クロウ視点 ログアウトの光、そして“彼女を探す”という決意
——視界が白く弾けた。
クロウは、いや、黒川遼は、
ヘッドセットを外した瞬間、
胸の奥がひどくざわついているのを感じた。
(……ひより……?)
現実の空気は冷たく、
ゲームの中の温度とはまるで違う。
だが、胸の痛みだけはそのままだった。
遼は椅子から立ち上がり、
深く息を吸った。
(ひより……無事に戻れたのか……?
あの世界で倒れかけていた……)
心臓が早鐘のように鳴る。
ゲームの中での出来事は、
ただのデータではなかった。
ひよりの震える声。
涙。
笑顔。
手の温度。
全部、遼の中では“現実”だった。
(……探さなきゃ)
遼はすぐにパソコンを開き、
ゲームの運営会社のサポートページへアクセスした。
だが——
「……ダメか。
プレイヤー情報は開示できない、か」
当然だ。
個人情報は守られている。
それでも諦める気はなかった。
(ひよりは……“佐倉ひより”。
名前はわかってる。
あとは……)
遼は自分のログを確認した。
ひよりが倒れた直前、
運営が強制ログアウトをかけた。
(……ひよりは、あの瞬間……
現実で倒れた可能性がある)
胸が締めつけられた。
(病院……!)
遼はすぐにスマホを掴み、
近隣の病院の救急搬送情報を調べた。
——その中に、ひとつだけ名前があった。
「佐倉ひより(20) 意識混濁にて搬送」
遼の心臓が跳ねた。
「……いた……!」
震える手で病院の住所を確認し、
コートを掴んで家を飛び出した。
***
夜の風が冷たい。
息が白くなる。
遼は走った。
ただひたすらに。
(ひより……!
どうか……無事でいてくれ……)
ゲームの中で、
ひよりが光に包まれて消えていく瞬間が脳裏に焼きついている。
あの時、
遼は何もできなかった。
だからこそ——
現実では絶対に守る。
(あんたが“現実で会いたい”って言ってくれたから……
俺は……来たんだ)
足が痛くても、
息が切れても、
遼は止まらなかった。
***
病院の前に着いたとき、
遼はしばらく立ち尽くした。
胸が痛い。
怖い。
でも——
(会いたい)
その気持ちが、
遼の背中を押した。
自動ドアが開く。
白い光が差し込む。
受付に駆け寄り、
遼は震える声で言った。
「佐倉ひよりさん……!
彼女は……今、どこに……?」
受付の女性は少し驚いた顔をしたが、
すぐにカルテを確認した。
「佐倉ひよりさんは……
はい、こちらの病棟の個室にいらっしゃいます。
ご家族の方ですか?」
遼は一瞬だけ迷った。
だが、すぐに答えた。
「……大切な人です」
受付の女性は微笑み、
病室の番号を教えてくれた。
遼は深呼吸をし、
ゆっくりと歩き出した。
(ひより……
やっと……会える)
病室の前に立つと、
遼の手は震えていた。
ノックをする前に、
胸の奥で何かが強く脈打った。
——ドクン。
(……あの世界の泉と同じだ)
遼はそっと扉をノックした。
「佐倉ひよりさん……?」
扉が開く。
ベッドの上で、
ひよりがゆっくりと顔を上げた。
その瞳が遼を捉えた瞬間——
ひよりの目に涙が溢れた。
「……クロウさん……?」
遼は微笑んだ。
「やっと会えたな、ひより」
そして、
二人の現実の物語が始まった。




