始まり
四十九日の前日まで、泣き続けて泣き過ぎて乾いた顔をしていた陽介君は、空を見つめながら私にいってくれた。
「有希姉、ごめんね俺もう泣かないで、もっと頑張るからさ。一生懸命頑張るからさ、ずつと俺のこと見ててよ…」
可愛いあなたにそう言われた時から、私の悩みがとたんに小さく萎んで空に消えた。私の役目は、その一言でもう決まっていた。
五人は私が入った墓の前でただ、黙っていた。ただ黙って墓石を見つめ、その傍の石の中に新しく刻まれた私の名前を確認するように見ていた。もう陽介君の目に涙はなかった。だから四人とも、泣いてなんかいなかったの。
ただ一人、まだまだ押さない、葬式の日と同じ黒いワンピースを着たロングヘアの少女の目から、一筋の線を描くようにきれいな涙が流れた。
「…おねえちゃん…」
呟くようにそう言うと、下を向いて体を震わせた。小さな少女の、強く握られた両方の拳が小刻みに震える。
「…君、こないだも来てたね。有希姉の知り合い?」
そっと、静かな優しい声に、少女は大きな瞳をぬらしたまま顔をあげた。少女の目の前には、優しく微笑む陽介君が立っていた。
「悲しいけど、ずっと泣いていたら一番苦しいのは有希姉だから…そろそろ終わりにしよう?」
少女はボーっと陽介君を見つめた後、下唇を噛んで涙を止めた。そうして陽介君に、あどけない笑顔を見せた。その様子を少し遠くから少年は見ていた。「そのセリフ、昨日まで泣きっぱなしだったお前が言うのかよ!」と言いたいのをこらえ、微笑んでみせるのは冬真君。
五人の物語は、まさにここから始まったの。私の四十九日に、私の入りたての墓石の前で。先代の皆様への挨拶もせずに、無礼な私はひっそりと墓石の上に座り込んでそれを見ていた。誰にも内緒よ。
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