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JAZZ of IZU

チャーリーは魔法使い

作者: 咲好 千恵
掲載日:2026/01/24

 夏になった、と私は思った。電車の中は色んな臭いが混ざっているし、自分の身体も汗ばんでいる。あーやだな。もう8月だ。太陽は燃えまくってるし、もっと暑くなるかな。でも頑張って行かなきゃ。今日はマイケル・ブレッカーのコンサートだぞ。なのにバイトが長引いて電車に乗るのが遅くなってしまった。降車駅から会場の市民会館まで少し歩かないといけないし…あーもーイズ頑張れ!自分で自分を励ましながらやっと現着。太陽が燃えてる。暑さにクラクラする。

 階段登って正面玄関に入ってしまえば…あぁ、やっと入った!涼しい!冷房が効いてる!マーゴはどこかな?もう席に着いているのかな?

 入り口で待機しているお兄さんにカバンの中を見せる。録音機材を持っているとお預かりになる。そうだった。私も小型カセットデッキを持っていた。お兄さんに取り上げられたー。また返してくれるけどね。黙って演奏を録音して売る人がいるんだって。ダメだよね、そういうことしちゃ。

 次にいたお姉さんにチケットをもぎりしてもらって、たくさんチラシをもらう。あとでゆっくり見よう。チラシはデカカバンにIN

 ロビーでは私みたいに待ち合わせしてたり、CD売ってたり、買ってたり、5、6人のグループで大声で喋ってたり、笑ってたり、タバコ吸ってたりしている。みんなもうすぐブレッカーに会えるかと思うと嬉しいんだな。わかるよ。楽しみだね。

 ブレッカー→マイケル・ブレッカーはアメリカのジャズサックス奏者だ。もうスゴイのナンのって。テクニックは半端ない。超絶技巧なんて言葉も超えてる。センスも曲もいい!一部メカニックすぎる、なんて言う人もいるみたいなんだけど、分かってないな。あのテクニックは表現の結晶なんだよ。練習して練習して理想を実現した音楽なんだよ。曲も難解、なんて言う人がいるけど、そんな事はない。とってもいいよ。私は大好き。

 ブレッカーはソロアルバムをリリースした。正にブレッカー世界の実現だ。ツアーの一環で日本にもやって来る。生ブレッカーに会えるんだから、行かなくてはならない。私にとっては少々高額なチケットを即購入した。

 友達のマーゴと一緒に買った。マーゴは私のジャズ友達。ジャズの師匠ともいえる。チケットの席番を見てマーゴを探す。いたいた!目と目で合図。「イズ、ここだよ」「ごめんねー。バイトがあってギリギリになっちゃったよ」「いいよ、いいよ。それよりもうすぐブレッカーだよ!」「うん、待ち遠しい!」ナンちゃらカンちゃら…

 そしてライブ公演は始まり、ブレッカーバンドが現れた。会場は拍手やヒューやイェイなんかで大盛り上がり。一体感を感じまくり。のっけからスゴイのきて、私とマーゴ、そして会場の皆んなはブレッカーの圧倒的な音楽に巻き込まれる。


 何でこんなにスゴイんだろう。私はブレッカーの100万分の1って感じ?いやそれ以下かも。ミジンコぐらい?あんな風にはなれないだろうな。「ホント凄すぎるよね」マーゴも未だ興奮冷めやらず。「でも聴けて良かった。辿りつかないかもしれないけど、目印の北極星を実感できた」「なるほど。私達は地べたをジャンプするくらいだけど、北極星取りに行こう!」「うん、頑張ろう!」「今度会うのはキーボードのセッションだよね」「そう。初めてのお店だけど、ソニさん来るからさ、勇気出して行ってみよう!」「うーん、緊張してきた」「大丈夫、大丈夫」ナンちゃらカンちゃら…


 駅でマーゴと別れる。自宅までは1時間半電車に乗ってないといけない。身も心もブレッカーだったから、クールダウンには丁度いいかも。でも私の意識はまだブレッカーの渦の中。すごかったな。電車乗り場間違えないようにしなきゃ。

