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5-3 境界の森

 特に何が理由、ということもなく、少女はぼんやりとだが瞑目していた瞼が開き出した。


「ーーーん」


 薄く目を開け、赤い煉瓦造りが目に入る。濃淡が極端ではなく、落ち着きを感じる色彩の赤。背にはフワリとした柔らかい触感で、思わずもう一度眠りについてしまいそうだった。


「……お。起きたか」


 だが、その微睡みを横槍する声がかかる。

 予期せずして来た声に、少女の意識は一瞬で覚醒した。


「っ、ッ……!」


 素早く起き上がろうとして、全身の鈍い痛みに身を竦ませる。

 重度の筋肉痛であり、少女が過度な運動をした結果でもある。

 いつぞや自分のような反応に、先の声の主はハハハと笑い声を上げた。


「痛いだろ? きっとスゲぇ走ったんだろうな、お前」


 しばらく引かねぇぞ、痛み(それ)

 そう言って、椅子に座りながら少女の足に視線を向けるのは、若い青年だった。

 黒い髪に黒い瞳、白でも黒でもない曖昧な色をした皮膚。中々見ない容貌に内心戸惑いを覚えつつ、少女は警戒を怠らない。


「……ここは何処?」


 思えば、少女は森に入って初めて言葉を喋ったかもしれない。

 明確な敵意に、青年は苦笑を僅かに滲ませて、


「外はあんな(、、、)だろ? ここは俺の隠れ家だよ。借家だけどな」


 それと、と続けて、


「起きて早々悪いんだけど、その靴脱いでもらえるか? ウチ、土足厳禁なんだ」

「…………」


 借家と言っておきながら、と内心苦言を呈するも、少女は大人しく従った。彼の言う通り、筋肉痛が全身を蝕む今の状態で靴を脱ぐ姿勢は辛いものがあった。

 ただ、時間をかけた分だけ、状況を判断するだけの余裕が生まれる。

 そして、着衣の乱れが一つも無いことに気づいた。


「(あんなに深く眠っていたのに……)」


 ……何もしていないということが、少女の警戒を薄め始める。肌を刺すような警戒心が薄れ、青年は一人ほくそ笑んだ。


「……腹減ってないか?」

「え? ……えぇ、少し」


 控えめに言った少女。ただ直後に、空腹・絶対! と主張する音が腹から聞こえ、羞恥に顔を染める。

 それを意地悪く笑い、青年は手元の鞄から食料をなるだけ取り出した。


「肉は干し肉になっちまうな」

「……これ、何の肉?」


 青年の手の平に置かれた干し肉を眺め、心配そうに聞いた。


 青年の方は、それと同じ物を齧りながらあっけらかんとして、


「外の奴ら」

「は?」

「外の奴らの肉を捌いてすぐに干した奴だ。時間が経つとアイツら消えちまうが、焼いたり燻したりすると残るんだよ」

「………ハアァッ!?」


 頭を鈍器で殴りつけられたような衝撃だった。思わず叫ぶのを止められない。

 消えるはずの死肉が、調理をすれば残るということにではない。


 この男は、つまりそれ(、、)食っている(、、、、、)ということに、だ。


「あ、アンタねぇ! 分かってんの!? 外の奴らは魔物(、、)なのよッ!?」

「魔物?」


 飛鳥は首を捻る。単語自体聞いたことはあるが、これがそうだとは思わなかった。そもそも、サラサが彼がこの世界(、、、、)に来て初めて遭遇(エンカウント)した人間である。


「昔からいるけど、どこで生まれて、どうやって繁栄しているのかすら分かっていない得体の知れない怪物。

 アンタ、そんなことも知らないのっ!?」

「その手の分野に学が無いもんで」


 ……魔物については、実はあまり良く分かってはいない。

 少女やこの男が生まれるよりずっと長く存在する生物だが、個体ごとの生態系は謎が多く、消えることもただ『死ねば魔力となって世界に溶けていく』といった程度の認識でしかない。


