こんにちは、胎児です 1
人間、死ぬ時って走馬灯が走るとか色々言うけど。
私に限って言えば、そんなもの何もなかったですよ?
覚えているのは大きなトラックが私の目の前に突っ込んできたこと。
たぶんひかれて即死だったんだろうなぁって思うけど、ひかれた際の衝撃さえも覚えていない。
激しく全身の神経を損傷して痛覚がお釈迦になったか、脳みそが感覚の処理に追い付けないうちに死んじゃったか、どっちか分からないけど後で思ったのは、世に言うお年寄り達が言うように苦しまずポックリ死ねたのは良かったのかもしれないってこと。畳の上でとまではいけなかったけど。
それで、気がつけば真っ暗で温かくて何か色んな液体が管の中をドクドク走るような音がするところにいた。
自分の周囲にあるのも暖かな水で、温泉に浸かっているような温度は心地いいけれど、なにぶん狭いし暗いしうるさい。
ひとつひとつはそんなに大きな音じゃないんだろうけど、いくつも重なってすぐ傍で鳴っていると結構うるさいって思った。
温かい水の中をふよふよと漂いながらここはどこだろうってすごく不安になる。
なんとか脱出を試みようと思ってできるだけ壁っぽいところに近づいて手を伸ばしてみるんだけど、なんだか手がうまく動かない。
脚もなんか変な感覚!すごく感覚が鈍くて、あるのかどうかも分からない。
それよりも息!ずっと水の中だけど息が続くの私!?
口を開いたらぬるい水が肺の中を通っていくのがなんだか気持ち悪い!
え、溺死!?交通事故死だと思ったらまさかの溺死ですか!?
とか思ってたんだけど、意外に苦しくないし慣れたら気持ち悪いのも感じなくなった。
不思議とその水を飲むと身体に力が溜まっていくのが分かった。
よくよく意識を凝らしてみると、水の中でキラキラした光の粒みたいなのが漂っている。
それを水と一緒に飲み込むと元気が出るみたい。
それが分かってあむあむといくらか水を飲んでいると、色々と考えて疲れて眠たくなってきた。
とりあえず危険はなさそうだし、抗いがたい眠気に負けて眠ってしまった。ぐぅ。
そして再びおはようございます。
てか、眠って起きてを何度か繰り返した後なんですが。
その間に分かったんだけどどうやら私は転生して、さらに現在胎児のようです。
新生児から始まる転生物語!ってよくあるけど胎児から始まる転生物語!ってちょっと斬新じゃない?とか思いつつ胎内浮遊生活、?日目。
なんで自分が胎児だって判ったかって言うと、外(たぶんお母さんのお腹の外ね)からうっすらと声が聴こえてきたから。
ほら、よく妊娠中の両親がよくやるお腹に向かって話しかけるっていうアレです。
言葉自体は分からなかったけど、なんか宥めるようなあったかい調子でほんわりと嬉しくなった。
憶測だけど、たぶん私は妊娠5ヶ月をすぎたくらいじゃないかなぁって思う。
死ぬ前にグー○ル先生に何となくきいた話だけど、胎児が羊水を活発に飲み始めたり意識が芽生えたりするのが5ヶ月目からだとかなんとか。
何度か動かしているうちに手足の感覚がだんだんと掴めて来た。
それである日、ぽこんと柔らかい壁を蹴ってみたわけだ。
そしたら壁の外でなんか大はしゃぎする気配がして、例の声が聞こえてきたわけですよ。
確定じゃないけど伺う限りは両親は獣とかじゃなさそうでほっとする。
もふもふは自分が愛でるものであって自分が愛でられるものじゃないと私は思うのだ。
暗いのはたぶん、お腹の中にいるせいもあるけどまだ私がきちんと物をみる力がないせい。
少なくとも、どうやら自分は望まれて生まれてこれるらしいことだけが分かって本当にほっとした。
しばらくぐるぐるとお腹の中を浮遊して手足を鍛えていたらまた眠くなったので眠ることにする。
この身体は体力がなくていけない。生まれたらまず体を鍛えないとなぁと思いつつ就寝。ぐぅ。
胎内浮遊生活、たぶん6ヶ月目前くらい。
びっくりした。とってもびっくりしました。
何がって、さっき夢うつつで浮遊してたらお腹が揺れて、ぐわんと衝撃で周囲が波立った。
びっくりしすぎて目が覚めて必要以上にぐるぐる羊水の中を動き回った。
なんだなんだ!?って思ってたら、どうやら今度の私のお母さんになるだろう人が倒れたらしい。
一通り色んな人の声がうっすらと聞こえていたと思ったらゆっくりと静かになっていって、それからかすかに悲しそうなお母さんの声が聞こえた。
どうしたんだろうって余計に不安になるけど、それよりもとっても悲しそうな声だったから、何とかしたくてお母さんが撫でているだろう辺りのお腹をぽこんと蹴る。
ここに私はいるよ。元気を出して。
少しでも伝わればいいなと思いながらも、今日はたくさん動いて疲れてしまったのでいつの間にか寝てしまった。ぐぅ。
目指せ完結です。