 そして妄想の世界へ…私とマーゴ、ブレッカーみたいに吹けてライブとかできちゃったら最高!道は遥か彼方まで繋がっていそうだけど。マーゴと見に行けて良かった。

 電車のガタンガタンを聞きながら私のジャズとの出会い、マーゴとの出会いを思い出す。


 私は音大のサックス科を卒業してプラプラしてた。当然自立などできる訳もなく、実家で父と母に面倒を見てもらってた。今もそうだけど…。

 お小遣い稼ぎのためにレンタルレコード店でバイトしてる。元々よく通った店なので、レコード借りれて、バイトもできて一石二鳥な感じで。

 世の中景気がいいらしい。私ぐらいの世代は海外旅行したり、オシャレして踊ったり、ブランド物の服やバッグもバンバン買うらしい。残念ながら、全て私には縁がない。

 父は「女の子はコピー取って、お茶出してれば給料貰えるのに、なんで就職しないんだ?」と言う。なんでかな〜多分父は男の子にはそういう事言わないんじゃないかと…薄ぼんやり思ってる。母は私が何考えてるか分からないって感じ。ブツブツ言われた事は無いけれど…見透かされてるような気がしないでもない。

 音大ではもちろんクラシカルサックスを勉強してた。好きな曲もいっぱいある。奏者として活躍する夢もみてた。でも何だか力量の限界みたいなものを感じていたし、自分に合ってないような気もしてた。難しくても譜面通り吹かないといけないしね。今では、この曲を吹きたいんだ!という気合いが入らない。追求する気持ちが薄れてる。人間はいろいろ変わることもあるんだよね。

 学生時代に初めてジャズに出会った。誘われて始めたビッグバンド。でもなんか楽しくてやってただけで、ビッグバンドを深掘りしたことも無い。ビッグバンドはサックス5本、トランペット4本、トロンボーン4本、ピアノ、ギター、ベース、ドラムという大きな編成のバンドである。多少違う楽器が入ることもある。分かっているのはそれくらいで、配られた譜面を喜んでやってただけだ。時々譜面に'ad-lib'と書いてある。’自由に'という意味なんだけど、何をどうするんだろう…なんて思ってた。

 その後ジャズをやってる人は即興で演奏できるらしい、と知った。そこには純粋に興味がある。吹きたい曲が吹けて、即興もできる。カッコいいな〜。バッハもモーツァルトも即興で何でもできたらしいし。音楽家はかくあるべし。ま、即興しなくても、誰かと音楽するのは何でも楽しいんだけどね。

 という訳でアドリブ吹きたくてジャズやろうと思ったんだけど、どうしたらいいのか分からない。巷ではジャズとロックの融合というフュージョンが大流行りしてる。イヤでも耳に入ってくるが、何がイイのか分からない。私はフュージョンには興味を持てない。ブレッカーは好きだけどね。

 音楽雑誌などを見てみると、ジャズサックスではジョン・コルトレーンという人が有名らしい。バイト先のレンタル屋で探してみると、LPが売ってた。今はLPからCDへの移行期で、レンタルLPは安価で売られてる。私は700円で買った。コルトレーンの『至上の愛』これくらい安ければ買える。

 聴いてびっくり!このアルバムはコルトレーンの絶頂期なのか?とにかく吹きまくってるアルバムだ。1曲が長いのはクラシックで慣れているので、何とも思わなかったけど、ずーっと持続する情熱に驚いた。バッハみたいに身も心も音楽に捧げている、と感じた。私も浸りたいという魅力を感じた。要するに良かった。

 次のコルトレーンは『バラード』これもLPで700円で買えた。これは『至上の愛』とは全く違っていた。バラードをコルトレーンが歌ってるみたいに吹く。吹くのは主に主旋律でアドリブは少しだけ。朴訥とした誠実さに、音への愛情を感じた。1曲目のSay Itに聞き覚えがあった。ウィスキーのCMで流れてたんじゃなかろうか…好きだったので、楽譜を書いてLPのコルトレーンと一緒に吹いたりした。


 またもや雑誌情報だけど、ジャズやってる人はセッションというモノに行くようだ。演奏する曲をその場で決めて、その場にいた人達でバンドでやるらしい。私の音楽経験から考えると、ホントにそんな事できるの?と思ってしまう。でもSay Itをいつまでも独りでやっていてもダメだろうな。よし!セッションに行ってみよう!よく分かんないけど。

