ただ、出会った
私の人生ははっきり言って恵まれすぎていた。だっていつも、とても楽しかったもの。バラ色というよりはむしろ虹色。
私、とっても音楽が好きだった。例えばピアノを弾くのも、聞くのも好きだけど…ねぇ、音楽って面白いのよ?どんな場所でも楽しくなるんだから。きっとそれは牢獄だって例外じゃない。家の中にある壁だとか、机にリモコン。叩いてみたことある?みんな違う音がするの。力の入れ具合や、やり方によっても違うけど。
そんなふうに私はありとあらゆる“音”が大好きだった。バスや電車が走る音や、人の足音一つ一つに興味を示した。もちろん楽器も好きだけど、ほぼ全てのものの音に反応する私を周囲は音楽バカといった。でも私はそんなこと気にせずに、留学までしたんだけどね。
それでも、そんな私でも好きじゃない音ってたくさんある。そのなかの一つが、大好きな陽介君の涙。
お隣の部屋に住む、九歳年下の可愛い陽介君はさっきからずっと、下を向きながら泣き続けている。その隣でギュッと唇を真一文字に結びながらチラチラと陽介君を気にしているのは冬真君。同じ団地に住む洋介君と幼馴染でこの辺りのガキ大将だったのに、高校生となった今ではあの有名高校の紺色のブレザーを着ていた。
「…泣くなよ陽介。お前男だろう!」
「…だって、有希姉が…」
囁くような小声でたしなめる冬真君。本当は自分だって真っ赤な目をしているくせに、昔から泣き虫の陽介君の前ではお兄ちゃんらしく、精一杯強がってみせる。
周りからは私の色々な話が聞こえてきて、なんだか盛り上がっている。
「なんか、信じられないなぁ。あの大和撫子が…」
「でもまぁ、あの大和撫子は色々やらかしてくれたからなぁ…」
「まぁ大和撫子なのはあくまで見た目だしな」
なんていうのは小学生の同級生の男子生徒諸君。そう、私大和撫子なんて周りから言われていたっけ。自慢だけど、結構キレイだったわ。
着慣れない制服が少し窮屈そうな体格のいい少女がそのやりとりを聞いて、不思議そうな顔をして呟いた。
「…ヤマト…ナデシコ?」
置き去りにされた子供のように寂しい顔をした少女は人々の群れに揉まれながらそっと大きな瞳から一筋の涙を流した。
「…おねえちゃん」
群れを避けて一人、隅に立った少年は何時間もずっと、無言で私の写真を見つめながら下唇を噛んだ。
葬式が終わって、人々が皆帰ってしまっても彼等はその場所を動こうとはしなかった。そうしてずっと、額縁の中で微笑む私を見つめていた。
その場所で五人は初めて、出会った。
思えば、あれって結構最悪な出会いだったんじゃない?だって皆それぞれ真っ赤な目でくしやくしゃな顔していたもの。……あ、葉流君はそうでもなかったんだっけ?
最後まで読んで頂きありがとうございます。
美と敵など頂ければ幸いです。