽神が月神と喧嘩中で、いっそう燃え上がっているらしい。
原因はいつもの浮気性なのだから猛省しろと思うものの、神々が奔放なのはいまさらのこと。
下々の人間にできることは、せいぜいが日傘を差して凌ぐくらいである。
てくてくとホームセンターまでたどり着くころには、私の肌はしっとりと汗にぬれていた。
耐え難い。まずは自動販売機に向かう。
こんな時はあっさりとした麦茶が欲しい。ボタンに指を伸ばしたところで冷気の精霊と目が合った。
汗だくで癒しを求める私をさも馬鹿にしたように、にたりと笑う。
そりゃあこいつは暑さとは無縁の存在でしょうよ。イラッとした思いが脳裏を駆け抜けるけど努めて無視。
こいつがいないと冷たい飲み物が手に入らないのだから仕方がない。
しかしなぜ精霊というのはどいつもこいつも煽りストなのか。種族ごと性格が悪いのだ、こいつらは。
冷えた麦茶と冷房の効いた休憩スペースがあれば、たいていの不機嫌は流れてゆく。
目的を終えたらまた自宅まで帰らないといけないのだけど、今は考えないでおこう。
人心地ついた私は、園芸コーナーへと足を運んだ。
ダンジョン栽培に必要なのはまず植木鉢と土。
植木鉢は高価なものである必要なんてないけれど、しっかりと封印の紋章がついたものを選ぶ。
ここで手を抜いてモンスターが溢れ出してきたなんて、笑い話に加わるつもりはないのだから。
あとは土、それと肥料に魔石をいくらか。これでダンジョン栽培の準備は十分だ。
隣にはダンジョン販売のコーナーもあった。さすが人気商品、ちょうどいいので種も見繕う。
植えるダンジョンはオーソドックスな地下迷宮型にした。
派手さはないけれど、こじんまりとした可愛らしさがある。と思っている。
ひいこら言いながら帰ってきたら、さっそく栽培の準備だ。
といっても大したものではない。植木鉢に土をいれ、ついでに魔石を埋めておく。
ダンジョンの大きさに関わってくるので、量は慎重に調べて決めた。
最後にダンジョンの種を埋めれば、これで完了なのだ。
ダンジョンの栽培は昨今、ブームになっている。
魔力さえあればそこそこ育つ手のかからなさと、様々な建造物を形作るところが魅力だ。
品種改良が進み、鉢植えサイズが登場したことで一躍ヒット商品に躍り出たらしい。
翌朝。鉢植えにはさっそく建物が芽吹いていた。
地下迷宮型なので地上に出てくるのは小さな入り口だけ。一日で生えたわりにやたら年季が入ったふうなのが可笑しい。
ペットのケルベロス、ケンちゃんが盛んに鼻を動かして鉢植えを調べていた。
縄張りに変なものができた…というより、なかの魔石をかぎつけたな? 餌はちゃんとあげているのだから我慢しなさい。
手を出さないようにちょっとだけ躾が必要かな。
あとは大きくなりすぎないよう気をつけながら魔石を与えていけばいい。
たまに中のモンスターが出てきたりして、季節折々の変化が楽しめるだろう。