 レンタル屋の近く、地下に潜ってその店はあった。以前から目をつけていたのだ。毎週ジャンルを変えて、土曜日セッションをやってるようだ。私はジャズセッションの日に行ってみた。

 店に入るとまあまあ広かった。名前と楽器名を表に書くよう言われた。店内はガラガラだったので、適当な席に座った。受付の人が「じゃ、初めてだからイズさん行きましょう」と呼んでくれた。この人は司会もやるんだ。

 私がステージに立つと受付&司会の人がピアノの前に座った。へーピアノも弾くんだ。受付&司会&ピアノ弾き。私は予定通りSay Itをコルトレーンが吹いたまま演奏した。コルトレーンはテナーで吹いてるけど、私はアルトサックスで吹く。ピアノの間奏はレコードとは違ってて、なんか変だな、と思ったが気にせず吹いた。

 吹き終わって、少々の拍手をもらって、果たしてこれがジャズなんだろうか?よく分からないので、1人で他の人の演奏を聴いていた。とにかく知らない曲ばかりで、さっぱり分からない。 私より少し年上の男の人が向かいに座った。「セッション初めて?」「そうです」「他に何やるの?」「My One とかMisty とか好きです」「え〜My One とMistyじゃまるで違うよ」と言われてしまった。違うとダメなの?何がダメなの?ジャズってめんどくさい。

 次に年配の男性が来た。「君はアルトサックスをやるのか?」「はい」「チャーリー・パーカーは知っとるか?」「少し聴いたことあります」嘘ではない。コルトレーンと並んでチャーリーもよく雑誌に登場していたので、LPを借りてみた。聴いてみたけど、音はAMラジオぐらい悪いし、音楽もチャラチャラしてて、何がいいのか?サッパリ分からない。でも「じゃあナウザタイから練習しなさい」とオジサンは言う。「ナウザタですか?」「そうだ」と言ってオジサンは去って行った。ナウザタって何だ?

 次に来たのは同世代の男の子だった。「ねぇ、君ジャズやるの?僕と一緒にバンドやろうよ」彼の演奏は既に聴いていた。彼は完全なるロックドラマーだ。ジャズは私と同じく初心者と思われる。私が教えてもらいたいのに、初心者同士では…難しい。「また今度ね〜」と言って別れた。

 ジャズが分かったような分からんような感じで店を出た。受付&司会&ピアノ弾きのオジサンに「また来てねー」と言われた。やっぱりよく分からない。今思えばこのセッションで、私はリードというサックスにはなくてはならないパーツを忘れてしまったようだ。


 帰宅したら、父と母はテレビを見ていた。最近ノッテるカガアナウンサーのコーナーだ。今日のテーマは豚肉料理のようだ。「欧米では豚のあらゆる部分を使った挽き肉料理があるんですよ。アップルバターなどを付けて食べるんですが、ぜひ私の料理のレパートリーに加えたいですね…」

 何のこっちゃ。カガアナはいつも最もらしいような、らしくないような事を言っている。またネクタイピンは鳥さんだ。カガアナは鳥が好きらしい。たまに着けてる。そして父も母も何故かこのコーナーが好きらしい。

 私は取り置いてあった晩御飯を食べて、二階の自室へ行く。セッションはあんな感じなのかな?そして考えた。次はもう少しジャズが盛んな店のセッションを見に行ってみよう。'ぴあ'という催し物を紹介している雑誌がある。私はぴあを熟読して、街の方がジャズの店がたくさんあることが分かった。

 それらの店に行くには電車に乗って行かないといけない。ライブもやってるようだ。とりあえずライブを1回見てみようか。サックスがいて、お手頃価格のライブを探した。候補ライブがあった。