 そんな、謎ばかりの魔物を、あろうことかこの男は食しているというのだ。

 普通の人間なら狂っている、と断じるほどの異常。


 ……あくまでも、この世界(、、、、)の常識だが。


 青年は頭の上に疑問符を付けながら、訳が分からんとばかりに首を傾げた。


「最初の方はクセを感じるけどな。慣れればどうってことねぇぜ」

「だから……ッ。……あぁ、もうイイわよ」


 呆れた、と言うように青年を諦め、魔物の干し肉を握った手とは反対の携帯食料を引っ手繰る。

 その態度に腹を立てることなく、むしろ何食わぬ顔で水を少女の側に置き、自身は座っていた椅子に深く腰掛けた。



◇◆◇◆◇



「自己紹介がまだだったな、俺は飛鳥だ」

「…………サラサ」


 水や食料を腹に入れて落ち着いたのか、いきり立っていたさっきとは違って幾分か大人しくなった。


 サラサ……更紗か。

 日本人みたいな名前だ。


 ただ、その風貌は日本人のそれとは大きくかけ離れている。



「……あぁ、そうだ。

 これ、落ちてたんだが、お前のだろ?」

「え? あ、ありがーーーッ!?」


 懐から取り出した帽子を見て、サラサの表情は凍りついた。


 彼女は目尻の釣りあがった猫のような目が印象的な美少女。

 クールなシャム猫、という感じだ。

 何よりも(そう)と感じさせる要因なのは、頭に付いてる()


