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アナスタシス・コード ― 悪役令嬢は理を塗り替える  作者: ふりっぷ


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12/12

偽りの戴冠──王都リオネール

王都リオネールは深い霧に沈み、

王家の“理”さえ書き換えられつつあった。

クラリッサ、エルネスト、ルシアンの三人は、

改竄された継承の真相を確かめるため、静かに都へ戻る。

王都リオネールは深い靄に沈んでいた。


王宮の尖塔まで霧に覆われ、

鐘の音さえ、水の底で響くように鈍い。


その街道を、一台の馬車が静かに進む。


乗っているのは――

クラリッサ、エルネスト、ルシアン。


「アルトリウス殿下がすでに戴冠していたら……

私たち、反逆罪よ?」


クラリッサの問いに、

エルネストは視線を前へ向けたまま答えた。


「まだだ。クラリッサに続き、

私も公に断罪したいはずだろう。


第二王子である私がクラリッサを隠匿した罪、

王都招集に応じなかった罪、

地方貴族の軍を動かした罪――いくらでも並べられる。」


冷静な口調だったが、王都に入った瞬間、

彼の肩越しに漂う“焦り”の気配を

クラリッサは敏感に感じ取った。


馬車が西門をくぐる。


待ち構えていた兵たちが整列し、敬礼する。

その中心に立つのは、宰相カリドン。


「お戻りとは驚きましたな、殿下方。

陛下は最後までご心配されておりました。

今は王妃殿下が政務を統べておられます。」


「知っている。」


エルネストは無表情に返す。


「宰相からの忠告だけが我々の情報源だと、

思わないで欲しい。


……さて、私は“誰”と話している?」


その瞬間、クラリッサの胸元が熱を帯びた。


コードの粒子が門の理紋に触れ、

金の残光が一瞬だけ凍りつく。


《プリムローズ・メモリア》が囁いた。

――【理の濁り検知】。


カリドンの目が、細く鋭くなる。


「まるで、陛下の理を疑っておられるようだ。


――今日は日も沈む。迎賓館へご案内しましょう」


その視線がクラリッサへ移った。

背後には王妃派の貴族が、影のように控えている。


クラリッサは、そっとルシアンの袖をつかんだ。


「……ここはもう、“記録”が改められてる。」


「そうだね。」


ルシアンの声は微かに震えていた。


「この王都全体が、

《ファタリス・シール》の支配下にある。」


――夜。


三人は王都外れの古塔に潜み、

乱れた理紋の残響を解析していた。


エルネストの指が空中を走り、

理の文字が淡く浮かび上がる。


「……やはり父が持っていた

《記憶書》も書き換えられていた。


“王家の継承”は、

すでにアルトリウスと記されているはずだ。」


クラリッサの瞳が揺らぐ。


「王家の……継承?」


「父は王位継承に際して、

“真理”“解析”“共振”――三つの理が揃うことを条件にした。」


エルネストは重く息を吐いた。


「だがアルトリウスの血には、

偽りの“理の継承”が刻まれている。


本来彼が奪ったはずの《理の印》は

――クラリッサ、君が取り戻した。」


ルシアンが顔を上げる。


「ルシアン殿下……あなたの“共振”は奪われなかったの?」


「ああ。僕は――別のものを捧げたから。」


その瞳に、一瞬だけ痛みが走った。


「不完全な理紋では、王族を完全に縛ることはできない。」


エルネストは静かに拳を握る。


「宰相カリドンも、まだ正気の時間があった。

今は夢と現実の狭間を彷徨っているのだろう。」


そして、決意を帯びた声で告げる。


「明日、すべてに決着をつける。」


静寂が落ちる。


クラリッサはその言葉を受け止め、息を整える。


「……戦う理由なら、私にもある。

マリアに抗えるのは――私しかいない。」


エルネストが彼女を見た。

その瞳に宿るのは、冷静さではなく、強い光。


「君が言うと、本当に“理”が変わりそうだ。」


ルシアンは微笑む。


「理を変える令嬢。理を奪われた王子。

そして……それを支える僕は何になるんだろうね。」


クラリッサは優しく返す。


「あなたは――“理を包む者”。

あなたの心は、誰よりも優しい。」


夜風が塔を抜け、三つの理紋が淡く共鳴する。


まるで壊れかけた世界のどこかに、

まだ希望が残っていると告げるように。


僅かな仮眠を取り、三人が塔の階段を降りたところで、

弟ジュリアンが待っていた。


「ジュリアン!? どうしてここに――」


「姉様、説明の暇はありません。

宰相は完全に掌握されてしまいました。こちらへ。」


ジュリアンは二人の王子に深く礼をする。


「王宮大広間へご案内します。」


「待て。歩きながらでいい。

アルベリオン公爵はどうなった?」


ジュリアンの表情が凍る。


「陛下への面会を求めたところで……捕らわれました。」


「罪状は?」


「反逆罪です。」


クラリッサは息を呑む。


「……私のせいね。」


「父上からの伝言があります。」


ジュリアンは少しだけ目を伏せ、言葉を震わせた。


「――『家のことは気にせず、戦え。

 私は最後まで、お前の父でいられればそれでいい』」


胸の奥で何かが熱く弾ける。


「ジュリアン……

あなたにも迷惑ばかりかけてしまったわね。」


「僕の想いも、父と同じです。」


ジュリアンは微笑む。


「さあ、姉様。こちらへ。

衛兵に囲まれてではなく――未来の王妃として。」


そして、別れ際にひとことだけ。


「……どうか、生きて戻ってきてください。」


闇へ溶ける弟の背中を、クラリッサは静かに見送った。


瞳の奥から熱いものが零れた。


――そう、最後の別れなどではない。

次章では、ついにマリアと直接対峙します。

どちらが勝利しても、王国の未来を大きく揺るがすことになるでしょう。

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