 その店は老舗らしい雰囲気が漂っていて、アンティークの雑貨やロートレックのポスターが飾られている。古びた雑多な感じだ。その日のミュージシャンは人気者なのか、店は混雑していた。相席させてもらうしかない。同世代の女子を探した。すると理知的なオデコにサラサラストレートの髪がきれいな子がいた。瞳もグリーンなのかブラウンなのか、吸い込まれそうなくらいきれいだ。着ている服も上品というか高価な感じだ。私は思わず自分の服装を見た。TシャツとGパン。高価ではない。私が声をかけても相手にされないのではないか…どうしよう…少し怖じ気づいた。でも他に同世代女子はいない。彼女が座っているテーブルに行って、緊張しながら「すみません。この席空いてますか?」と尋ねたら、純粋な輝きを放ちながら、彼女はニッコリ笑って「どうぞ」と言ってくれた。嬉しかった。ホッとした。仲良くなれそうな気がした。調子に乗って自己紹介してみた。「私はイズ。ジャズをやってみたくて、今日は初めてジャズのライブを見に来たの」「そうなんだ。私はマーゴよ。ジャズ、気にいるといいね。分からない事があったら、何でも聞いてね」へーすごい、と思った。ジャズを知ってるんだ、と思った。調子に乗って良かった、と思った。

 この日のライブはインストバンド。楽器奏者だけで演奏している。最初はテーマと呼ばれる主要な旋律を演奏する。次に1人ずつアドリブソロを演奏する。テーマと同じサイズ同じ進行なんだけど繰り返しても良い。自分のソロをやったら、次の人に合図して回す。リーダーが指示を出すこともある。皆んなソロが終わったら、またテーマを演奏して終わる。時には掛け合いでソロを回すこともある。「大体こんな感じだよ」とマーゴが教えてくれた。「そうなんだ。テーマを基にソロをやるんだ。じゃあテーマがどういう音楽なのか分かってないと、自由に吹けないよね」「そうなの。テーマは大切」

 「ソロをやるために何を練習すればいい?」「最初は1曲決めた方がいいかな。聴いてテーマとバックの響きの感じを耳と心で覚える、かな。響きは和音で大体表される。和音はコードっていう便利な記号があるから、コードを覚えるといいよ」「コードって楽譜に書いてあるアルファベットと数字の記号だよね?あの音を覚えるの?」「そうだね。コードトーンをリズムに乗せて吹いてみたりね」わー難しそう…「ピアノでテーマを弾きながら、コードを弾いてみたり」更に難しそう…テーマとコードか…

 私は前回のセッションで、チャーリーのナウザタをやるように言われた事を思い出して、マーゴに言うと「それはNow’s The Time だね。この曲を練習するのはとてもいいと思うよ。私もよくやってる」と教えてくれた。オジサン、いい事言ってたんだ。チャーリーはあんまり好きじゃないけど、マーゴが言うならやってみようかな。

 主の目的であるインストライブは、分かったような、分からんような…マーゴは楽しんでいるようだが。でもマーゴの言うテーマとソロの関係は何となく分かった。

 「今度は一緒にセッションに行ってNow’s the time をやろう!」とマーゴが言うので、練習しなければならない。できるだろうか?楽しみだけど心配だ。

 その日の帰りの電車の中ではメチャクチャハッピーを噛み締めた。ジャズ友ができたのだ。それもあんなにきれいな子。色々教えてくれるし、一緒にセッションに行く約束までした。何という幸せ。今まで1人であーでもないこーでもないと、ノロノロしてたことを思えば、目前にパカっと道が開けた感じだ。今日行って良かった。なんていい日だ。

 家に着くと父と母はやっぱりテレビを見てた。そしてやっぱりカガアナのコーナーだ。「人類学が危険に晒されたとしたら、鳥類学者にも確認が必要と考えます…」人類学と鳥類学ってそんなに近しい間柄なの?意味分からない。


 とりあえずNow’s The Time だ。レンタル屋で再びLPを借りて聴いてみた。他の曲は聴いてもよく分からないから、Now’s the time のみを聴く。わりと短い曲だな。テーマは歌える。その後はきっとアドリブ部分で、何だか同じ調子に感じるんだけど、真似して吹くなんて…とんでもない。手も足も出ない。

 どうしようか?楽譜ないかな…と探してたらあった。ラッキー!『アルトサックスアドリブ名演集』という本に載っていた。チャーリーをはじめ、アルトサックスの名手のアドリブソロが楽譜になっているんだよね。買っといて良かった。こういう楽譜本はすぐ絶版になるからね。いいなと思ったら買わないと。よし!頑張るぞ!楽譜は読めるからね!練習!練習!

