9話 一報
そのあと少し話を続け、別れの挨拶をした。念のため、香名子にはその日のことは言わないようにとお願いしておいた。気づけばもう正午を過ぎていたので近くのハンバーガー店で食事をすることにした。
「なんかだいぶ見えてきたな。Emotionとやらについて。」
コーラをすすり、メモ帳を見ながら奏也が言った。ずっと考え事をしていた太一も同調した。
「そうだね、どうやらEmotionというのは人の感情に起因して生まれ、人の意識までも取り込んでしまう。そしてある特殊な人間にはその姿が見える。」
二人はチラッと志吹の方を見た。
「じゃあ、俺・・っていうかこの八森っつうのが倒さなかったらどうなってたんだ?」
「それは分からない。生野さんの場合は君が倒したからあんな風に元気になれたのかもしれないね。」
太一は続けた。
「ただ、もしお前に出会わなかったらあのままだったかもしれないし、Emotionに飲み込まれていたかもしれない。だが、妙な点もある、君のお母さんが君の存在に気づかなかったところだ。」
太一は意見を求めるように志吹の方を見た。
「まあ、でもあの時は結構暗かったからな。気が付かなくても不思議ではなかったかもな。」
3人は神妙な面持ちだった。
「あぁぁぁ!まだ調査が必要かぁ!俺の人生計画がぁ!」
奏也はそう言って手で頭をくしゃくしゃにした。
「お前が首突っ込んできたんだろっ!」
志吹はムスッとした表情で反論した。
「冗談、冗談♪ま、そこらへんブラブラしてみようぜ。また怪しいのがいるかもだぜ。」
結局3人は奏也の意見にのり、ハンバーガーを食べ終えた後町中をブラブラとしてみたが特に有力なものは見つからなかった。日も暮れ始めたのでその日はお開きになった。面倒くさいことになりそうだな、と憂鬱に思う志吹とは対照的に二人はどこか楽しそうだった。
志吹と別れ、長い影をぶら下げながら二人で歩いている彼らの背中を見ながら苦笑いするしかなかった。
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「実験は成功か?」
「まあ、少し修正が必要ですね。持久力に欠けるようです。」
「私はをあまり待たせるなよ。気は短い方なんでね。」
「分かってますよ。まあ、あいつらには世話になりませんよ。僕がすべて片をつけてみせますよ。」
「ふん。せいぜい結果を出すんだな。」
「ええ、すぐに見せて差し上げますよ。私の傑作でね!」
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「志吹!かなりレアな情報を手に入れたんだけどぉ・・聞きたい?」
奏也がニヤニヤしながら志吹のもとへ近づいてきた。
あれから数週間たったが志吹の身には特に何も起きていないし八森もあれ以来姿を現さない。一見、平穏な生活に戻ったようだったが、志吹はいつまた危険な目に合うのだろう、とビクビクしていた。そんな志吹を尻目に奏也と志吹の二人はどこか楽しそうだった。太一はなぜか不穏な気配を察知できるのだが、それをコンピュータに応用できないか苦心しているようだ。一方、奏也は情報収集に躍起になっている。現に今もレアな情報を手に入れたらしく志吹のところへ報告しに来ているところだ。
「なんだよレアな情報って。」
志吹はいつものようにムスッとした態度で応対した。
「それがな~最近、東花町に変な女の子がいるらしいんだ。夜一人でぶらついてるらしいんだが、誰かとしゃべったり急に現れたりやたら変な噂が絶えない。」
「なんだそれ?ただ狂ったやつなんじゃないのか?」
「それがそうでもないみたいなんだよ。最初は周りの奴も相手にしなかったらしいんだけど奴の周りに人が倒れてたとかを見た人が多くなったんだとよ。それからはもう恐れるのなんのって。」
「胡散臭っ。それほんとなのか?たまたまだろ。」
志吹はあきれ顔でそう答えた。しかし、現に自分もそういう目に遭ったのでその女の子には興味があった。
「その話僕も聞いたことあるよ。確か神谷志穂とかいう名前だったよ。僕のパソコン仲間も騒いでた。」
そう口をはさんできたのは太一だった。奏也はたまに情報を持ったりすることもあるが太一はいつも正確な情報を供給してくれるため志吹も頼りにしていた。
「ふ~ん。まあ太一が言うならちょっと行ってみるか。東花町に。」
「なんで太一はすぐに信じんだよぉ!」
奏也はすぐにツッコんだ。
「普段の行いを顧みろ、お前は。」
志吹はそう言って奏也を一蹴した。