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7-3 ギルド



◇◆◇◆◇



「ははははは、ぶはーっはははははは!!」

「がはははははっはははは!」

「ぶひゃひゃひゃっ!!」


 ……髭面の汚いオッさんが、唾を飛ばして笑い転げる姿ってのはこんなに汚い光景なのか。


「……なぁおっさん達。そんな笑うようなこと、誰か言ったか? 耳が遠くて聞こえなかったわ」


 肩越しにオッさん達を見やる。何日と言わず何週間何ヶ月と整えられていないだろう顎や口元の草原は見ているだけで軽く吐き気がする。


 少し白々しいか。しかし口端を上げて笑みを作っていると、オッさん達の汚い笑顔がより一層深くなった。


「なんだ自覚なしか? お前だよバーカ」

「お前みてぇなガキがあの森に入って帰ってこれるか! 五分と保たねぇだろ!」

「へぇ。じゃあ聞くが、俺の言葉が黒だって言う根拠はあるんだろうな!!」

「根拠も何も、てめえみてーなヒョロイのじゃまず無理だよブァーカ!!」


 違いねぇ、と再び爆笑の渦が起きる。


 ……この連中は頭湧いてんのやら固いのやら。否定の理由が理由ですらない。典型的な脳筋か?

 生憎俺は我慢てのが長く続かない。日本(むこう)でもそれで暴力沙汰は多々起こしてきたが、こいつらをただのバカだと思うと怒るよりむしろ呆れてくるな。


 ……ただ、このくそ安い挑発に我慢ができない奴が、俺の隣に一人いた。


「っ、あんた達……ッ!!」


 森ですら見たことがない形相で、サラサが男達へ一歩踏み込みかねない空気を醸し出していた。

 視界の端に入った番台達は、呆れと軽蔑の混同した目を男達へ向けている。

 慣れてんだろうな、この連中に。しかしそれならもうちょい対応してくれ。


「………」


 しかし今のは俺の発言を笑われたのに、どうしてこいつが怒ってるんだ?

 剣すら抜きかねない表情のサラサに苦笑し、そのまま一歩踏みだす前に彼女の前に立った。


「……アスカ?」


 そしてこの空間にいる全員を見回して……何だ、どいつもこいつも酔っ払いだな。小馬鹿にしたような引き笑いを浮かべ、肩を竦めた。


「……じゃあ質問(しつもぉん)

 俺が五分なら、アンタら何分保ってくれんだ?」


 安い挑発には同じく安価な物でいい。

 あんま遠回り過ぎても、バカのこいつらには挑発されてることすら分かんねぇだろうからな。

 案の定、大きく揺れていた肩が止まり、物々しくこちらを睨んできた。


「……んだと?」

「あぁ、耳遠いのか? それとも聞こえない?

 んじゃ、もっとでけぇ声張ってやるよ………よく聞け」


 ワザとらしく耳をかいて、



「俺が五分っていうならーーーお前ら、一体、何秒(、、)で死んでくんだ?」



 ーーー釣れたな。


 言葉なく回っていく現状に、お待ちかね、と唇を舐めた。



 ーーーーーッ!!



 傍らに置かれた自身の武器を握った大男が、我慢ならずに轟然とした地響きを立てる。木造の床を遠慮なく壊し歩いて、背丈に見合った豪腕と大剣の間合いで脳天から俺を両断しようとしてくる。




「ーーー死ね、小僧ォ!!」




「…………」


 ーーー遅い。


 何だ、人間てのは図体がデカくなればなるほど遅くなる生き物なのか?


 あの森にいた魔物(ばけもの)達は、こんな生温い速度じゃなかった。

 大型の高速トラックを見た後に蟻の進行を見たようだ。それくらい、俺にとっては見苦しく見えた。少し屈強なデブが音立てて走ってるように。




「ーーーーー!」




 垂直一閃、当たれば脅威であろうが、しかし当たらぬなら何の意味もなし。

 大事なのはスピードだ。それをあの修羅場で学んだ最も大事なことの一つ。一撃必殺なんて、当たらなきゃ何の意味もない。


「ーーーーー」


 爪先が浮き、百八十度ターン。間髪いれずに踵が地を蹴った。


 軽い。音すら立てないステップでーーー見ろ、こんな簡単に躱せて懐に入れる。

 鍛え上げられた腹筋に沿うような形で立っている俺には、このバカの腕も顎も隙だらけにしてくれているように見えた。



「ーーー遅ぇんだよ、バァカ」



 驚愕を浮かべ、抵抗の兆しすら見せない男の腕に、抜いたナイフを逆手に振り下ろす。


 魔物頭蓋すら貫く鋭利ナイフが、男の太い腕を安安と貫いた。



「ーーーギィ、がああぁぁぁ!!」



 一瞬の出来事に理解速度を超えたのだろう。

 驚愕に遅れて、苦悶の表情。目尻に涙さえ浮かべて叫び出した。


「大の男が泣き叫ぶな、みっともねぇ」


 グリグリと捻じりながら半目で睨む。が、それに返す余裕すらない激痛なのか、涙を流して暴れ狂うばかりだ。


 あぁ、とても痛そうだ。

 だがしかし、生憎なことに俺は意地悪だから、このまま抜いてやるわけにもいかないんだな。

 自由な方の腕でナイフを抜こうと抵抗するのを、俺ももう一方の左手で、グローブの甲から爆発が発動しないように掌で払う。


 ……はて、俺はここまで力が強かっただろうか。

 異世界トリップへの特典か、この世界の言語は通じる。ただそれ以外に何かそれらしいそれがあったかというと首を捻る。期待出来なかったから道具を使っている節もあるのだし。

 初っ端が命の危機だから、俺が麻痺してるだけ? それとも森でのサバイバルが俺の人外への道第一歩(スタートライン)へ立たせたのか?


 得体の知れなさに辟易とし、いい加減抜こうとして、ふと思い至る。


「………っ!」


 そしてナイフを握った手に力を込めてーーー手元まで一気に掻っ捌いた。


「ギィアアアアアッ!!」


 即座に離れると、剣を放り投げ、血を吹き出しながら悶絶する。


「うるせぇ、黙れ」


 あんまりにうるさく喚いて鬱陶しいので、丁度真上を向いたところに口を踏みつけた。


「ん、ん"ん"ん"ん"ッ!!」

「喚くなバカ」


 踵をグリグリと押し付けながら、ワザとらしく大きく振って血を払う。

 ほんの遊び心でそれを顔前でやってやったら、身を震わせて押し黙った。面白いほどに涙を流して喜んでくれた。

 跳ねた血が付着してるのもあって、白人並みかそれ以上の顔の白さが際立っている。


 ……さて。


 そして唖然としている周囲に視線を向けて、




「で、何か用?」



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