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2-5 ふぁんたじー

「♪〜」


 簀巻きにした冒険者を引っ張るエアルを背に、草の生えてない開けた道を歩く。


 そういえば村の外に出たのって、何気にこれが初めてかも。

 そう思うと、何だか冒険してるみたいで心が踊るなー。

 初めての旅立ち!! みたいな?

 始まりの街を出たみたい。


「……なぁ、エミ」

「んー?」


 だから、エアルの言葉にも思わず笑顔で返してしまう。

 エアルは何故か目に見えて慌てて、何でもない、と首を振って見せた。


 ……え、何?

 何故そんなにキョドるのかね?


「……なに? どうかした?」

「い、いや。

 ………こいつ、目覚ましたら暴れるんじゃないか? こんな扱いで大丈夫なのか?」


 今、エアルが引っ張る冒険者のお兄さんは、簀巻きの状態でズルズル引き摺られている状態だ。あと、地面に擦れてる時に結構道端の石ころを巻き込んでて、顔とか軽く怪我してたりする。


 ……うわ、痛そー。

 確かにこれだとその内起きちゃうかもしれないねー。

 罪悪感? 別にないよー。



「まぁ、その時はまた気絶させればいいし。それにロープの中でも両手とか足とか縛っといたから多分大丈夫だよ」

「………」


 これが結構効くんだよね、簀巻きの中で更に縛る奴。腕とか足とかグルグルにするの。

 腕や足を背中の方で縛ってあるから、力が入りづらくてロープを破れない二重構造になっております。服の中に何か仕込んであっても、腕が動かないから使うこともできないし。


 この世界には魔術があるから逃げられる可能性も高いけど、それは大丈夫。ちゃんと対策も立ててある。



 魔術はあれから四苦八苦していたのが嘘のようにホイホイ使えた。

 魔力を使うということにはまだ慣れていないけど、違和感は少しずつ減ってきている。ずっと使っていれば、その内慣れてくるだろう。

 自然に漂う魔力が魔術の原料で、それを操ることが出来る私は、普通の魔術師にとって天敵みたいな存在だ。一番最初で一番大事な魔力接収っていうのが出来なくなる。


 盗賊ってならず者で、ナイフとか振り回してくるイメージがあったけど、魔術も使えたみたい。

 魔術使いは結構重宝されるって聞いたけど、盗賊とは何か事情があったのだろうか。


 ま、関係無いけどね。





 それからは、ただ草の生えてない荒れた道を二人歩いていった。

 途中何度か簀巻きが目覚ましたけど、騒がれる前に気絶させといた。暴れられても困るしね。


「お?」


 ふと、目の前をちっちゃな物体がピョンピョンと跳ねながら横切った。

 

「……うさぎ?」


 特徴はうさぎそっくり。

 白じゃなくて薄い茶色だし、耳は短いけど……見た目うさぎっぽい。異世界初エンカウントはうさぎもどきかー。


 私の斜め前で止まったうさぎが、不意にこちらに視線を向ける。ちょこんと首を傾げる仕草に和んで、おいでおいでーと手をちょいちょいしてみた。

 ピョンピョンとこっちにゆっくり近づいてくる。癒されるねー。

 動物がいるとは分からなかった私にとっては、初めて出会った貴重なモフモフだ。


 すると、荷物を持っていて遅いエアルがようやく追いついてきた。


「おいエミ、あんまり一人で先にーーー」


 お小言垂れながら近づいてくるエアル。


 不満げな声に、私は一言ごめん、と言おうとそちらへ振り向いた。



 ーーー次の瞬間。




「ーーーッ、エミ!!」




「へ?」


 いつの間にか、側に寄ってきたエアルに肩を掴まれて、体ごと後ろへ引っ張られていた。


 その後すぐ、さっきまで私のいたところからガチリッと歯と歯を噛み合わせたような音が聞こえてきた。

 見るとすぐ目の前でうさぎもどきが、その姿では想像できない凶暴な顔で、歯をギラギラさせていた。

 


 ………はい?