 普段の練習は家でやってる。午前11時から1時間ほど。住宅地だけど、それほど密集してるわけではない。練習部屋=私の部屋の隣りはミカン畑だし。

 Now’s the time はテーマは大体覚えた。簡単だからカセットテープに合わせて吹ける。カセットテープはLPを録音したものだ。しかしアドリブソロに入ると難しい。何度も巻き戻して1フレーズがやっと。でもこれを地道にやるしかないか…サッパリなんだけど…

 不思議なことにNow’s the time を練習すると、全然何もできてないんだけど、何となくジャズの節回しが分かったような気がする。これはチャーリーの魔法だな。ジャズをサラッと触った気がするだけか?チャーリー・パーカーか…他の曲もやったらもっとジャズが分かるんだろうか?


 午後からはレンタル屋にバイトに行く。バイトは学生が多いから、昼間やテスト期間中は私は忙しい。戻ってきたレコードやCDをきれいにして、元の棚に戻す。今のところCDとLPは半々かな。本当にCD増えてきたな。CDはその名の通り、コンパクトすぎて有り難みが無いというか、哀愁が無いというか…ちっちゃいしね。

 レンタル屋には社員さんもいる。私が直接関わっている社員さんは2人いる。メガネさんとメガメガネさんだ。ご想像通り、メガネさんは普通のメガネをかけている。メガメガネさんは大きなメガネをかけているのだ。どちらも私より少し年上だ。ある日メガネさんが「明日の夜皆んなでご飯食べに行こう」と言った。1年に一回くらいはこういう行事に参加するべきかな、どうしようかな、と思っていると、メガメガネさんが「みんな来るよ。イズちゃんもおいで」と言った。皆んな来るなら仕方ないな。行くか…

 ところがどっこい⁈集合したのは4人だけ。メガネさん、メガメガネさん、私、私の知らないバイトの女子。もしかしてこれはフィーリングカップル2対2というモノではないか?「付き合ってる人いるの?」とか聞かれちゃうし…私はそういうつもりで来てないんだけど…明日はどんな顔してバイトに行けばいいのか?せめて仕事柄好きなアーティストや音楽、映画の趣味など語りたかった。それだったら楽しめたかも…もうバイト辞めた方がいいのかな。悩みの種がひとつ増えた。 

 

 帰宅したらカガアナコーナーはまだ始まってなくて、ニュース番組だった。ゴルバチョフがソ連の書記長になって以来、世界がどうも慌ただしい。民主化したり、民族毎に独立したり…でもアジアは違うらしい。世界地図が変わるかもしれないのに、民は権力者に踊らされてるだけなのか?せめて自国の民を武力で制圧しないでほしい。そんな哀しいことがあるだろうか?どうして人間同志で戦うんだろう。いつまでやるんだ。


 そんなこんなでついにマーゴとセッションに行く日になった。一応Now’s The time は完璧とはいかないが頑張った。コピー譜そのまま吹くなら、何とかなる。しかし相変わらず何も分かってない。アドリブは…できそうにない。でもマーゴがいる。何とかなるだろうと、気合を入れて電車の中では奮起してた。

 楽器、アルトサックスを持って、楽譜を持って、財布とかもろもろ…結構な荷物なのだ。乗り換えがあると、駅によっては広い構内をまあまあ歩かねばならない。

 電車でやっと座れたー。ほげーとして吊り広告をみる。最近ヤクザの方々の抗争も激しいらしい。やだなぁ。勝手に山奥で誰が1番強いか?決めればいいのに。

 写真週刊誌が大流行りで、吊り広告もいっぱい。政治の話題もあるけど、メインはやっぱり暴力団抗争だ。広告の見出しを見て、分かった気になる。なるほど、なるほど。

 

 そんなこんなでセッション会場に到着。最寄り駅から少し歩いた。太陽はギラギラしてるし、サックスを持っていると結構キツイ。その上この店は2階だ。階段もキツイ。でも私より重たい楽器を持って歩く人もいるよね。ナンのコレシキ。

 この店のマスターはギタリストらしい。ギターが壁に4本掛かってる。どんなギターかは知らないけど。いいよね、プレイヤーでもあるマスターって。何となくミュージシャンに愛情を持っていそう。

 ステージの前は客席って感じで、近い。緊張しそうだ。名前と楽器名を入り口で書いて、マーゴを探す。いたいた。後ろの方で手を振ってる。

 「来たね」「来たよ、もう緊張してるけど」「大丈夫だよ。私一緒にやるよ。ホストミュージシャンに頼んだから」わ〜ありがたい!

