5-6 境界の森
……すいません嘘つきました。
蛇足みたいなものですが綺麗に終わらせてみました。
これで正真正銘終わりです。
◇◆◇◆◇
ーーー飛鳥達が森を出る直前
「う、うわあぁーーーッ!!」
そこは凄惨な光景となっていた。
犬、鳥、牛、熊。
例えるなら、そんな形状を成す巨大な魔物が、小太りの男を取り囲んでいた。
「じ、ジムゾン! な、何を、し、している!!
は、は、早く! は、早く、わわ、私を、たたた、助けろ!!」
金切り声の如く助けを求めるが、そのジムゾンはとうの昔に一体の魔物のガムになっている。グチャグチャと音を立て、噛むごとに血と臓物を垂れ流していた。
その光景に戦慄し、
「な、な、何故だ! ここ、ここは、あ、ああ、安全だったんじゃ、なかったのか!!」
まるで取り合うように男の目の前で顔を付き合わせながら、魔物達は唸る。
その光景を見ながら、誰にでもなく男は非難の声を上げた。
それに、煩いと言わんばかりに一匹が鎌首をもたげる。
「ひッーーー」
それにヒクリと肩を持ち上げ、ジムゾンの成れの果て想像した。
直後、大口を開けた一匹がゆっくりと男を咥えこむ。
「あぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーー!!」
……境界の森の構外に、獣に勝る叫びが響いた。
◇◆◇◆◇
「…………」
……体が重い。
暗がりの中で横にした体は、まるで鉛のように重かった。
と、突然ガタリと部屋全体大きく揺れる。
その衝撃で体の何処かの何かが逆流する。
「ぅ……」
込み上げてくる何かを躱すように……静かに、小さく、寝返りを打った。外へ出る隙間から漏れる光と風が、寸でのところで俺を保たせていた。
「ーーーすか……アスカ!」
声が聞こえる……果たして誰のだろうか。
今は取り込み中なので、あまり話しかけないでそっとしてくれるとありがたい。
しかし、俺の意思に反して徐々に声量を増しーーー
「ーーーほら、アスカ!
着いたわよ! しっかりしなさい」
「っ……っつぅ」
突如降りかかる日差しに俺は大いに顔を顰めた。
「はぁ……ほら、しっかりしなさいよね。歩ける?」
「な、なんとか……」
サラサに支えられ、背中を摩ってもらいながら、俺はようやく陸に足を下ろした。
「……まさか船が無理だなんて……」
「仕方ねぇだろ、昔からダメなんだ」
「だったら最初から乗らなきゃよかったじゃない」
「あの状況じゃ言ってらんないだろ……」
胃の辺りを摩りながら、俺は久方ぶりの日光に目を細めた。海風と水辺の清涼感が、体調最悪な今は心地いい。
「しかし……」
目の前に広がる……俺としては久々に見る人集りを見て、しみじみと呟いた。
「……運が良かったな、俺達」
「……えぇ、本当に」
……河口からあの森を抜け出した俺とサラサは、無茶な流木ボートでどうにか岸へ行こうとしていた。
しかし、吹く風はまったく支離滅裂で中々岸へ向かわず、どころか沖へ流される始末。漕げるような枝も無く、手では全く意味が無い。
ならばとサラサの魔法を頼ろうと思ったが、どうにも風系統の魔法は使えないとのこと。大事なところで役に立たない奴だ。
で、その場から沖へ流されないようにが精一杯だった時、運よく朝一の漁から戻る船に見つけてもらえた訳だ。
……まぁ、俺は乗り物、というより船がとにかく駄目で、五分と掛からず気持ち悪くなってしまうのだが。
肩や首を鳴らせば、いっそ痛ましいくらいにゴキゴキと音を立てた。思わずもう一度動かすが、流石に二度目は無い。
こんなに草臥れたのは久しぶりだ。愛美の後始末も最初の頃はこんだけ疲れてた気がするが、最近では慣れたもんでそう疲れることもなかった気がする。
……異世界にくる前の俺の生活って、もしかして通い妻ーーーいや、これ以上は止めよう。きっと地雷だ。
「………で、これからどうするよ?」
「私はとりあえずギルドへ行こうと思ってるわ。長く依頼失敗の報告しないで迷惑かけてるし。
……アンタは?」
チラリ、と帽子のツバ越しにこちらを見上げてくる。そう言えば、船見つけた時からずっと被っていた気がするな。
「……あー、じゃあとりあえず俺も同行させてもらおうかね。
人を探さなきゃならないんだが、生憎土地勘が無くてな」
「へぇ、そうだったの」
意外そうに目を見開いてくるサラサ。そういえば、愛美探しのことは話す余裕も無かったか。
「じゃあまずは地図ね。と言っても、地図はギルドや特定の店じゃないと売らないから、この港町には売ってない筈よ」
「そか……んじゃ、ご同行させて頂きますか」
「えぇ、よろしく」
言って、お互い握手を交わす。
「……何だか、私達縁が続くわね」
「あー………だな」
まぁ、合縁奇縁の世の中だ。
それに異世界に来て初遭遇の人間だから、こうして縁が続くのは素直に嬉しい。
「……さて、と」
漁港を出る直前、振り返って市場を眺める。俺の世界で見る銚子や築地とは少し違う港風景が、どこか新鮮味を帯びている。
「………異世界なんだよな、ここ」
並べられている見覚えのない魚に現実を突きつけられる。
遠く遠く、普通じゃ行けないこの場所で。
俺は今、こうして立っている。
そして愛美もーーー
なんだか感慨深く思っていると、振り返っていた俺の背中にサラサの声が掛かる。
「何突っ立ってるの? 置いてくわよ」
「……あぁ、悪い。今行く」
……いつかまた。
今度は魚を買いに戻ってくるとしますかね。
そん時は愛美も一緒にーーー
「…………」
朝飯時の港には様々な人が集っている。
近所の主婦、魚屋のおっさん、朝一の漁から戻る漁師。
皆が皆、笑顔で魚を手に取り物色する。
その光景をもう一度目に焼き付け、俺は今度こそその場を後にした。
今度こそ、正真正銘『5 境界の森』は終わりです。
次回も飛鳥視点を予定していますが、更新が少し遅くなる可能性があります。ごめんなさい。