 そう、耳だ。


 一部のネットユーザー憧れの、『ケモミミ』という奴をこの美少女は持っている。


「ッーーー!!」


 硬直していたサラサは、次の瞬間には俺から距離を取り、何故か臨戦態勢をとっていた。


「………見たわね?」


 咄嗟に耳を隠し、こちらを睨んでくるサラサ。

 顔面蒼白になり、まるでこの世の終わりみたいな表情をしている。


「……あー」


 ……参ったな。

 帽子被ったまんまじゃ寝辛いだろうと思ったんだが……失敗だったか。

 そりゃあ、初めて見た時は驚いた。

 ただ、元の世界でそれなりに需要のあるジャンルだったから、あまり抵抗は無かった。

 ……こっそり触ってしまったことは墓場まで持っていこう。


「……とりあえず、そう警戒しないでくれ。

 お前に今まで何があったのか……は、まぁ何となく想像つくけどな。俺にお前をどうこうする気は無いよ」

「…………」


 サラサは俺の言葉に微塵も耳を傾けず、腰を低くしていつでも飛び出せる姿勢を崩さない。


 ……迫害か。恐らくはそんなところだろう。

 この世界じゃサラサみたいな系統は差別対象か。……勿体無い。


 ……しかし、これじゃいくら言っても聞いてはくれない。ここまで警戒するとは余程のことだ。


 ……仕方ねぇか。


 はぁ、と溜息を吐いて、俺は羽織っているブルゾンに手をかけた。


「…………?」


 サラサは初め、疑いの表情を浮かべていたが、中のTシャツ一枚になった俺に我慢ならず、とうとう問いを投げた。


「……何、してるの?」

「いや、サラサに信用してもらうにはどうしたらいいかと考えたもんでな。とりあえず脱いでみた。

 ……見るか?」

「なーーーッ……み、見るかッ!!」


 Tシャツを捲って腹を見せると、顔を染めてそっぽを向いた。なんだ、意外と初心だな。

 それがどこかおかしく、堪えきれない笑みを浮かべながら、


「ん、ほらよ」

「え? ーーーぁ」


 壁に立てかけてあった一本の剣を、無造作に投げ渡した。

 余程大事だったんだろう。サラサが森で気絶していた時も、ずっと抱えて離さなかった細剣(レイピア)だ。


 不適に笑って見せて、両腕を大きく、迎え入れるように広げた。


「こっちは丸腰だ、けどそっちには武器がある。

 ……首を取るチャンスだぜ?」


 ほれほれどうした、と挑発するように指を動かす。

 これ見よがしに挑発するのは他でもない。

 面白いからだ。

 ただ、これならあちらさんも文句はないだろう。


 しかし、サラサは未だ警戒心を抱え、


「……正気?」

「狂ってるように見えるか?」

「…………」


 ジッと俺を眺めること、数分。

 お互い目を逸らさず、やがてサラサが根負けしたように溜息を吐いた。そっと側にレイピアを置き、


「……まぁ、あなたに私をどうこうしようという意思がないことは認めるわ。武器も返してくれたしね。

 ……ただし、まだ信用してる訳じゃないから」


 そこん所ヨロシク、とばかりに睨み上げるサラサに苦笑して頷く。まぁ、初対面ならそんなもんだし、むしろこれだけいけたなら及第点だろ。

 ベッドに座り直したサラサは、ウチの備品を眺めながら、


「……で、アスカ。

 ここはどこなの? あの森? それとももうここは森の外なの?」


 問いかけてくる視線に、僅かばかりの期待感が滲んでいる。

 俺はそれに苦笑して、今度は首を横に振った。


「残念ながら、今も俺達は森の中だ。

 川を伝って行って、洞窟の中に入った所にある秘密基地だよ」

「そう………」


 明らかに残念そうに相槌を打ち、じゃあと棚に敷き詰められた物を指差した。



 鉄製のバレルや、火薬がたっぷり詰まった柘榴の実を見てーーー



「……これ、何?」


 訝る顔で、それらを睨む。

 何となく、それらの危険性(、、、)を理解したのか、先ほどの警戒心が戻ってきたようだ。


「武器? でも見たことはないわね……。それにしても、日常品にしては……なんだか物々しいし、不思議な形」


 ……()は見たことがないのか?


「そいつらは立派な兵器だよ。銃って知ってるか?」

「ジュウ? 聞いたことはないけど………。

 ーーーこれが武器?」


 信じられない、とばかりに近くにある拳銃を恐る恐る手に取った。

 ……物を知らないのは分かるが、銃身を握るのはどうなのか。


「……あぁ、因みにそれ一発使っただけで、当たりどころ悪けりゃ人死ぬからな」

「へぇッ!?」


 ……今のは相槌じゃなくて、驚愕だ。

 慌てて銃を取り落とし、それから大いに距離を取る。


 因みに、サラサが手に取ったのは《トカレフ》だ。弾丸の貫通力に定評があるソ連の拳銃だが、確か第二次世界大戦後は作られていなかった筈。

 動悸がするのか、サラサは胸を抑えて深呼吸していた。


「お、脅かさないでよっ! こ、こんなので人が……」

「ここにあるのはほとんどそんなのばっかなんだけどなぁ……」


 俺も釣られるように、ぐるりと敷き詰められた銃達に視線を向ける。

 《デザートイーグル》など時代の成功品から、粗悪な安物銃サタデーナイトスペシャルまで幅広い種類の拳銃が置いてある。中には先ほどの《トカレフ》みたいな製造中止になっているのもあって、こっちは冷や汗が止まらない。


 ……これ集めた奴相当な愛好家(マニア)だぞ。

 一体歳幾つなんだ。俺の知る銃だけでも時代の端から端まで網羅してるぞ。


 ……ただまぁ、その実埃を被っていて使い物にならないのがほとんど。いくら手入れを怠らずにいても銃には寿命というものがある。それがこれだけ放置されていたら尚更だ。


 ただ、お気に入りだったのかサビ防止や念入りに手入れされていた物があり、それは何ら問題なく使用できた。


 例えば、俺が今持ち歩いている《デザートイーグル》なんかは、特殊な整備がされていて傷一つ付いていなかった。

 異様に改造されていて、解体(バラ)すのが恐いが。


「……ところで、サラサはどうしてこんな森にきたんだ? 正直、観光とかあまりオススメ出来ないぞ」


 まぁ俺としては案内人ができて外へ出れる可能性が上がるので願ったり叶ったりだが、懸念はこいつの感情だな。気が滅入って、このまま俺を巻き込んで心中とか絶対御免だ。

 サラサは、俺の言葉に同意とばかりに呆れた表情を作った。


「こんな森、入ろうと思うなんて自殺志願者くらいだわ。

 ……私の場合は、ちょっと、仕事でミスしちゃって、帳消しにする為に来たの」


 それはお前の言う自殺志願者とどう違うんだ。

 思わずそう返そうになったが、それきり俯いてしまったサラサに口を噤んだ。


「あー……じゃあーーー」


 気づけば質問責めをしていた俺は、さらに質問を重ねようと口を開いた。


 ーーーが






 ーーードオオオオオォォォォォォォォンーーー!!!