 セッションはジャズをやってる人が参加するんだけど、当日にならないと誰が参加するか分からない。老若男女、楽器も様々。歌、ボーカルの人も来る。ボーカルはボーカルセッションという別枠もあるんだけどね。

 参加する人達はほとんどアマチュアミュージシャン。当然力量にも差がある。まだ始めたばかりの人もいれば、何十年もやってる人もいる。

 そこでホストミュージシャンの出番。彼らはプロまたはセミプロミュージシャンで曲が成立するようにゲストミュージシャン(参加者)をまとめる。ゲストは参加料を払っているので、なるべくゲストが楽しく活躍できるよう、ホストは考える。しかし噂によると、ゲストミュージシャンにもハイレベルなプレイを要求する厳しい店もあるそうだ。マーゴが色々教えてくれた。持つべきものはジャズ友だな。ありがたすぎる。

 今日のホストはドラマー、ベーシスト、ピアニスト。まずはトリオで1曲演奏した。I’ll Remember April セッションでも演奏する人が多い曲らしい。私は知らない曲だけど。前にマーゴに教えてもらった、テーマ、ソロ、テーマという構成は分かったと思う。ドラムソロはびっくり。ドラム叩いてるだけ。当たり前なのか?でもこれもテーマに沿ってやってるんだって。聴いてて分からなくなる時あるけど。まるっきりフリーで叩いている場合もあるようで、一緒にやったら私数えられるかな?

 いよいよゲストによる演奏だ。ホストに名前を呼ばれた人がステージに出てきた。どの曲にするか決めてる。ベースからカッコよく演奏が始まった。キメもあっていい感じ。マーゴ情報によるとFour on sixって曲だって。

 アドリブソロに入った。え〜、スゴイ。これ皆んな即興でやってるの?ひとりでこんなにアドリブソロするの?皆さんアマチュアなのにできるんだ…何にもできない私はどうしたらいいの?あー緊張してきた。皆んなの演奏はちゃんとしてるし、プロみたい。セッションは盛り上がった。

 「では次はイズちゃん、マーゴちゃん。曲はNow’s the time 」とホストにちゃん付けで呼ばれちゃった。あーいよいよだ。

「イントロなしでカウントでテーマから入ります。テンポはこれくらい」と言いながらマーゴは指を鳴らす。イズ、いくよ!と目で合図をくれる。私もOK!と目で合図。そして始まった。テーマは大丈夫だと思う。アドリブは本のままを覚えているだけ吹いた。最後は自分の思いつき。ドラムとベースのリズムに乗るのが必死!何をやったか緊張で覚えていない。

 私の次はマーゴがソロを吹いた。同じアルトサックスとは思えない。マーゴ、カッコいいよ。スゴイよ。ドラムとの掛け合いもマーゴがリードしてくれた。なんかよく分からないけど盛り上がった。

 ジャズって丸裸でやる音楽なんだな。その人が全部出ちゃうんだな。良くも悪くも、その人の音楽性というかジャズ性が全部出ちゃう。着飾ることはできない。テクニックを自分のモノ、自分自身にしとかなきゃならない。それは大変練習しなければ身につかない。私はまだまだだ。何も分かっていないし、練習時間もまるで足りてない。その分かってない自分をお披露目しちゃった。多分だけど、これら全てがジャズの魅力なんじゃないか?嘘を吐いたらわかる。私は嘘を吐きたくない。

 私とのNow’s The time 後、マーゴは他に2曲参加した。マーゴは多分上手い人なんだ。他のゲストミュージシャンもホストミュージシャンも感心して見てる。これはマーゴファンができちゃったのか?スゴイな、マーゴ。

