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5-2 境界の森

 書いていたのが深夜というのもあって、文章が結構厨二っぽくなってます。

 表現が十五どころか十七くらいまで行きそうなので、ご注意を。

 基本こんな感じが一番書きやすいので、これからも香坂の戦闘系描写は大体こうなります。

◇◆◇◆◇



 黒い雨が降る。



 鮮血が舞う。



 後に残るのは断末魔の名残だけ。

 血を流して叫喚を上げていく畜生達の間を、黒い影が抜けていく。


「………」


 一歩一歩に力を込めて木から木へ飛び移り、遅くだが確実に進んでいく。


 黒いブルゾンを羽織り、白いマフラーで呼吸音を殺し、男はただ前を見据えていた。



「……はぁ、まるで迷路だな。一体何処までこの森は続いてるんだか」



 靴底が鉄製のブーツを鳴らして、木から地面へ飛び降りる。マンション三階ほどの高さからのジャンプだったが、衝撃を全く感じさせない着地だった。


「………む」


 左手のみに填めたハーフフィンガーグローブを引き絞りながら油断無く進む飛鳥を、背後から突進する音がする。

 本日四度目の邂逅に、ーーー櫻井飛鳥は盛大に顔を引き攣らせた。




「ヴオオオオオオオォォォォォオオォオォオオオオーーーッ!!!」




「ちッ……今日は数が多いな!!」


 振り向きざまにブルゾンを翻し、バックサイドヒップホルダーからそれ(、、)を取り出した。


 光を吸い込む黒漆。()の筋を突き詰めた無骨な逸品。

 紛うことなく、飛鳥の手に握られている拳銃、しかしかつて飛鳥が持っていた《グロック》とは見た目も兇悪さも段違いだった。




「ーーーーーッ!!」




 ーーー引き金を引く(トリガー)


 携帯化された軽量な物とは想像もつかない轟音が木霊する。


 改造銃(デザートイーグル)