◇◆◇◆◇



「おぉ……っ!?」

「きゃッ……な、何!?」


 爆発に似た衝撃と音に立っていた飛鳥は鑪を踏み、ベッドに腰掛けるサラサは倒れ込んで顔を埋めた。


 その後も不定期に衝撃は伝わり、二人とも簡単には身動きが取れない。


「な、何なのよーーーッ!?」

「この辺りには……鳥が住んでてなーーーどうやらここがバレちまったらしいっ」


 いつぞやか、飛鳥が遭遇した巨大な鳥が、今日までしつこく壁に体当たりをしていたのだが、壁から伝わる僅かな手応えに気づいたらしい。


「何それっ、どんだけ知恵が回るのよ!?」


 最早悲鳴のような声を上げるサラサ。その側で飛鳥が壁を支えに立ち上がる。


「ーーーここらが潮か。サラサ、立てるか?」

「ぁ、え、えぇ……」


 返事をしながら慌てて起きようとするが、重度の疲労と地震にも匹敵する振動が邪魔をする。


 無意識に舌を打ち、


「ーーー自分の準備だけして、ここで待ってろ!」


 ブルゾンを腰に巻き、靴の紐を手早く通す。左手だけにハーフフィンガーのグローブを填め、机の《デザートイーグル》を掴んで外へ飛び出した。

 入口がシャッターのようになっていたのには驚いたが、数瞬の後に聞こえてきた発砲音と人ならざる絶叫に身を竦ませる。


 再びシャッターを開けられ、飛鳥が顔を覗かせた。


「よし、行くぞ」

「い、行くって……どこへ?」


 サラサの疑問に答える間もなく、飛鳥はサラサを抱えて外に出る。


「っ……」


 突然の出来事に混乱はしたが、横抱きでもお姫様抱っこでもなく、肩に担いで運ばれた時は少しイラっと来た。


「しっかり捕まってろよ」

「は?」


 飛鳥の言葉の真意を測りかねるが、顔は背中の方を向いていて、飛鳥が何をしようとしているかが全く分からない。


 ーーーと、



 ふわり、と風が体の下から通っていく。




「ーーーーーーーーーへ?」




 違和感のある浮遊感に揺蕩う心を抑えて、恐る恐る下を覗いた。


 全てが小さい。


 あらゆる景色が極小に縮められた俯瞰風景が眼下に広がっていた。




「ーーーいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

「黙ってないと舌噛むぞ!!」




 飛鳥が何やら叫んでいるが、下から突き抜ける風の音が喧しい。辛うじて聞こえてくる発砲音も置き去りに、飛鳥とサラサは崖沿いを降下し続けた。


 ーーーやがて、地面が近づいてくるのが目に入り、


「し、下! 下ぁ!!」

「あっ、ちょ…こら、暴れるな!」

「この状況で無理言ってんじゃないわよー!!」


 最早絶叫に近い口喧嘩が、高度およそ100メートルほどでなされている。足をバタつかせ、腕は仕切りに飛鳥の背中を叩いていた。背中から痛ましい音が響くのが、飛鳥の耳にも届いていた。


「(もうちょい落ち着いてくんねーかな。背中が痛い……)」


 加減ないビンタを容赦無く見舞ってくれている為に、飛鳥の背中は恐らく悲惨なことになっている。無論飛鳥は今も激痛を伴っているが、存外にも冷静だった。

 第一印象が大きく崩れたな、と辟易としながらも、未だ追い縋ってくる鳥類共を追い払っていく。


 マズルフラッシュが視界を焼き、弾丸が鳥の頭を射抜く。


「……おい、頭しっかり抱えとけよ」

「え?」


 言って、さり気なくサラサを庇うように抱え込む。

 直後、直角ダイブをした飛鳥達を茂った木々が出迎えた。


「キャーーーッ!!」


 悲鳴を上げるのもこれで何度目か。しかし、サラサの悲鳴も関係なく、体は地面に確実に近づいている。木の枝は茂みを経由したとしても、地面に激突するには危険な重力加速を受けていた。