 

 ぇ、ちょっ……何あれ? 



「っ………!!」


 さっきの可愛らしく首を傾げた仕草からは想像できない凶暴性に思わず呆然とする。

 空中でそのまま落下するうさぎもどき目掛けて、エアルが握った銛を突き出した。正確に体を射抜かれて、ギャンと声を上げてうさぎもどきは力尽きる。



 …………何じゃこりゃ。



 まだちょっとよく理解できてない私に、エアルが怒った顔で詰め寄ってきた。


「エミ! お前、何魔獣に手なんか差し出してんだ、喰われちまうだろうが!!」

「まじゅう?」


 まじゅうって、魔獣?

 何それ、知らないんですけど。

 ふと視線を向けると、血の滲んでいたうさぎもどきがスーッと消えていくのが見えた。


 ……消えた。

 消えたッ!?


「……村の外とかには、あちこちに魔力を持った生物がいる。

 ほとんどの奴は凶暴で、人はそれを魔獣って言うんだ」

「へー……」

「死ぬとあぁやって魔力になって空気中に溶けていくんだ。

 一応、一般常識なんだけどな……」


 銛の血を拭ったエアルが少し疲れた顔で、お前は一体どんな教育されてきたんだ、とため息混じりに呟いた。


 ………親の教育かー。

 えーっと……。


 お父さんからは『人の心理から学ぶルールの穴』とか『相手に違和感を持たれない言い訳や口裏の合わせ方』とか。


 お母さんには『超至近距離からの痴漢撃退法』や『視線誘導から一撃必殺の騙し討ち戦法』など護身術を少々。


 兄さんには……特に教わってないけど、たまに見せる営業スマイルと言葉責めは学ばせていただいてます。


 エアルの言葉についそれを返してしまいそうになって、慌てて口を閉じる。

 ……危ない危ない、あんまし喋るとそのうちボロが出そうだな。

 ってな訳で黙殺黙殺。


「分かった。じゃ、気をつけとくよ」

「そうしてくれ。

 ーーーお前は無防備で、危なっかしいからな」

「……? なんか言った?」

「いや、何でもない」


 それからは、エアルの言葉に従って、辺りに気を配りながら、時々索敵魔術(サーチ)をしたりしながら道を進んだ。



 道中、ガロさんが言ってた通り、賊っぽい人達が何度か出てきたけど、これといって問題はなかった。強いて言うなら、簀巻きが増えてエアルが死にそうな顔してるくらいかなー。

 戦闘でも頑張ってたし、この少年中々優秀である。



 で、今は火を起こして絶賛野宿中です。砂漠ほどじゃないけど、昼はあったかいのに夜は結構冷えてくる。

 夜はエアルが持ってきた魚を焼いて食べました。

 味付けは塩だけだったけど、意外とこういうシンプルなのって美味しい。余計な物が入ってない素材の味、みたいな。

 携帯食料もあったけど、明日の午後に着く計算らしいから明日のお昼の分として取っておいた。




 夜はエアルが、俺がずっと見張っているって言って聞かないから、そのまま寝ることにした。無理してるように見えたけど、「男の意地は通してあげるのがスジだ」ってお父さんから習った。

 数がすごく多くなった簀巻きの一つを枕にして、体をゴロリと横たえる。

 星が綺麗だなー。東京とかじゃこんなに綺麗に見えないかも。何だか違う世界に来ているのに、少しだけ遠い田舎に来ているみたいだ。

 割と順応してる自分に苦笑しながら、静かに目を閉じた。




 ……時々モゾモゾと動くもんだから、グーで強く叩いたら静かになった。


 愛美の家族は皆どこかおかしい。そしてその中で育ってきた愛美も普通とはちょっと遠いです。

 とりあえずこれで愛美視点は終わり。次回から飛鳥視点をやってようやく一区切りってとこですかね。

 これまでのはちょっと大きなプロローグみたいな物です。長かったなー……

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