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3rd

「う……ぁ……?」


目を覚ますとまず木でつくられた天井が見えた

どこだここ……

確か昨日はベッドで寝て、そしたら……


「あっ――――」


さっきの不思議な空間での出来事を思い出し起き上がる――――いや、起き上がろうとした

ベッドに手をつけて起き上がろうとしたのだが思ったよりベッドが小さく、端の部分を滑るだけで体重を乗せた腕はベッドの下へと


「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!??」


突然のことで対処できず、受け身の一つも取れないまま床へと叩きつけられる

まあ受け身なんてどんな状況でも取れないけどな!!

ていうか……


「いってぇ……!」


「あ、気がついたー?」


痛む頭を押さえて起き上がると、一人の女の子がいた

腰まである栗色の超ロングの髪を結んでポニーテールにしている

はっきりいって美人。超美人


「いやーびっくりしたよ、稽古をしに森までいったら倒れてるんだもの」


「はいこれ」と言ってココアらしき飲料が入っているカップを渡してきた

喉が渇いていたわけでもないが受け取らないのはまずいと思って素直に受け取る


「森に……? ていうかここって?」


「ここ? ここは私の家」


いや知ってるよ。ていうか他人の家だと駄目だろ

心の中でツッコンデおきながらココアらしき飲料を飲む

あ、うまい


「そうじゃなくて……この街というか国というか……ここって日本なのか?」


「ニホン? それがどこの街かは知らないけど、ここは技の国モンデットの中央都市よ。武器職人、料理人、はたまた細工師までありとあらゆる職人が集まった北の国。ていうか逆に何で知らないの?」


いやなんでって……こちとら異世界から来てるんですけど

でもどうせ信じてもらえないだろうし……どうしよう


「もしかして記憶がない……とか?」


「あ、そ、そうっ! 自分の名前だけ覚えてるんだけど他は何にも覚えてなくてさ!!」


俺は慌てて肯定する

異世界から来たとか言ってヘタに騒ぎを大きくするよりこっちのほうがよさそうだ

あわよくばこの美少女と同棲できるかもだし

下心見え見えですけど、何か?


「へー、大変だねー。できれば家に置いてあげたいけど……ちょっと無理かも」


……ナンデスト?


「実は今王国が人不足でね、兵を募ってるから私も応募したんだ。で、その試験がもうすぐあるの」


「王国?」


「あ、記憶がないんだっけ。えっと、王国って言うのは……このモンデット国を治めている街の領主様が住んでいる場所で、それで試験は王国が指定したクエストをクリアすればいいの。ここまではオーケー?」


「オーケー」


自分でオーケーと答えておいて何だがなんでギルドやクエストのこと知ってると答えてるんだろうね俺

それしってるんなら王国のことも知っておけよって話だよまったく


「で、その試験がもうすぐあるから、この家にはおいておけないってわけ」


「はぁ……ちなみにその試験っていつあるわけ?」


「明日」


「明日ぁ!?」


急すぎるだろ! せめて現状を確認するまではどこか身を置ける場所がほしかった!!

とはいっても我儘言うわけにはいかないよなぁ……


「なら迷惑かけるわけにもいかないか……」


「うん、ごめんね?」


「いや、助かったよ。えーと……」


「ああ、アスカよ。アスカ・ミネマ」


「ケンゴ。ケンゴ・ハセガワ……でいいのかな。ありがとうなアスカ」


「名前は覚えてるんだ」


「え? あ、あー、そうみたいだな。ハハハ……」


しまった、と思いつつ苦笑で返す

ここらへんの注意を怠らないようにしないとなー


「じゃ、また今度会えたらよろしく。ココアうまかったよ」


「こちらこそ。……あ、そうだ!」


何か思いついたらしく突然棚の方に言って何かを取り出した明日香

どうやら小袋らしいが、その袋をそのまま俺に渡してきた


「これは……?」


「私の全財産」


「受け取れるかぁ!!」


よくサラッと言えたな! どこの馬鹿が初めて会ったやつに全財産渡すんだ!?