 思わず目を瞑ったサラサは、来たる衝撃に身を竦ませる。

 しかし、直後に聞こえてきたのは生々しい激突音ではなく、タンッとあっさりした着地音だった。


「ーーーへ?」


 恐る恐る目を開き、噛みしめていた口元を緩める。視界に広がるは、どこか見覚えのある森の中だった。


「……あれ?」

「やれやれ、あぁ焦った。何であんなたくさん来るんだよ」


 サラサをそっと降ろし、腰に巻いたブルゾンを羽織り直す。襟元を直し、握った《デザートイーグル》をホルダーに戻した。

 惚けたまま座り込んでいるサラサを見て、


「いつまでそうしてんだ? ちゃんと生きてるよ」

「ど、どういうこと? 私達あんな高いところから……」


 腰が抜けたのか、座り込んだまま視線を飛鳥と空を行ったり来たり。森の緑の隙間で、崖の穴から噴出する水が弧を描いていた。


 飛鳥は面白そうに笑って、靴底を叩く。所々擦り減らしつつ、むしろそれが装飾のような、古美術的(アンティーク)な靴だった。


「この靴は特別製でな、強い衝撃を逃がすどころか消しちまう作用があるんだ」

「なっーーーそ、それって、魔導兵器(マジックアイテム)!?」


 思わずギョッとして、飛鳥の履いている靴を見る。何度見ても、何でもないただの靴だ。

 無論、飛鳥の履くそれはあの秘密基地から出てきた物だ。掻き分けて掻き分けて……奥の方から出てきた埃を被ったそれである。

 飛鳥からすれば何でもない『ただの便利な靴』だが、サラサとのあまりのリアクションの違いに戸惑いを覚える。


「そんなに貴重なのか? この靴が?」

「当たり前じゃない! 魔導兵器(マジックアイテム)といえば、それはもう古代魔術の領域よ!?」


 魔術をある程度嗜む者にとっては常識だが、魔導兵器(マジックアイテム)というのは相当に貴重な代物である。


 現代魔術の主流は『詠唱』であり、古代魔術の主流は『魔法式』。

 

 魔法式は魔力を流し込む、あるいはある特定の条件になれば自然と発動するというメリットがあるが、反して応用の効かない、長期の戦闘に向かないという戦争において致命的な欠点が存在した。

 そこで、各国間で密かに研究されたのが『詠唱魔術』であり、現代普及する魔術の原型だった。


 そこから古代魔術は大いに廃れ、今では存在を知らない者もいる。まず市場に流れたことは無いし、見た目自体は何でもないただの道具だから判別もつかない。


 中には国家機密、それこそ単体で大きく戦況を変化させるような物もあるが、存在の有無すら各国分かっていないのが現状だ。


 それ一足でいったいどれだけするのか、数えるのも億劫なほどに貴重な代物なのだ。


「ーーーへぇ、便利だな。

 ……まぁそんなことより、もう立てるか?」

「え、えぇ……」

「じゃあ急ごう。ずっといるとエサになっちまうからな」


 サラサの手をとり、辺りを油断なく睥睨する。極力足音は立てず、死角は作らないように。


 サラサとしては失われた技術を『そんなこと』と断じた飛鳥に不服を唱えたいところだが、命を捨ててまでそうしたくはない。


「ぁ……」



 ーーーそういえば



 男の人と手を繋ぐのは……初めてかもしれない。



 繋いだ手は大きく、自分を引っ張る力は強い。知らず、サラサは自然とそれに身を委ねるように森を進んでいった。

 ちょっとペースが落ちてきました。

 今月中に5を終わらせるという密かな目標があったのですが、達成できそうになくて申し訳ないです。

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