 「マーゴカッコイイ!」「ありがとう。嬉しい。イズだって良かったよ!ちゃんと掴んでた」「そうかなぁ」分かってないけどな〜「今度マイケル・ブレッカーの来日公演があるんだけど、一緒に行かない?」「行く行く、行きたい。マーゴもブレッカー好き?」「大好き!それに生で見たいから」という感じで次回のマーゴとのセッションはブレッカーコンサートに決まったんだよね。

 そして今日、私たちはあの素晴らしいブレッカーライブを共有したのだ。


 ライブの余韻はまだ続く。フワフワ心地で帰宅する。自宅最寄り駅で降車。歩く。今日は星もキレイ。私きっと幸せそうな顔してる。もうすぐ家だ。今度はどんな曲を練習しようかな…急に腕を掴まれる。えっ?「バカ!お前足持て!」男の声…私襲われてる?…イヤだ、イヤだ、イヤだー!でも2人だ。男は2人いる。これじゃ逃げられない。身体が、押さえられて動かない。イヤだ!声が出た。「イヤー!」渾身のイヤだ。もう一回「イヤーーー!」「バカ!口押さえろ!」懐中電灯が出てきた。近所のオジサンが様子を見に出てきてくれたのか!もう一回「イヤーーーー!」「ヤベ逃げろ!」私はへたり込んで座っている。男達は去った。シーンとなって、こんな所にいたらまた襲われる。身震いする。イヤだ。ゆっくり立って泥だらけの服をはたく。家に向かってどんより歩く。騒ぎが収まったとみて、オジサンも家に入っていったのか?変に声かけられても何も言えないだろうし助かった。私の家まであと少し。何も考えられない身体だけど、こんな時は「助けて」なんて滑舌の難しい言葉は言えないな、と思う。「イヤ」が精一杯。


 めちゃ凹んだ気分で家に入った。リビングのドアのガラス越しに、中の様子をチラ見する。テレビがついていて、カガアナのコーナーだ。「人類学はいよいよ危険な立場になりました。確認することが大切です…」相変わらず何のことだか分からないけど、父と母は分かったような顔をして見ているんだろう。姿は見えないが。

 私は「ただいまー」なんて言う気分じゃないので、自室に直行。ベッドへ傾れ込むと、目の前のブレッカーのCDをじっと見る。今日見に行ったよ。私はこんな風になってるけど。ライブの興奮と自分の今の状態とのギャップがありすぎて、ライブは夢だったのか、と思ってみたり、家の周囲は畑が多いから気をつけないと、と思ったり、常に警戒の心を忘れるな、と思ったり、ブレッカーはスゴすぎる、フワフワしてるからイケナイ、とかいろいろ放心状態、支離滅裂だ。

 母がわざわざ二階に来て、私の部屋をノックした。「ご飯たべないの?」あーそうか、何か感じ取ったか、母親め。鼻がきくのか勘がいいのか。「今日は要らない。明日朝食べるから」「はいよ」と言って降りて行った。そうそうほっといてください。心が演技できません。今この時ばかりは…


 朝になった。父も母も出勤したことだろう。昨夜はいつの間にか眠ったようだ。とりあえずシャワー浴びてキレイにしよう。昼からバイトに行かないと。

 バイト中は仕事に集中だけど、のんびりやってても大丈夫くらいの忙しさ。メガネさんとメガメガネさんも出勤してる。「ねぇ、イズちゃん、今度はイタメシしようよ。この前の子も一緒に。行こうよ」何と返答すればいいのだ。Yes or No ?「そうですね。予定見てみます」我ながら心にもない事をよく言う。昨夜私を襲ったのはオマエタチか?など、今は男性恐怖症だ。不信感と猜疑心でいっぱいだ。気分を変えるために、私はガンガンCDを整理整頓したいんだ。整理しまくってやる。

 ふと思った。次のセッションはキーボードだったな。ソニさんも来る。Now’s the time 以外の曲も挑戦したいな。『アドリブ名演集』にもう一曲チャーリーのConfirmation という曲が入ってたな。やってみようかな。

 そういえばチャーリー・パーカーのアドリブを楽譜にした本がある、と聞いた。ちょっと練習してみたいな。今度買いに行こう。

 目ぼしい楽器屋に電話した所、街の管楽器専門店に在庫があるとのこと。中途半端な田舎の楽器屋にはないんだな。またまた電車で1時間半の旅だ。

 

