10話 震
東花町は南雲町の隣の町である。電車で10分ほどのところにあり、南雲町と比べると都会である。大型のショッピングセンターがありマンションがあちこちに聳え立ち、さらにまた新たなマンションや商業施設の建設の工事が進められている。今回も例によって3人でその東花町を訪れることとなった。
「やっぱ都会だねぇ~。うんうん。」
奏也は電車から外を眺め感嘆の声をあげていた。太一も外の景色を見ていた。一方、志吹はまたあんな目に遭うかもしれないと思うとそんな余裕もなかった。
しばらく電車に揺られ、神谷志穂がいると言われる場所の最寄り駅で降りた。その辺りはあまり都会という感じでもなく町のはずれであった。
「おー着いた着いた。えっと・・・目撃情報は駅から直線500mほど行ったあたりの路地裏で多いとかなんとか。」
「おいおい。大丈夫なのか路地裏って?ぼこぼこにされちまうよ。」
志吹はそう文句を垂れた。被害に遭うのは自分なのに、とつくづく感じていた。
「君はビビっているのかい?僕は平気だよ。いざとなれば化学室から拝借したこの液体で・・・」
そう言いながら太一は怪しい色をした液体の入った瓶を取り出した。
「おい、それいいのか?」
志吹は苦笑いしながら尋ねたが、太一は親指をグッと突き上げるだけだった。
駅から歩きながら路地裏という路地裏を見て回った。怪しい雰囲気はするのだが例の少女はいなかった。
「いないな~。上手くいかないねぇ~。」
奏也はそう言うと路地裏でしゃがみ込んでしまった。志吹もさすがに疲れたのかしゃがみ込んだ。すると太一はポケットの中からレーダーのようなものを取り出した。
「なんだそれ?」
志吹は尋ねた。
「うん、僕の感知の能力を機械にプログラムしてみたんだが、それの反応を見るものだ。まだ試作品だけどね。」
志吹は目を丸くし驚いていた。パソコンのことに関してはてんで素人だが太一のすごさはすぐに分かった。レーダーを確認すると太一はニヤッと笑った。
「どうしたんだ?」
「いや、なんてことはない。ただ・・・僕の作った機械が全て潰されてる。」
そう言うと何かを感知したように太一の顔が急に青ざめた。
「・・来る!」
太一がそう言った瞬間だった。
「みぃつけた。こんなとこで何してんの?・・・呪っちゃうよ?」
現れたのは金髪の女だった。見るからに高校生程で恐らく例の神谷志穂だった。志吹は生野と会ったときよりもはるかに強い力を感じ、鳥肌が立った。
「君が神谷志穂か?」
震えを抑え太一は聞いた。
「だったら?」
そう言うと神谷志穂はゆっくり近づいてきた。
「あんたらはうちには勝てないよ。あんたとそこの奴はちょっと特殊みたいだけどね。」
そう言いながら太一と志吹の方を見た。どうやら一瞬で感づいたようだ。
「君たち、下がれ。」
太一はそう言うとズボンの右ポケットからさっきの液体の入った瓶を取り出した。しかし、突然その瓶は太一の手から飛んでいった。そしてあろうことか突然、太一は尻もちをついた。
「そういうの効かないから。」
神谷志穂は指を太一の方に向けていた。どうやらそういう能力が備わっているらしい。
志吹は恐怖でなにも言えなかった。
「ま、待て!こいつらは俺が連れてきた!やるなら俺をやれ!!」
震えながらも奏也は必死で叫んだ。
「ふーん。じゃああんたからでいいわ。」
神谷志穂はすっと奏也の方へ近づき、奏也のおでこに人差し指をおき、志吹の方を見て言った。
「さようなら、お友達。」




