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乳児は辛いよ 5

更新遅くてすみません。

ぽつぽつですが再開していきます。

 何でこんなことになっているのか。

 現在、私は無言のにらめっこ中です……お父様と。



 実はお父様は1週間に2~3回ほどは私の様子を見に来ている。頻度で言えばお母様よりも実は多いかもしれない。

 でも本当に見に来るだけっていうか、扉越しとかからちらっと私が生きているか死んでいるか確認するっていった感じで、5分もその場にいないことが大抵だった。

 体力不足な私が起きてる時に来るとも限らないので、顔さえ見ないことだって多い。

 寂しくはあるんだけどそういうものかと思っていたので、本日お昼寝から目覚めてベッドの傍らに立ち上からじっと私を覗き込んでくるお父様を見つけた時は、思わず驚きでびくっと体を跳ねさせた後に固まってしまった。

 跳ねる心臓に落ち着けと念じて……無駄な動揺は私の体には良くない……とりあえず何となくじぃっとシトリンみたいな色のお父様の目を見つめ返す。

 えーと……どうするべきなんだろう。

 すでににらめっこは3分以上続いていた。何となくそらしたら負けな気がしてそのままだったんだけど、疲れてきたので負けてもいいかとも思い始めている。

 とりあえず元日本人の悪習としてにへらっと愛想笑いを浮かべてみた。

「……!」

 なんだかお父様が非常にびっくりしたような顔をする。なぜだ。

「とーた?」

 意を決して呼びかけてみる。あ、そういえば最近やっと単語の言葉が喋れるようになりました。鼻にかかったような声で舌もぜんぜん回ってないけど。単語もいくつか覚えられたのしかわかんないし。

 ちなみにお母様は「かーた」です。お母様にそう呼んだらボロ泣きされました。なぜだ。

「とーた……?」

 何のことか分からないようでお父様が私の言葉を繰り返して首を傾げる。

 なのでお父様に向かって両手を伸ばしてもう一度「とーた!」と呼ぶ。

 ついでなので抱っこしてよ。ねっころがりっぱなしって結構体が痛いんだ。私のお気に入りは縦だっこです。

 オネダリを叶えてもらうべく愛想を振りまいてにっこりと笑ってみせる。

「私……のことか?」

「あーう」

 お父様がようやく思い至ったように、そして二度目のびっくりしたような顔をする。

 そうですよお父様、はやくだっこー。

 一向に伸ばされない手に体を揺すってぐずる声を上げると、お父様の体がびくりと震えて一歩後ずさる。


 その時、お父様の顔を見て、あ、そうかと思った。

 だって一瞬浮かんだ表情は私のお世話をしてくれる使用人の人と同じだったから。

 だからお父様は……私が恐いんだって、分かってしまった。


 浮かべていた笑顔が抜け落ちる。

 私が持ち上げていた行き場の無い手をベッドの上に下ろしたのと同時に階段を慌てて下りてくる音がして、部屋の扉が開いた。

「――アンディ!」

「――アドナ?」

 軽く息を切らせて飛び込んでくるように部屋に入ってきたお母様に私もお父様もびっくりした。

 お父様とお母様はお互いの愛称を呼びながらも表情は和やかではない。

 不安そうな表情でお父様と私を交互に見てから、お母様は意識したようなぎこちない笑みを浮かべて私に近づこうと足を踏み出す。

「1人でミーシャに会いに来るなんてずるいわ、アンディ。私も混ぜてちょうだい」

 お父様の脇をすり抜けようとしたお母様だったけれど、あっけに取られていたお父様が我に返って慌ててお母様の細い腕を掴んで動きを止めさせる。

「アドナ!やめろ、ここには来るなって言っただろう!」

「大丈夫よ。ミーシャはすごく賢いし、最近は癇癪もあんまり起こさないもの」

「まだ分別もついてない赤ん坊だ!この間だって大怪我していただろう!」

 必死にお母様を止めようとするお父様に、お母様が振り返って静かに怒ったような声で問いかける。

「そう思うなら貴方はどうしてミーシャに会いに来たの?」

「それは……」

 何かを責めるようなお母様の問いかけにお父様の視線が言い訳を探すように揺れて、結局言葉にならずに私とお母様に顔を背けた。

 そんなお父様を見ているお母様の瞳が宿すのは苛立ちと……哀しみ?

 長い沈黙の後、お父様が切なそうにお母様に視線を戻す。

「私は……アドナを愛しているだけだ」

「知っているわ。私も貴方を愛している。そして、ミーシャのこともね」

 苦しそうに絞り出すような声でお母様への愛を告げるお父様に、お母様は溜息をついて悲しそうに微笑んだ。

 そしてお父様に掴まれていた腕を外し、くるりと振り返って私の顔を覗き込むと、「ごめんなさいね、また来るわ」と囁いてちゅっと私の頬に口付ける。

 心配そうにその様子を見守っていたお父様は、再びお父様の傍に戻ったお母様の無事を確かめるようにぎゅうっと抱きしめると、お母様の肩越しに一瞬だけまた私に怯えたような視線を向けた。

 それはお母様を私から守ろうとするかのようだった。

 お父様は抱擁を解くとそのままお母様の背を押して、少し足早に2人で部屋を出て行く。

 私はその姿を悲しみと、犬も食わない何かに強制的に巻き込まれた釈然としない気持ちで見送った。

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