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本日2回目の更新です
下校時刻がやってきたので図書館を出て校門まで穂高さんと並んで歩く。
恥ずかしかったけど、あまり嫌がるのも彼女に対して失礼かと思ったし、うれしい気持ちもあった。
ところが、校門にさしかかったところで突然彼女はふらついてしまい、慌てて僕が彼女の華奢な体を抱きとめる。
「だ、大丈夫かい?」
「え、ええ。立ちくらみしただけだから」
そう言う彼女の顔は紙みたいに真っ白で、声に力はなくてとても大丈夫そうに見えなかった。
誰かを呼ぼうかと思って周囲をすばやく見回してみたものの、運悪く通りがかる人がいなかった。
精いっぱい声を張りあげようと大きく息を吸い込んだのを感じ取ったのか、彼女は弱弱しい声をあげた。
「ま、待って。すぐに立てるから」
そう言いながらかろうじて立ち上がったのだけど、やはり見ていて危なっかしい。
「本当に大丈夫かい? 誰か呼んだほうが」
ふらついている彼女に言うと、彼女は首を横に振る。
「校門のところに母が迎えに来てくれているから、そこまで行けば大丈夫」
言われてみて確かに迎えが来ていたなと思い出す。
今日も来ているのなら、家の人に任せてしまうほうがいいかもしれない。
少なくとも彼女はそう思っているし、反対する理由も思い浮かばなかった。
「分かったよ。とりあえず捕まって。連れて行くから」
だからと言って黙って見送るなんてできなかった。
彼女に肩を貸しながらゆっくりと歩き出す。
「ありがとう。ごめんなさい」
彼女はうつむきながら小さな声で言った。
「気にしなくていいよ。困った時はお互いさまなんだから」
彼女のぬくもりやほのかに香るシャンプーの匂いに内心どぎまぎしていたのだけど、態度に出さないように必死だった。
そのせいで声が若干おかしくなってしまったものの、彼女は気づいていなかったようだ。
本当に具合が悪くてそれどころではないようだ。
何とか校門をくぐると、大きな足音を立てて彼女の母親らしき女性が駆け寄ってきた。
「摩耶!」
彼女の母親の必死の形相に僕は気圧されてしまい、いろいろと考えていた説明の言葉が一言も出てこなかった。
それでも彼女の母親は状況を理解したのだろう。
こちらを見ながら口を開いた。
「摩耶の友達かしら? ごめんなさいね。どうもありがとう」
早口に言うと、奪うように穂高さんの体を抱き寄せた。
「いえ」
奇妙な印象を持ったものの、何をどう言えばいいのか分からない。
そもそも今の穂高さんは一刻も早く休ませたほうがいいとしか思えなかったので、何も言うことができなかった。
彼女の母親は彼女を手慣れた様子で後部座席に乗せ、すぐに車を出す。
僕はそれを黙って見送ったあと、ゆっくりと帰路についた。
目の前でクラスメートの女子が倒れそうになるという事態が、まだ非現実的なものな気がしながら。
家に帰った僕を出迎えてくれた母は、怪訝そうに全身をじろじろと見ながら言った。
「今日もまた変な顔をしているわね。神隠しにでもあった?」
驚くような事態に遭遇したという意味では見当外れではない。
この人はエスパーなのかと内心舌を巻いた。
「そんなわけないじゃないか」
もちろんしっかりと否定することを忘れなかった。
「ふうん。ちゃんと手洗いとうがいをしなさいよ」
母はそれだけ言うと台所へ姿を消した。
僕に興味があるのかないのかよく分からない言動をする人だ。
言われた通り手洗いうがいをしっかりやり、部屋に鞄を置いて服も着替えた。
いつもなら宿題に取りかかるところなんだけど、今日はとてもそんな気分になれなかった。
何も今すぐ宿題をしなきゃいけないわけではないと自分に言い聞かせて、階段を下りて台所に足を踏み入れた。
「あれ? 宿題は?」
夕飯の支度をはじめていた母が、振り向きもせずに声をかけてきた。
気配で分かったと言うなら、忍者か何かなのかこの人。
思っても言葉にする気にはなれず、馬鹿正直に答えた。
「先に何か食べたくてね」
「別にいいけど、夕飯ちゃんと食べられる?」
包丁で食材を切っている音とともに投げかけられた質問にちょっと困った。
今日に関してはあまり自信がなかったからだ。
強がって失敗したら後が怖いので、本当のことを正直に打ち明けた。
「ごめん、今日は分からない」
「じゃあ我慢しなさい」
「うん」
我慢できずにだだをこねるような年でもないから、何も言い返すことができなかった。
お茶だけ飲むと部屋に戻り、ベッドの上に仰向けになりながらぼんやりと穂高さんのことを考えた。
彼女はてっきり体が弱いのだとばかり思っていたのだけど、何か病気でも抱えているのだろうか。
あるいは何かの病気が治ったものの、まだ本調子ではないとか。
あれこれと考えてみたのだけど、他にもっともらしいことは何も思いつかなかった。
学校に通ってもいいくらいなのだから、そんなに深刻じゃないのではないかという気はするのだけど……。
もしあり得るとすれば後者だろうか。
四月だけで数回も休むような状態で、学校に来てもいいという許可を医者が出すとは思えなかった。
それだったらまだまだ本調子ではないけども、状態次第では通ってもいいほうがずっと現実的じゃないだろうか。
だから穂高さんは学校に来ているのだし、まだ心配だからお母さんが毎日車で迎えにきているのだ。
我ながら矛盾がない、もっともらしい答えではないだろうか。
自分なりに結論を出せたところで少しだけホッとした。
訳が分からない展開だったから軽くパニックになっていたのだと思う。
それも正しいかどうか分からない説明でも、思いつけば案外と冷静さって戻ってくるものなのだなと感じた。
分からないからこそ怖いし不安だったということだろうか。
そんな風に自分自身のことを分析してみた。
少しずつ落ち着いてきてみれば、何もせずにじっと天井をながめているだけというのも何だか落ち着かなかった。
明日の宿題くらいはやっておこうかな。
すっかり習慣になってしまっているのか、宿題をまだ始めていないというのも何だか気味が悪かった。
今日の復習はどうしようかと少し迷った。
とりあえず明日の分を終えてから考えようと思い、先にやってしまった。
終わったと思うとすっと胃のあたりが軽くなった気がした。
晩ご飯を食べに行くと、母に「顔色が良くなったね」と言われた。
「そうかな?」と返したものの、内心この人に隠しごとをするなんて絶望的なんじゃないだろうかと思った。




