乳児は辛いよ 2
流血描写がちょっとあります。
苦手な人はブラウザバックお願いします。
生まれてから2ヶ月ほど経ちました。ただいま私は満身創痍です。
体中が痛いです。相変わらず一日中ぐったりとしています。
原因は異常な体の重さ。
太ったわけじゃないよ!むしろ太れるほど栄養摂取できたらいいなって思うけど!
これはねー、考えてみたんだけどたぶんキラキラの消化不良なんだろうなぁって思う。
身体には必要だけど、取り込んでもうまく身体が活用してくれていない。
だから生きようとする身体が摂取不足だと感じてより多くのキラキラを取り込もうとする。
でも実は取り込んだ分はきちんと脂肪みたいに身体に蓄えてて、過剰摂取なのに摂取不足というわけがわからない状態じゃないかって感じるようになった。
それで、このちんまい私の身体では蓄えすぎたキラキラが収まりきれないんだと思う。
だから私の中で濃縮されたキラキラが私の感情につられて放出されて、衝撃波になって周囲を破壊してしまう……という仮説に辿り着いた。わかったところで問題が解決したわけじゃないんだけど。
さらに問題なのは、この濃縮されたキラキラの破壊対象に私のちんまい身体も含まれるってことだ。
最近じゃキラキラが溢れ出すのと一緒に皮膚が裂けて、そこからもキラキラが溢れたりする。
ひび割れみたいに赤ん坊の柔肌の上を走っていく線はうっすらと光を帯びた何かの模様みたいにも見えるけど、その間ずっと絶叫して身体を引きつらせるしかない私にとってはのんびりと観賞していられるものでもない。
で、現在は真夜中です。
昼頃に力を大暴走させて、意識を失って起きたら世界はまっくらってさらに凹むよ?
それに怪我のせいかまだ溜まりまくってるキラキラのせいか、身体が熱い。熱があるのかなぁ。
もう正直、このまま死んじゃいたいってくらい苦しい。
私、どうして生まれ変わってまでこんな風に生まれたのかなぁ。
地球のお母さんやお父さんやお姉ちゃんに会いたい。ほとんど会いにも来ないあの人たちなんて家族じゃない。
こんな不自由で包帯だらけの身体で、一人ぼっちで暗い場所にどうして私はいるんだろう。
諦めて死んだら、今度はまた地球に生まれられるかなぁ……。
ぼんやりとそんなことを考えていたとき、きぃっと蝶番が擦れる音がして部屋の扉が開いた。
めったにないことなので驚いて、とっさに寝たフリをしてしまう。
うっすらと瞼越しに光が見えるから、たぶんランプが何かを手に持っているのだろうと思う。
ゆっくりと慎重にその光が近づいてきて、コトリと床に光が落ち着く。
じっと私を見つめる視線を感じて少し経つとぽつりと私の顔に雫が落ちてきて、掠れたように小さく何か囁く声がした。
意味は分からないけどひどく悲しそうなその響きにたまらずにゆっくりと瞼を押し上げる。
灯りの眩しさに数度瞬きをして明暗の順応をすると、石のベッドの縁に手をかけて私を覗き込んでいるこの身体のお母さんがいた。
そしてそのほっそりとした身体のそこかしこに包帯やガーゼで手当てされている痛々しさに驚く。
包帯には血が滲んでいて、まだ傷が新しそうだった……自分の痛みに必死で気付いてなかったけど、もしかして昼間にここにいたのかな。
私が目を開いたことに気付いて驚いたその人が瞬きをすると、目じりに溜まっていた雫がまたぽたぽたと落ちてくる。
「あーうー……?」
どうして泣いているの?
そう問いかけるように声を上げて傷だらけの小さな手をその人に伸ばす。
すると躊躇いもなくそっとその手を同じように傷だらけの手で包んでくれた。
そして私のその傷だらけの手を見てまた悲しそうに顔を歪めると涙をこぼしてさっきと同じ響きの言葉を紡ぐ。
「○×○*&+▲……」
私に涙が当たらないように何度も涙を拭いながら、手を握っていた手が離れてそっと私の頬を撫でてくる。
その姿に……何でだろう、ものすごく胸が切なくなった。
「あー……あぁううー……」
(泣かないで、お母さん)
本当に……すごくすごく自然にそう思って、伝わらない言葉でそう伝えようとしていた自分にびっくりする。
ほんのついさっき、この人なんてお母さんじゃないって思っていたはずなのに。
でも理屈じゃなくて、この人は私のお母さんなんだって……お母さんに悲しい顔をしてほしくないって思ってしまった。
たぶん、『私』の精神のお母さんは地球にいるお母さんだけど、地球のお母さんを忘れるわけじゃないけれど……『私』の身体のお母さんは確かにこの目の前のお母さんなんだ。私の心じゃなくて身体がもうそう感じてしまっている。
もう一度やりなおすために、『地球の私』そのままがここで生まれたんじゃない。
『私』は確かに『地球の私』でもあるけれど、『私』の身体は『地球の私』じゃなく『ここのお母さんのこども』として生まれて、ここで生きていくんだ。
だったらこの状況でこどものやるべきことは1つだけだ。
私は痛みと熱をこらえて表情筋に活をいれる。
「あー」
出来るだけ無邪気に見えますように、と祈りながらにっこりと笑顔を作ってきゅっとお母さんの手の指を握る。
(笑って、お母さん)
失礼なことにちょっとびっくりしたような顔をしたお母さんだったけれど、すぐに嬉しそうにふわりと柔らかそうな微笑を返してくれた。
そしてそっと私の頭を撫でながら、いつかお腹の中で聞いた歌を囁くように歌い始める。
相変わらず傷は痛いし熱はあるし身体はだるいけど……ほんの少しだけそれがマシになっていくような心地よさを感じながら、私はゆっくりと眠りに引き込まれた。ぐぅ。
私の作品を知っている方でここまで読めば、どのお話と繋がっているかうっすらと分かってしまうかもしれませんw