3話 学校
「はぁぁぁぁ・・・」
と席に着いた志吹は教室内に響き渡るような大きなため息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁ・・・」
ともう一度大きなため息をつく。
「ねぇ、気にならないの?」
「僕に気にしてほしいというのは嫌というほど分かる。実際この教室には君と僕しかいないしかも隣同士だ。僕が気にしなければ君は悩みのはけ口が無くなってしまう。故に君に問う。どうしたんだい?」
志吹はこの巻太一という男の嫌というほど長い返事にムスッとしていた。太一は志吹と同じ夜間学校に通っている同級生である。この夜間学校の理念に感ずるものがあったらしくここに入ってきた変人である。昨今、夜間学校というものはブームになっている。教育の多様化が政府の方針で決められてから筆記試験だけによる入試制度というものはなくなりつつあり、自分の長所を見つけ、武器にする、言うなれば「尖がらせ」教育というものが主流になっている。その中で授業時間も一種の多様の側面となっている。この夜間学校は「南雲夜間高等学校」と呼ばれている。ただ単に南雲町に校舎があるからだ。近隣住民からは略して「南夜高」と呼ばれている。理念は「意志ある自由」というものである。意味としては目的を持つ者に対し自由と下足入れを与える、というちょっとユーモアに失敗したようなものであるらしい。また午前も学校は解放され図書館や体育館、教室などは地元住民も利用することができ、地元住民からの評判も高い。
太一とは4月から同じクラスになった。学校の方針として色んな人と関わらせたいようで、クラス活動も豊富だ。思わぬ出会いや気づきを生徒に実感してほしいようだ。そんな学校に通う志吹は武術について研究したりしている。週何回か武術の練習をしたりしているが、実践はからっきしである。だが、香名子を守りたいという思いが志吹を動かしているようだ。一方、太一はパソコンのプログラミングを学んでいる。しゃべり方に反して眼鏡はかけておらず、目がクリッとして可愛らしい顔立ちをしている将来エンジニアになりたいそうだが、それが起因してか恐ろしく理屈っぽい人間となってしまったようだ。
「もうちょっと短くまとめられないかな?」
「そうだね、考えておくよ。」
「おぃぃ!それは絶対考えないパターンだろっ!行けたら行くパターンだろっ!」
「君も不思議な奴だね。悩んでいるのかそうでないのかよく分からないよ。テンションコントロールを忘れた未知の人種だね。」
志吹はまたムスッとした形相を呈した。
「なんでもねぇよ。」
「そうですか、これは僕の独り言なんだけど最近何か気味の悪いものに出会うことがあるんだ。あくまで独り言だけどね。」
志吹はハッとした。
「もしかしてなんか見えてるのか?」
「いや見えはしないよ。ただ異質な人間に敏感に反応することが多くなったね。」
「じゃあ、俺から何か感じるか?」
「そうだね・・・考えておくよ。」
と言う彼の目は少し泳いでいた。
「感じてるんだな!!なんか感じてんだな!!」
「ははっ・・」
ひきっつた顔で笑みを浮かべる太一にかみついた。
「ごまかすなぁ~!!」
と太一の肩を掴み大きく揺らした。
「おい、お前ら何してんだよっ♪」
後ろから城石奏也が声をかけてきた。奏也は太一と同じく4月から志吹と同じクラスになった。小柄で茶髪のお調子者でたまによく分からないツッコミをするかなり変わったやつである。オカルト好きなところがあり、学校でも超常現象について研究している。また、尾行や探偵にも興味があるというなんとも物好きなやつである。
「奏也くん、助けて。彼に手籠めにされてる。」
と太一は少し頬を染めた。
「ええ!?志吹にそんな趣味が!?」
「ちげぇぇよ!!」
「そんなことより授業はじまっぞ。」
「あぁ、もうそんな時間か。」
三人は会話を打ち切り、そそくさと席に着いた。教室の窓から見える木々は北風にた揺られ、ざわざわと不気味な音を立てていた。