「いーよいーよ、どうせ明日の試験に合格したらこの家には戻ってこないだろうし」


「戻ってこないって……落ちたらどうするつもりだよ」


「落ちない」


呆れながらの質問にいきなり真面目に返されたので思わずたじろぐ

今の今まで笑っていたアスカの目には確かに決意の目があった

本当に、明日の試験にすべてをかけているかのように


「……ま、そんなわけだから。どうせだれにも使われなくなるぐらいなら見ず知らずの人だろうと使ってもらおうと思ってね」


「……いいのか?」


「だーから大丈夫だってば。あ、家を出たら右にまっすぐ進んで。そしたら左手に「小鳥の憩」っていう旅館があると思うから」


「……なんか、いろいろ悪いな」


「もういいって! それじゃ、さよなら」


「ああ」


これ以上長居するのもアスカに悪いだろうし、早いところ家を出てその「小鳥の憩」とかいう宿に行こう


「……」


ドアを開けようと手を伸ばすが、ドアノブの前で手を止める


「……アスカ」


「?」


「明日、がんばれよ」


最後にそれだけ言い残して外に出る

出会って一時間もたってないが、こんなによくしてくれたんだ。試験に落ちてもらっちゃ困る

このお金も大事に使わないとな……

あれ? そう言えば……


「なんで俺、普通にしゃべれたんだろう」


……まあいいか






「……読めん」


アスカと別れて数分。言われた通り右にずっと歩いてきたんだが一つ問題があった

道の両端にたくさんの店の看板がある。ここまではいい、だって小鳥の憩と書いてある看板を探せばいいのだから

だがその肝心の文字が読めない

もはや記号とも言っていいレベルの文字がところかしこにあふれていて、19歳にして迷子になっている


ていうかまずい、本当にまずいぞこのままじゃ

夜になるとゴロツキとかまあそう言う感じの人たちが増えるだろう

で、見た目弱そうな俺がウロウロしているとして、金を巻き上げられ……最悪殺されかねない

大事なお金が一日で消えてしまう。それだけは避けたい


「? ……もしかして、ここ……か?」


道の左側にひときわ大きな建物が建っていた

相変わらず文字は読めないが看板には小鳥の模様が入っている

たぶんここ……だよな?


不安に思いながらドアをゆっくりと開けていく

中に入るとそこには大きなロビーとなっていてカウンター席でおばさんが暇そうに座っている

少なくとも危ないお店とかじゃなさそうだから安心した


「おばちゃん、部屋空いてる?」


カウンター席に近づいておばさんに尋ねる

怪しまれないように堂々と質問するがこれでここが旅館じゃないなんて言われたら恥歌詞差で死ねる


「おお空いてるよ。いやー久しぶりのお客だよ」


よかった、どうやらここであってたみたいだ


「って……久しぶり? 客少ないわけ?」


「ああ……ほら、明日城の兵士になるための試験があるだろ?」


「ああ」


「その試験で合格する気満々の人がたくさんでね、合格したら城に住み込みになるから途中キャンセルする人が多いんだ」


「へー」


なるほど、だから「もう戻ってこない」って言ったのか


「さ! この話はやめにして、一泊するなら1500ゴールドもらうよ」


「ああちょっと待って」


お金を出そうと小袋を取り出して、あることに気づく

……1500ゴールドって、いくら?

小袋の中には金貨が大小合わせて数枚、銀貨が大小合わせて数十枚、銅貨が大小合わせて数百枚入っている

ヤバイ、完全に金銭感覚を日本のままできたからどれだけ払えばいいかわからない

とりあえず俺の予想じゃ


金貨(大) 10万

金貨(小) 1万

銀貨(大) 1000円

銀貨(小) 100円

銅貨(大) 10円

銅貨(小) 1円


もはや勘だ、なんの根拠もない

間違っていたら文句言われるかもしれないがそこはもう経験で学ぶとしよう


「はい」


内心ドキドキしながら大きい銀貨を1枚、小さい銀貨を5枚取り出してカウンターに置く


「はい、ちょうど1500ゴールド。部屋は310号室ね。あ、夕食は7時に部屋に持っていくから」


「はいよー」


おばさんから渡された鍵を受け取って310号室を探しに廊下に行く

平然を装っていたけど実際喜びを表現したくてたまらなかった

だってほとんど勘だぜ!? あてずっぽうで当てたテストの回答とか嬉しいだろ? なあ!!


なんて内心荒ぶりながら部屋を見つけた

少し違っていたが幸いにも数字は日本にいたころとほとんど変わらなかった

鍵を鍵穴に入れて捻る

鍵のあいた音を確認してどんな部屋だろうと思いつつドアを開けていく


「おお……!」


思わず感嘆の声が漏れる

タンス、椅子、ベッドと一通りの調度品が置かれており、部屋もなかなか広く掃除も行きわたっている

日本のホテルは一泊数千円はするから仮に1ゴールド1円としてこの部屋で1500ゴールドは安いだろう

強いて不満を上げればテレビや風呂がないことだろうか

まあそのへんは日本人のかなしい性ということで


「それにしても色々ありすぎだろ今日は……」


たくさんの出来事が一度におきすぎて頭が少し混乱している

少し落ち着くために椅子に座る


目が覚めたら知らないところにいて、そこで玲奈や優香に出会った(まあすぐに別れたけど)

そこで突然変な老人が現れて俺たちを異世界に飛ばした

俺が飛ばされたのは技の国モンデット。さまざまな職人が集まる国

そして森で倒れていた俺をアスカが助けてくれた


「……アスカ・ミネマ、か」


今日、何時間か前に聞いた名前を口に出す

この世界で初めて会った人

この世界で初めて優しくしてくれた人

少しの間しか話せなかったけど、アスカが俺に与えた影響はきっと小さくはないだろう

恩返しというわけではないが、明日試験の様子でも見に行ってみよう


「って、ギルドがどこか知らないし」


自分の間抜けさにあきれて苦笑を洩らす

とりあえず今日は寝よう。夕食を運んでくれた人には申し訳ないけど少し疲れた

椅子から立ち上がりベッドにもそもそともぐりこむ

疲れていたからか、瞼はすぐに重くなり次第に夢の世界へと入っていった

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