7話 向
帰りはパトカーで送ってもらった。なんだか悪いことをしたようで居心地が悪かった。
「そういえば、あの人の家族の人たち来なかったわね。」
香名子が志吹に問いかけた。そういえばそうだな、と思っていた志吹は何か引っかかる節があったので運転手の警察官に聞いた。
「あの人最近何かあったんですか?」
警察官は運転の傍ら答えた。
「あぁ、家族の方たちが事故で亡くなったらしいですよ。奥さんと子供2人。で、あの人だけ助かったんです。ついこの前のことだからよく覚えてますよ。」
「まあ、そうなの・・」
香名子は沈痛な表情をしていた。だがその時も志吹はあの出来事について考えていた。
(それが八森が言ってたEmotionが現れた原因なのか・・・)
志吹はそっと腕のあざを見た。それは不気味なくらい静かだった。
次の日も氷点下の寒い朝だった。前日の出来事が夢のように思えた。前日の晩の帰りが遅かったが、幸いその日は休日だった。朝食をすませ、服を着替えた。
「じゃあ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。お昼は?」
「適当に食べる。」
志吹は友達と遊ぶという名目で出かけたが、向かうのはあの病院である。昨日のことについて聞き出そうと思っていた。
「よしっ。」
志吹はそう一言つぶやいた。
「何がよしなのかい?」
「僕もジェットコースター乗りたいなぁ♪」
志吹の後ろから耳慣れた太一と奏也の声が聞こえてきた。
「お、お前ら! いつからいんだよ!あと遊園地なんて行かねぇぞ!!」
「つれないね。さきに話を持ち掛けたのは君だぞ。」
「そうそう!人の興味をそそっておいて一人で解決させようなんて言語道断!」
二人は志吹をやり込めるようにそう言った。
「それはそうだけど・・・ってか奏也は・・!」
「まあまあまあ!で、昨日なんかあったんだろ?隈できてるぜ。」
奏也に指摘された通り昨晩はあまり眠れなかった。だから香名子ともあまり顔を合わせまい、とこの日に出かけることにしたのだ。香名子に心配はかけたくなかった。
どうせ隠し切れないことは分かっていたので又もや包み隠さず話した。たいていの人なら信じないような話や恐れをなすようなところでも二人は真剣に聞いていた。特に奏也のメモの取りようはさながら刑事のようだ。昨日と言い今日と言い犯罪者のような気分だった。話の流れから言って腕のあざにも言及した。2人は重要参考物とばかりに食い入るようにそれを見た。三年間南夜高で過ごしてきたが、この2人が一番信頼がおけるし、何より頼りになる。
話し終わった後も少し話の内容を咀嚼しているようだった。
「ふむふむ。で、そのラーメン野郎のとこに今から向かうわけだな。」
奏也がいつもの調子でそう言った。
「まあそうなるな。でもラーメン野郎はやめろ。」
「では、その小便は座ってする派野郎のところに今から行くんだね?」
「いや、そうはならんだろ。どっからでてきたその設定。」
一瞬真面目になったかと思うとまたすぐにいつもの調子に戻る。それもまたいつものことだった。