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アナスタシス・コード ― 悪役令嬢は理を塗り替える  作者: ふりっぷ


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8/12

アルベリオン公爵家の動揺

追放された娘を諦めないアルベリオン家が、ついに動き出す――

王宮に密かな刃を向けた夜、家族の絆が記録を揺らす!


――王妃の密談の余波が、王都の夜に冷たく沈む。


アルベリオン公爵邸の応接室では、

火の消えかけた暖炉だけが、かろうじて明かりを投げていた。


「くっ……クラリッサが、あのようなことをするはずがない!

どうして私は声を上げなかったのだ!」


レオポルド公爵は、拳の骨が軋むほどテーブルを叩いた。

燭台が揺れ、メイドが小さく息をのむ。


彼の視線は、手にした封蝋付きの書簡に縫いつけられている。

王宮から届いた正式な通達――


『クラリッサ・ヴァレンティナ・ド・アルベリオン、追放命』


文面は完璧に整えられていた。

しかし、記録家門の当主である彼には分かる。

これは“書かされた文”だ。


「……だからといって、娘をここまで貶めるとは。

アルトリウスめ。王族だからとて容赦はせぬ。」


その言葉に呼応するように、扉が静かに開く。


老執事グレイスが姿を現した。

手には、クラリッサが愛用していた羽根ペンが握られている。


「お嬢様は、馬車の御者にこれを渡されたそうです。」


「形見でもあるまいに…。」


レオポルドは羽根ペンを受け取る。

握り締めた指先が白くなるほど力がこもる。


ゆっくりと椅子へ腰を下ろし、深く息を吐いた。


「王命に逆らえば、我が家は終わる。

だが……あの王家の“記録書”には、確かに書き換えの痕跡があった。」


「では、陛下にご報告を?」


「間に合えば…だがな。」


重苦しい沈黙。

暖炉の火が、乾いた音を立てて爆ぜる。


その時、控えの間から小柄な影が現れた。

弟ジュリアンだ。

分厚い文書を胸に抱え、真っ直ぐに父を見据える。


「父上。姉上の記録は、消されていません。

学園時代に通われていた王立図書塔の記録層に、

隠し署名が残っていました。」


「なんだと……?」


「《A.C.》――アナスタシス・コードの略号です。

姉上は“自分が消えること”を、最初から予期していたのかも。」


レオポルドは目を閉じ、

燃え尽きていく炎の赤を見つめながら呟く。


「……お前の姉は、我々が考えるよりもずっと遠くを見ていた。

だが王家は、その意味を理解しないまま、“真実”に縛られている。」


そこへ、王妃セリーヌの密使が到着する。


封蝋の紋章を確認した瞬間、

レオポルドの表情がわずかに揺れた。


密使は、短い言葉だけを告げる。


「王妃殿下より――

“理を疑うな”との伝言です。」


「……理を、疑うな……?」


その一言が、逆説の刃のように胸へ沈む。


「つまり――“理は既に狂っている”ということだ。」


レオポルドは立ち上がる。

机上の羽根ペンを握りしめ、声を絞り出す。


「法服貴族、帯剣貴族が

どれほど第一王子に取り込まれているか、至急調べろ。

これまで静観していた第二王子、第三王子の派閥もだ。」


「ただちに。」


従士たちが足早に部屋を離れていく。


「国王陛下に面会の文を出せ。……私が動く。」


「では、私がしたためましょう。」


老執事グレイスが静かに頷く。


レオポルドは、羽根ペンを掌で包み込むように持ち上げた。


「クラリッサ……必ず真実を取り戻す。

アルベリオンの血に刻まれた“記録”を、もう一度蘇らせるために。」


夜明けの鐘が鳴り響き、

王国が新しい頁をめくるかのように、静かに空気を震わせた。


その頃――ミレーユ夫人は朝焼けの空を見上げ、

指先を胸の前で組みながら囁く。


「クラリッサ……どこにいるの。

あなたは――まだ、生きているのでしょう?」


その祈りは、遠く離れたクラリッサの胸へ微かに届く。


瞬間、《プリムローズ・メモリア》がそっと囁いた。


――【血縁共振:記録の糸、繋がる】。

母の祈りと王妃の密命が重なり、

クラリッサに繋がります。


家族の話が続きましたので、明日もう一度更新いたします。

評価・応援よろしくお願いいたします。

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