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アナスタシス・コード ― 悪役令嬢は理を塗り替える  作者: ふりっぷ


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断罪の舞踏会

華やかな舞踏会から一転、

理紋の光に“嘘”を刻まれたクラリッサの絶望

――あの瞬間から、彼女の運命は「書き換え」の渦へ。


《プリムローズ・メモリア》の囁きが、

凍える雪原で何を呼び起こすのか?

王立宮殿、大広間。


冬の終わり、王都最後の舞踏会。

千の蝋燭が黄金の天蓋に揺れ、

貴族たちの笑い声が音楽のように交錯する。


階段の頂に立つクラリッサは、

紅のドレスに身を包み、微笑みを湛えていた。


その姿は、まるで“王妃の予兆”。誰もがそう信じていた。


――少なくとも、この瞬間までは。


楽団の弦が静まり、夜会のざわめきが凍りつく。


「マリア!」


第一王子アルトリウスの声が、広間を切り裂く。


振り返ると、

階段の下にマリアが倒れていた。


純白のドレスが、こぼれた葡萄酒を吸い、

赤い花のように広がっていく。


彼女の指先は震え、

青ざめた顔には、深い恐怖が貼りついていた。


「……殿下、私は――」

クラリッサは言葉を失う。


だがその瞬間、マリアの胸元の聖紋が淡く光った。

ざわめきが爆発する。


マリアが震える声で囁く。

「クラリッサ様が

……私に“触れた”瞬間、光が……!」


「見たわ! アルベリオン嬢が、

聖女様を押したのを!」


「王家の理紋が嘘を暴く

――それが、この国の“真実”だ!」


貴族たちの指が、

階段の上に立つクラリッサを裁くように伸びる。


観衆がざわめき、アルトリウス端正な顔を歪め、

厳しい眼差しでクラリッサを見た。


「弁明はあるか?」


「いいえ、殿下。何を申しても、

 信じてはいただけないでしょう」


マリアの胸元から

金色の文字や紋章のようなものが空間に浮かび、

目に見えない光の糸が、世界の記録を編み替えていく。


そこには――

“婚約詐称・魔術干渉・王家侮辱”

の罪状が並んでいた。


その“光”

――王家の理紋の共鳴。

本来、嘘を暴く神聖な反応。


だが、クラリッサの目にははっきり見えていた。


波がずれ、魔力線がわずかに乱れている。


(……これは“理”をねじ曲げた光だ。)


階下からマリアの声が響く。

優しく、だがどこか歌うように。


「どうか、もうお許しください。

 クラリッサ様も、きっと迷われただけ……」


その声音には、

誰にも気づかれぬ“嘲り”の棘が潜んでいた。


「クラリッサ・アルベリオン。

 我が名において婚約を破棄し――」


アルトリウスの宣告の声を遮るように、

クラリッサは静かに背筋を伸ばした。


揺れない瞳で、真っ直ぐ王子を見つめる。

「殿下。

 最後にひとつだけ……お願いがございます」


「……なんだ」


「どうか、思い出して下さい。

 学園で私と過ごした日々を」


一瞬――

アルトリウスの瞳が揺らぐ。


しかしその視線は、すぐにマリアへ向かった。


いや、正確には――

マリアの胸元の“光”に吸い寄せられた。


クラリッサはその“固定された輝き”を見て、

息が止まりそうになる。


(……あの光。

 殿下の記憶すら、書き換えている)


そして、決定的な一言が降り下ろされた。


「王都より追放を命ずる!」


広間に、重い沈黙が落ちた。


父、アルベリオン公爵の肩が震え、母は唇を噛んだ。

けれど、誰一人声は上げなかった。


まるで、ここが“決められた場面”であるかのように。


◇   ◇


車輪の軋む音が、夜気の底に遠ざかっていく。


王都を離れる街道は冷え、吐息さえ白く散った。


クラリッサは肩掛け一枚に包まり、

震える指でドレスの裾を握っていた。


夜会の栄華も、絹の香も、

もう彼女のものではない。


――理紋の光が、彼女を罪に染めた。

あの歪んだ輝きが、誰もが信じる「真実」となった。


「どうして……」


小さく呟いた声は、凍える風に溶ける。


そのとき――

胸の奥で、音がした。


馬車の車輪の音が止まり、寒さのせいか耳の奥に

キンとした痛みが走る。


――記録の逸脱を検知。補正を開始しますか。


「……誰?」


耳ではなく、意識の深層に、

澄んだ声が響いた。


少女のようで、無数の囁きが重なる声。


――あなたは、記録の外に落ちました。

けれど、あなたはまだ“書きかけ”です。


「書きかけ……?」


――はい。

あなたの名は、まだ世界の記録に刻まれていません。


何を選び、何を失うかで、結末は“変わる”。


瞬間、クラリッサの瞳に映像が流れ込む。


学園の庭。

私に花を捧げ優しく笑う殿下。

その隣で、マリアが寄り添い微笑む。


――“別の結末”。


花の香りが、失われた記憶のように甘く残る。

(これ……見たことがある。私の……違う人生?)


世界が揺らいだ。

視界の端に、光の花弁が舞う。


淡いピンクに透けるそれは、ひとつの名を告げた。


――《プリムローズ・メモリア》

【凍結解除、記録改変率:1%解禁】


「それが……?」


――いいえ。

これは、“世界の記録”の名です。


そして――

――あなたは、“例外”です。


馬車が大きく揺れ、車輪のガタガタとした

振動が現実を甦らせる。


何も気づいていない様子の御者が遠くで言う。

「もうすぐ国境だ」


クラリッサは薄い唇を噛み、

震える息を落とした。


涙はもう、流れなかった。


「……だったら、私が書き換える」

独り言。


罪に染められたはずの光。

その歪みの中で、クラリッサは静かに誓った。


――この世界の“記録”に、私の真実を刻む。


第一話、読んでくれてありがとうございます!


第二話では、追放されたクラリッサが国境の白銀の大地に足を踏み入れ、

謎めいた第二王子エルネストと邂逅します。

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