こんにちは、胎児です 2
おはようございます。胎内浮遊生活たぶん7ヶ月目くらい。
どうやら今度の私のお母さんは身体が丈夫でないようです。
1ヶ月ちょっとくらいの間に3回くらい倒れられて、おかげで私は胎内で強制ジェットコースター気分を味わいました。ううう……。
何にも出来ない私は手足の強化がてら、ぽこんぺこんと手足を壁に打ち付けて頑張ってねと励まします……怒って叩いてるんじゃないよ!
お母さんの体調も心配だけど、その他にも心配なことが1つあったりする。
羊水の中のキラキラが、最近なんだか少ないのだ。
私の身体はまだまだ組成途中で目がちゃんと見えているわけじゃないので実際にキラキラしているものを見ているわけじゃないんだけど、それを取り込んだ時にふわぁっとあったかくなって気持ちがウキウキする感覚をキラキラと表現している。
それが日を追うごとにそれが少なくなってきているような気がするのだ。
そうすると何となく身体が重く感じられて、動きが鈍くなってしまう。
よくわからないのだけど、たぶんこれがまったくなくなったら私は本当に動けなくなるような気がして恐いのだ。
栄養分なのかなぁ。少なくとも私の知っている赤ちゃんの知識にこういったことはなかったので、もしかしたら異世界転生とかいうやつなのかもしれない。
そう思うのはお母さんやお父さんの言葉がまったくきいたこともない言語なせいもある。
まぁ、私が物知らずだったりまだ解明されていない神秘の事実だったりする可能性だってあるけど。
とりあえずお母さんがんばれー!栄養いっぱい取って、私に回して下さい。
とりあえず体力温存のため、私は寝ます。もともとそんなにいっぱい考えていられるほど体が出来ていないしね。おやすみなさい。ぐぅ。
胎内浮遊……そろそろ浮遊とか言ってられなくなってきた!……生活たぶん8ヶ月目くらい。
きつい!動きづらい~!
ぐにゅぐにゅ動いてみてもすぐそばに子宮の壁があって自由に動けない。
まだ少し動くスペースはあるけど、これからまだ狭くなると思うと今からうんざりする。
そしてあんまり動けない理由は他にもある。
本格的にキラキラが少なくなってきたのだ。
発達してきた感覚で外界を探ると、それに伴ってお母さんが寝たきりになってしまったような様子だった。
生まれてもいないうちからすでに生存の分かれ目です、過酷な人生ありがとうございます。
そして外の声がよく聞こえるようになってきたせいもあるけど、ますます外が騒がしくなってきている気がする。
時々お父さんらしき人やその他の誰かとお母さんが何かケンカしているようで、お母さんがよく泣いている気配がする。
繊細らしい妊婦をこれほど悲しませるとは、今度の私のお父さんはまったくしょうがない人だな!とプリプリと怒ったりしながらも、実際はとても不安で恐い。
外が穏やかでないと私もどんどん不安になる。
たまに怒鳴り声とか聞こえて、そうするとびくっと身体が震えて涙がこぼれる感覚があった。
何とかやってきたけど、お母さんが寝たきりになってキラキラだけでなく普通の栄養も足りなくなってきているような気がする。
何となく身体がうまく成長できていないって気がするのだ。
今度の私は何か欠陥を持って生まれてしまうんだろうか。
もしかしたらこのまま生まれられずに死んでしまうのかもしれない。
身体がとても重い。不安で悲しくて羊水の中でボロボロと涙を流した。
そうするとお母さんが何か感じ取ったのか、ゆっくりとお腹を撫でながら小さな囁くような声で何かの歌を歌ってくれる。
相変わらず言葉はさっぱり分からないけど、大丈夫だよって宥めてくれているのはちゃんと分かる。
今度のお父さんは分からないけど少なくとも今度のお母さんはいい人っぽい。
自分もたぶん身体がしんどいのだと思うのだけど、ちゃんと生まれもしていない私に愛情を分け与えてくれる。
うん、頑張るよ。でもやっぱりしんどいからまた眠ります。ぐぅ。
胎内生活……もう浮遊していられる隙間なんてないよ!……9ヶ月経ったくらいかな。
本格的にきついです。動けない。ぎちぎちと身体が拘束されるような気がする。
でもこれに慣れると本当に柔らかいものでぎゅーっと包み込まれているので結構安心するかもしれない。うーんヤバイ趣味に目覚めそう。
とか冗談(冗談だからね?)はさておき。
本格的にまずいです。ほとんどキラキラがない。
苦しくていけないって分かってても暴れてしまう。
そのたびにお母さんが苦しそうって分かってるんだけど、苦しいものは苦しいのでしょうがない!
せまい、苦しい、辛い……そんなのがもう何日も続いていて、私は限界だった。
もういやだー!どうしかしてよバカー!!
そんな気持ちで思い切りがつんとお腹を蹴りつけると、びくりと胎内が震えてざぁっと周囲から羊水が引いていった。
……あれ?
とか思っているうちにぎゅうっと壁がさらに狭くなった。
ぎゃー!私やっちゃった!?とか思ったけどそんなのは後の祭り。
外であわてる気配を感じ取れたのも僅かな間のことで、あとはもう自分のことで必死だった。
ぎゅーぎゅーと今まで以上に締め付けられて痛いし苦しい!!
やめてー、押さないでー!って声にならない声で叫ぶ。
呼吸も苦しい。羊水が全部抜けてしまって、たぶんお腹に繋がってるんだろうなぁって感覚があるへその緒からも酸素供給が少ない。
たぶん出産に入ったんだろうけど、どう考えてもたぶん早産だと思う。
とか実際には考えてる暇もない。ぐりぐりと頭を狭い道に押し込まれて、痛くてしょうがない。
頭が歪むような不快さ(たぶん本当に歪んでるんだろうけど)と息苦しさが永遠かと思うような間続く。
たぶん外も大騒ぎだったんだろうけど、この時はそれをうかがってるような余裕なんて全くなかったよ!
ああ、もうだめかもしれない。
でも、でも……私は生まれたい!!
そんな一心で最後の力を振り絞ってぐっと身体を押し出すと、ずるんと狭い道から抜け出す感覚の後に自由になったのを知る。
え、やった?私やったの?
一瞬ぽかんとしてからうぉおおおおおっ!!てよくわかんない達成感とかしんどかったよーって気持ちとかが湧き上がって、初めて空気を吸い込んで精一杯の泣き声を上げた……。
「――ふにゃああああああん!!」
と、同時に。
パリーン!ガタガタガタッ!!と音を立てて寝台の傍にあった花瓶が割れて、家具が地震かと思うくらい揺れた。
……あれ?
さっそく感想ありがとうございます。
出来るだけ書いた分はさっさと投稿していきます。