乳児は辛いよ 4
もぞ……もぞもぞ……とベッドの上で落ち着きなく動く乳児、現在生後6ヶ月です、こんにちは。
唐突ですが、今世での私の名前が判明しました。
いやぁ、お恥ずかしながら気にしてる余裕がないって言うか、そもそもお話する人もほとんどいないわけで、必要がなかったからすっかり忘れてたんだよね。
こっそりと会いに来るお母様が……お母様がお母様って自分のこと呼ぶからそう呼ぶことにした……今までミーシャって呼んでいたからそれが名前かと思っていたんだけど、正式にはアルテミシアらしい。お母様がメイドさんと話してたのを盗み聞きして把握した。なかなか可愛らしくて嬉しい感じ。
それはさておき、キラキラの制御です。
ようやく最近になって、少しずつ体の中の流れを動かせるようになってきました。
実際にはキラキラが流れるための導管が体の中を走っているわけではないっぽい。
でも人間……人間以外の生物を見たことがないからわからないけど……少なくとも人間には血管のように微細に分かれたキラキラの導管が体中に走っているのが私には見える。
そしてその流れは大体の部分で血の流れに添う様に作られていた。
だから私は考えたわけだ。血の流れを制御できたらキラキラも一緒に制御できないかなって。
キラキラの爆発は、私の感情の他に体の調子によっても起こりやすくなったり起こりにくくなったりする。
ということは連動しているのは感情だけじゃなくて体もってことなんじゃないかなって。
結論から言えばそれは正解だった。
例えば足にキラキラが溜まりすぎているなら、足を上に持ち上げて血を体の方に落としてやると、ゆっくりとだけどその流れにキラキラも添って動く。
胴体は寝返りを何度も繰り返して攪拌してやると多少よくなった。
なんだそれだけとか思うかもしれないけど、これが生後6ヶ月の乳幼児にとってどれくらい大変なことか分かってくれるだろうか!
何しろ腹筋なにそれ美味しいの、という自分で容易く起き上がることも出来ない乳幼児です。
足を持ち上げたくてもものすごく頑張らないといけない。足とお腹がぷるぷる震えるよー。(涙)
さらに言えば私の体はとっても貧弱です。発達が人並み?らしいのが奇跡だねってくらい。
そしてそして、この客観的に見れば無意味にうごうごもぞもぞ動いてぷるぷる手足を震わせてる状態、乳幼児だからこそ可愛くみえるかもしれないけど、ある程度大きくなってからもこういう行動って頭おかしいと思われないか心配です。
まぁ今は背に腹は変えられないっていうのと、どちらにしても体を鍛えることにもなっていいだろうということで、起きてからしばらくはこの妙なダンスというか体操というかその運動に費やしてます。
キラキラの爆発は多少起こりにくくなったけど、やっぱり大喰らい体質は治ってないので完全にはなくならない。
でもこうもベッドの住人だとやることがないから、多少の変化があるだけやりがいがあると放り投げずにキラキラの制御も続けていけてる。
そんな感じで今日もぷるぷる震えながら足を持ち上げていると、ひょいと私を覗き込むお母様の顔が。
「ミーシャ?あら、今日は元気なのね」
嬉しそうに微笑んで、いい匂いがする手でそっと私を撫でてくれる。うーん、お母様の手はどうしてこんなに気持ちいいのか。喉を鳴らして擦り寄ってしまいたくなる。
そんなご機嫌に笑う私の顔にますます笑みを深くしながら私を抱き上げて、傍の椅子に座って自分の膝の上に私を座らせた。
傍の机の上には何か数種類のお皿に磨り潰したような食べ物らしきものが入ったものが置かれている。
ま、まさかこれは……!!と思っていると「今日はちょっと違うまんまを食べてみましょうねぇ」とお母様が赤ちゃん言葉で話しかけてきた。
ひゃっほーい、離乳食!!!!
固形物、万歳!
いや、消化の問題だって分かっちゃいるけど同じ味のミルクばっかりって違う味を知っている身からすれば辛い。
「あらあら、ミーシャはくいしんぼさんねぇ」
食い気味に小さな手を離乳食に伸ばす私にお母様はちょっとびっくりしていたみたいだけど、嬉しそうな寂しそうな顔をしてスプーンを手にとって近くにあったお皿からちょっぴり中身を掬って私の口元に運んでくれる。
私は躊躇うはずもなく差し出されたスプーンに自らぱくんと食いついた。
う、うまー!!!!!
たぶん果物だと思うんだけどほんのりと甘くて瑞々しくて、私の知ってる果物だとライチに近い味。でも食感はまんますりつぶし林檎。
もごもご口の中で味わってごくんと飲み込む時の喉を滑り落ちる感覚も、食べるってこんな面白い感覚だったんだなぁって思う。
他にも野菜を煮たものとか、穀物らしきものをミルクでふやかしたものとか、夢中でお母様を急かすように食べさせてもらって綺麗に完食した。
食べられるって素晴らしい!