鉛筆
去年のやつw
カリカリカリカリ……
テスト前日の夜、机に向かい問題集を解く。
明日は中学最後の定期テストの初日だ。
受験勉強の邪魔だと思いつつも、いい点数をとったらゲームを買ってもらえるのでがんばっている。
ふと時計を見ると既に十時を回っている。
「さすがに寝ようかな……」
独り言を言いながら明日の準備をし始める。
教科書、ノート、参考書……これらの勉強用具を、あと一ヶ月もしたら使われなくなる中学指定のかばんにどんどんつめこんでいく。
いろいろ入れたらパンパンになってしまった。
御飯を食べ過ぎてお腹がふくらんでいるようにも見えて少しほほえましい。
しかしここで大事なものがないことに気づいた。
「……長い鉛筆が一本もねぇ……」
僕の中学では試験は鉛筆しか許されていない。
テストのたびに忘れるやつがいるのだが、まさか自分がなるとは思ってもいなかった。
仕方がないのでコンビニに買いに行くしかない。
早寝早起きが習慣の親はもう寝てしまっているので、簡単な書置きをして家を出る。
少し時間が経ってから上着を一枚しか羽織ってこなかったことを後悔する。
三月の夜風はかなり冷たい。
肌を突き刺すように感じるほどだ。
冷蔵庫に入るとこんな感じなのだろうかと思いをめぐらせる。
空を見上げると月がきれいに輝いて……はいなかった。
空気を読めない厚い雲が夜空を覆い隠してしまっている。
そんなどうでもいいことを考えながら歩いていたら、最寄りのコンビニに着いた。
本当に鉛筆なんて売っているのかなと心配しながら自動ドアをくぐる。
店内にはそんなに客はいなかった。
迷わず文房具コーナーへと足を運ぶ。
いろいろな機能を持った色とりどりのシャーペンやボールペンの中に鉛筆があった。
他の文房具と比べて地味なケースで売られている鉛筆は六角形の形をずっと前から変えずに売られている。
そんな鉛筆から初志貫徹というか、何かを最後まですら抜くようなものを感じられる。
振ったら芯が出てくるシャーペンや中身を自分で好きな組み合わせにできるボールペンなどと違って、何の進化もせずに存在し続けている。
だからといって学校では鉛筆のようになりましょうっていう理由で使わせているわけではないのだろうが。
苦笑しながらつぶやいてレジへと向かう。
ついでにフライドチキンも購入する。
最初は買う気がなかったのに、レジのすぐ横にあるとついつい食べたくなってしまうから不思議だ。
これもコンビニの経済政策なのだろう。
コンビニを出てフライドチキンを頬張る。
熱い肉汁が口の中に広がり、しだいに体中が温かくなる。
ゴミ箱を見るとゴミが散らかっていた。
ちゃんと捨てろよと悪態をついて自分のゴミだけきちんとゴミ箱につっこむ。
そのまま帰ろうとしたのだが、少し歩いたところでゴミ箱のほうに振り返る。
「目覚めが悪くなるからだぞ。」
好きなマンガのセリフを引用して言い訳にする。
きれいにゴミ箱に収まったゴミを見ると少しスッキリした。
今の僕の行為に意味はあったのだろうかとふと疑問を抱く。
別に僕がやらなくてもどうせ店員さんが片付ける。
世界環境のため……にもそんなになっていないだろう。
たかだか五,六のゴミを片付けたからと言って地球温暖化が止まるわけではない。
でもやはり何らかの意味はあるのだろう。
何もやらないよりはマシだ。
虚構からは何も生まれない。
だとしたら今僕がしたこともまったくの無意味ではなかったのだ。
そう思えてきて嬉しくなってきた。
全ての行為には意味がある。
今夜僕が鉛筆を買ったりフライドチキンを食べたことも。
もしそうしなかったら誰かの何かが変わっていたかもしれない。
そんな不思議な感覚に包まれる。
明日のテストをがんばろうと、ゲームのためではなく、誰かの何かのために決意した。