 威力、射速、そして反動(トリガープル)。どれを取っても通常品の倍はある狂気の逸品。




「ヴオオオオオオオォォォォォオオォォォーーーッ!?」




「ッーーーーーッ!!」


 トリガー。


 トリガー。


 トリガー。


 砂漠の鷹と呼ばれる、イスラエルの悪魔が咆哮する。


 仄かに網膜に焼き付くマズルフラッシュと、獣の雄叫びにも勝らずとも劣らない重厚な破裂音。


 秒速340mを超えた50AEマグナム弾が、瀑布の如く殺到した。


「ヴオオオオオオオォォォォォオオォオォオオオオーーー!?」


 兇悪、だが確実に驚愕の響きを含んだ雄叫びを上げる。

 と、ここに来て、ようやく飛鳥の狙い撃っていた標的(猛獣)が姿を現した。

 二頭の猛獣、オルトロス。まず間違いなく危険な猛獣だが、血に塗れて無残な姿となっていた。

 しかし、止まらない。

 頭部への致命傷だけを避けていたオルトロスは、よろめき、減速しながらも飛鳥を狙って離さない。



「ヴオオオオオオオォォォォォオオォオォオオオオーーーッ!!!」

「ちッーーー弾だって安くねぇんだぞッ!!」



 舌打ち一つ打ち、すぐ右に位置する木を蹴り上げた。タンッ、と軽い響きをして、飛鳥の体が持ち上がる。

 飛び上がる飛鳥は右手の銃を戻し、右足に巻きつけたホルスターから歪な色合いをした大型ナイフを取り出した。


 頭と足の位置を逆にしながら、飛び上がる飛鳥は手近な枝を強く蹴った。大きい膂力を与えたにも関わらず、枝はガサガサと揺れるだけだった。


 飛鳥の目指す先は、丁度通過せんとするオルトロスの頭部。

 狙いは、飛鳥から見て右の顔。




「ーーーーー!!」




 逆手に握ったナイフを振り下ろす。


 重力加速を得た鈍色の一閃。

 刃渡り三十センチの、歪な超大型コンバットナイフが獅子の脳天を貫いた。



「ーーーーーッ!!」



 硬直するオルトロスに息もつかせず、左手に持った銃を連射する。肩にのし掛かる確かな重みと、噴出する血が飛鳥の頬に盛大に跳ねた。

 左は撃ち抜かれてほぼ即死だが、まだ右の脳が生きている。まだ微かに息のあるオルトロスに、刺したナイフを大きく捻った。

 グリュッ、液状化した音を上げ、脳天から湧き水のように血を吹き、オルトロスは今度こそ息の根を止めた。




「ッ………!!」




 それに感慨を覚えることなく、飛鳥は亡骸を蹴って跳躍する。地面に着地した後、太い幹に身を隠した。

 息を潜め、腰の銃に手を添える。


 ……生物が生き耐えた際、血の臭いを嗅ぎつけた別の獣が襲ってくるのがこの森の常だ。

 連続する食物連鎖の見本のような森である。飛鳥も教訓を得る体験を幾度と味わっていた。



「…………来ない?」



 あの不愉快な雄叫びが訪れない。油断なく辺りを睥睨するが、別の猛獣が来る気配は無かった。


 ……と、時間が来たのか(、、、、、、、)飛鳥の殺した(、、、、、、)猛獣が消失する(、、、、、、、)


 既に緊張状態に身を置いて数十分と経っている。気が滅入らずに済むのは、そこはそれ、慣れの問題だが多少なりとも気疲れをしていないことはなかった。


「……………」


 はぁ、と溜息を吐いて、銃を降ろそうとしたーーー



 その時、




「ーーーグオオオオォォォォォォォオオオオオオオオ!!!」




「ーーーーー!!」


 また、別の猛獣。

 爆発音に似た音を立てて爆走する音が、飛鳥の耳を打った。


 しかし、奇妙なことに、あの咆哮が次第に遠ざかりーーー一定の場所で動きを止めた。


「……?」


 ーーー獲物でも殺ったか?

 

 そんな疑問を思い浮かべつつ、木を登ってそれがいるであろう場所を見てーーー



「ッーーーなっ……!?」



 ギョッとした。


 人だ。


 およそいつぶりに見るだろう。目深に帽子を被り、手に何か抱えるようにしている少女のような華奢な人間が、あの熊に似た猛獣に食われようとしている。


「っ……」」


 舌打ち一つ、飛鳥は迷いなくその場を走り出した。

 幸い、奴はこちらの存在に気づいておらず、見向きもしない。

 あの時(、、、)は酷い目を遭ったが、昔と今では装備が違った。


「あん時は世話になったなぁーーーお礼参りだぁ!!」


 抜き放ったデザートイーグルを寸分違わず頭部へ照準し、引き金を強く抑えた。


 ーーー轟音が猛獣の叫びとデュエットし、連続して放たれる50AEマグナム弾。

 頭部のみならず上半身殆どを貫いて、獣はまさに今襲いかかろうという姿勢のまま絶命した。


「…………」


 油断なくデザートイーグルの銃口を熊もどきに向けたまま歩み寄る飛鳥は、視線だけを襲われていた人物へと向けた。


 顔は美しく整っていた。

 身長、体格は愛美とそう変わらない。ただ彼女のような陽気さというのは欠片も当てはまらず、むしろ冷めた……クールな印象がする美少女だった。帽子の隙間から伸びる銀髪が、日の光に反射して美しく輝いていた。


「……人」


 改めて、というのも無礼だが、マジマジと見つめて、


「だよな? 今まで見なかったから、この森には人はいないもんだと思ってたが……」



 ーーーそして、再び別方向から来る獣の雄叫び。



「ッ……ったく、少しは勘弁しろよな!」


 こんな時でさえ、時間を取らせて貰えない。つくづく、人の生きづらい場所だ。

 軽く毒づきながら恭しく少女を抱き上げて、飛鳥は忙しなくその場を走り去った。


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