11話 引留
ー俺はまだ人を守れないのか・・・?奏也が死ぬ・・・人を守れない・・・そんなの嫌なんだ!!
「や、やめろぉぉぉ!!!」
そう叫ぶと志吹の姿は一変した。まるでトカゲが志吹の体をかたどっているようだった。恐らく志吹の中の八森が現れてきたのだろう。どうにか顔だけは確認できた。だが、意識は無いようだった。その顔もだんだん覆われてきていた。
「ちっ、覚醒したか。鎮まれ!!」
神谷志穂は奏也から手を放し、志吹の方へ手を向けた。神谷志穂の手からは星形の何かが現れ、志吹の体を覆いこもうとしていた。しかし、オーラのようなものにはじき返されてしまった。相当な力を秘めているようだった。
「なんで・・うちの封印が効かないの・・・?」
神谷志穂はそう言い、呆然としていた。
「志吹!志吹!!」
太一と奏也は志吹に向かい叫んだ。
「無駄だ。こいつは帰ってこない。意識が飲み込まれてる。うちの封印も効かないんだぞ。お前らに・・・お前らに何ができる!!!」
神谷志穂は二人にそう叫んだ。すると太一は答えた。
「なぜ僕が彼を助けているのか。それは彼が僕を信頼しているからだ。僕の勘違いかもしれない。けど・・・僕はそう思ってるから。・・・裏切れない。」
「僕もそんな感じかな。」
そう言うと二人はその後も必死に志吹に呼びかけた。すると神谷志穂は踵を返し走り去ってしまった。
「わかんねぇよ・・・。わかんねぇよぉ!!!」
彼女の叫びが狭い路地裏に響いた。
(太一・・・奏也・・・・俺を迎えに来たのか・・・?待って今行くから・・・手を伸ばすから・・・ちゃんと握ってくれよ・・・?)
志吹はゆっくり目を開いた。気が付くと二人の左手を握っていた。二人は志吹が目覚めたのに気づき笑みをこぼした。
「おぉ!目覚めたか!心配したぞ!」
奏也はうれしそうにそう言った。
「まあ、一安心だね。」
太一は相変わらずだった。志吹は何が起きたのかよく覚えていなかった。ただ、両手で二人の左手を握っているだけだった。
「お前ら・・・・左手、・・・お箸の手じゃねぇのか・・・」
二人は顔を見合わせ少し笑っているように見えた。
ーまた守られた・・・。
あの後すぐに南雲町の方へ帰ってきた。電車の中では皆、終始無言だった。東花町での出来事を引きずっているようだった。だがそれも無理はなかった。あんなとんでもない奴と対面してしまったのだから。だからこそ自分が守らなければならなかった。二人が覚悟を決めていたのは分かっていた。そういうやつらなのだ。なのに自分は何もできなかったそれどころか暴走しかけたらしい。あのときのことはよく覚えていなかった。ただ頭が誰かに乗っ取られるようだった。恐らく八森だろう。どうやら自分はとんでもないものを飼っているようだ。




