それぞれの中の、私
私はとても幸せだ。それはウソじゃない。人間として生きていたときはおろか、こうして自分の肉体が滅びた今も、私の魂は空の上で形を作り出し、私の心で目であなた達を見ていられる。だから本当に幸せよ。
だけど私は知っているの。この夢のような世界が、もう終わりに近いこと。「ずっとこのままの生活をしたい」とか「時が止まってしまえばいいのに」って思うくらい楽しいことってあるでしょ?だけど本当にずっとそのままだと、人間はその変わらないサイクルに飽きてしまうの。時は常に、止まることなく動き続けるものだから。
けどね、私の場合は違う。私はもう人間じゃない。この時間に別れを告げたら、もう終わりしか残されていない。本当はもう……とっくに終わっているけど。
今日、なんとなく皆元気が無かった。理由までは分からないけれど……浮かない顔をしていたのはたしか。なんてゆーか、よどんだ空気。
「……な、何皆揃って落ち込んでんの?私達って、あんな騒いでもてはやされたいからバンドやってたんじゃないじゃん!」
たんかを切った美咲ちゃんのわりとがっしりとした肩が小刻みに震えていた。
「……それは、そうだけど」
いつも皆のムードメーカの冬真君も、今日はなんだか萎れている。
さっきからずっと下を向いていた沙夜ちゃんが何か思いたっようでパイプイスから立ち上がった。
「バンド名、加減に考えようよ!」
「……“チームへたれ”なんてどう?」
「それあんまりだ!」
葉流君の本気なのか冗談なのか分からない言葉に、やっと少し微笑んだ冬真君がツッコミを入れる。
「今のオレラの状況を上手く表してると思って。ちょっとウワサの、素人バンド見ただけで、ここまで沈むなんて、さ」
「ああ、たしかに!」
葉流君の毒舌に美咲ちゃんが乗っかる。この二人、組むと結構恐ろしいものがある。
私は頬杖をつきながら小さくフフッと含み笑いをした。
「…真面目に、考えよう!な、そんなの有希姉にあわす顔がないよ…」
「そうだ!マジ真面目に考えようぜ!俺だってそんなんだったらどんな顔して有希子さんに会えばいいか…」
ようやく五人は少しだけ元気を取り戻した。そうしていつの間にか、皆前を向くための音楽で、目標を見つけていた。
それでもいつも彼等の仲には私が生きていて、私のことを胸に刻んでくれている。それが何だか、キュンとして胸の辺りが、ジワッと熱いものが体の中に浸透した。
「やぁユキコ、また彼等を見ているのかい?とてもいい笑顔をしている」
振り返るとやはりマイクがニッコリと微笑んでいた。
「そうよ。私は彼等のお姉さんなんだもの。しっかり見守ってあげなくちゃ♪」
マイクはいつもしつこいくらい私に声をかけてくる。一秒でも長く彼等を見ていたい私にとっては迷惑きわまりないんだけど、彼は時々本当に優しい目と悲しい目で私を見つめる。その二つの極端な視線の意味も分からないのに、それがとても気になって、私は完全に彼を邪険にすることは出来ない。
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