2-4 ふぁんたじー
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あれだけ騒いでいたのがウソみたいに沈黙して気絶しているお兄さんを縛っていると、騒ぎを聞きつけたギルさんが人ごみの中から姿を現した。
あれ、宿は大丈夫なの?
「知り合いに留守を預かってもらっているから問題ない。それよりも………無事か?」
「平気だよ」
「そうか……」
そして、気絶してるお兄さんをチラッと見て、
「生きてるのか?」
なんて物騒なことを聞いてきた。殺してないよー。
「気絶してるだけだよ。起きた時に暴れられても困るから縛っといた」
「……そうか」
私が気絶したお兄さんの襟元を掴んで吊るし上げて見せると、私の時には見せなかった安堵の表情で溜息を吐いた。
……………。
何だか、私がすぐに人を殺す極悪人みたいで、すっごい不満なんだけど。
まぁ、確かに異世界なんてところに来ててちょっと興奮してるけどさー。
私もう高校生なんだけど。大人とはいかないけど、子供扱いされるほどちっちゃくはないと思うんだ。
どうにも、この村の人達は私の歳を実年齢より低く見てくるな。そんなに顔と年齢一致しない?
まぁ日本人は童顔だから、しゃーないか。
「ギルさん、そいつどうします? ウチの家畜の餌にしたりましょうか?」
精肉店のガロさんが、腕を捲ってブヒブヒと鼻を鳴らした。恰幅がよくて、いつもコロッケおまけしてくれるいい人だ。
因みに豚の獣人です。豚が肉扱うのは、倫理的にいいのだろうか。共食いとかになったりしないのか……?
しかしガロさんの言葉に、ギルさんは一瞬の逡巡もなく、
「いや、餌にもならんだろうし、南の隣村に連れていく。うちには騎士の駐屯地が無いからな。置いておけば手に余るだろう」
それは、確かに。多分(というか確実に)私の所為で実力が分からなかったけど、中級魔法が使えるなら実力があるんだろう。戦いと縁の遠い村の皆じゃ抑えきれないと思う。
………家畜の餌とか、冗談だよね?
「ですね。じゃあ誰かうちから人間を……」
ガロさんは自身が行くとは言わない。
獣人は基本的に人間に嫌われてるから、村や街には顔を出しづらいのだとか。ここは違うけど、人間の国は獣人差別が多いらしい。
候補者を決めようと、周りをキョロキョロするガロさん。
しかし、ギルさんはガロさんの言葉を遮り、
「いや、これはエミに運ばせる」
「え?」
ガロさんが驚きの声を上げる。
「お前の手柄だ。最後まで責任持て」
「うん、いーよ」
「だ、だがあの道は追い剥ぎ狙いの賊が大量に」
「それも踏まえて任せるんだ。こいつももう、何もできない子供というわけじゃない」
おー、こんだけストレートに褒めてくれるギルさん、初めてかも。でも何だか子供扱いからはまだ抜けてないような………まだ未成年か。
因みにこの世界は18で成人らしい。それでも私まだ未成年なんだよねー。
お酒とか結構グイグイいけるのになー。
「………まぁ。多少抜けているところはあるから、迷子になるか不安ではあるな」
私の思考を読み取ってか、すごく残念な子を見る目になってるギルさん。そんな目で見ないでー。
……けど、確かにそれはあるな。元の世界でも結構方向音痴だったし。遊園地とかで好きなだけはしゃいで、友達とか飛鳥とかに迎えに来てもらうタイプだ。
誰かに付いてってもらおうかなー、と思いながら私もキョロキョロ。
……すると
「ーーーエミ!!」
すごい絶妙なタイミングで、銀髪の少年がひょっこり顔を出した。
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何だか愛美視点が少し長いなーと思う今日この頃。
予定では後一話で区切りが付きそうなのでもうしばしのご辛抱を……。