 今日はバイトが休みで、チャーリーのアドリブ楽譜を買いに行く。近頃の太陽はキツイなぁ、爆発してるのかなぁ、と思いながら、電車に乗って、いつものように吊り広告を見る。何と、カガアナの不倫疑惑が載っている。お相手は女優のミキだ。2人で並んで歩いている場面がバッチリ写っている。カガアナは独身だったと思うが、ミキは既婚者だ。ダンナは政治家だったような…。今のところF写真週刊誌のスクープのようだが、これは大スキャンダルになるな。そんな事を思いながら、いつものように吊り広告を隅々まで吟味する。

 管楽器専門店に到着。いろいろ詳しい社長がニコニコして出迎えてくれる。「チャーリー・パーカーの楽譜の本が欲しいんですけど…」「はいはいオムニブックね」オムニブックというのか?どういう意味?「楽器は何?」「アルトサックスです」「はいはいE♭ね」と社長は言って黄色の本を出してくれる。表紙にはチャーリーなのか?オジサンがサックス吹いてるイラストがある。『CHARLIE PARKER OMNIBOOK』と書いてある。へーこれがそうなんだ。2,700円なり。裏表紙は曲名と思われる英語がたくさん並んでる。手に入れた。ニンマリ。

 ついでにリードも買って行こう。田舎セッションで忘れて帰ったようだからな。貴重なリードを忘れるなんて。店に電話して聞いてみたら、「そんな忘れ物はありません」と言われてしまった。絶対あの店に忘れたと思うんだけど…。

 リードは葦からできているので、非常に良い悪いの差があるパーツなのだ。吹いて見ないと分からない。消耗品なのに値段が高い。輸入品なのだが、1$=¥300の時代も1$=¥150の時代も値段が変わらないってどういう事?むしろ高くなってる気がする。全く…1箱だけ買う。10枚入り。

 社長はビンテージのアルトサックスを持ってきて「ジャズやるならこの楽器だよ」と試奏までさせてくれる。が、私は買いませんよ。高すぎるでしょ。お金無いからムリムリ。


 新しいものを手に入れるっていいな。鼻歌交じり、フワフワ心地になろうとして、イカンイカンと首を横にふる。まだまだ太陽がギラギラしてるから大丈夫だと思うが、隙を見せてはいけない。

 帰りの電車に乗り込んで、吊り広告を眺める。カガアナとミキの不倫疑惑…どうもミキのダンナは与党幹事長のようだ。離婚するのかなぁ。

 今度はチャーリーのオムニブックを出してページを繰ってみる。うーむ、細かい音符ばっかりだ。できるかしら…携帯カセットデッキのテープをチャーリーにしてオムニブックを見ながら聴いてみる。スゴイな。チャーリーの指は速く回りすぎ。聴いてるとノリノリだな、と思うけど、楽譜で見ると凄まじい。


 家に帰ると父も母も帰宅してご飯を食べている。じゃあ私もいただきま〜す。カガアナ不倫とか今年の夏は暑いとか、まあ当たり障りのない会話で過ごす。

 自室に入ると再びオムニブックを開けてみる。表紙の裏はチャーリーの紹介文だ。もちろん英語なので、辞書無しには何となくしか分からない。ふんふん…よく分からないなー

 序文めいた文章もあり、辞書引きながら英文読解チャレンジしてみたけど、読んでもよく理解できないので飽きてしまう。じゃ曲の題名を調べてみよう。

 1曲目 Confirmation 確認

 2曲目 Moose The Mooche

  ウロつくヘラジカ??

 3曲目 Ornithology 鳥類学

 4曲目 Yardbird Suite 庭鳥組曲?

 5曲目 Anthropology 人類学

と、ここまで訳して「あれ」思わず口にだす。この訳語、最近聞いたと思う。あーカガアナだ。カガアナがこんな事言ってた。カガアナのネクタイピンは鳥だった。チャーリー・パーカーはバードと呼ばれていたんじゃなかったっけ…何だかバラけてる情報が繋がりつつある感覚…

 時計を見る。階段を駆け降りる。いい感じの時間だ。リビングに行ってTVをチェックしなければ…が、カガアナコーナーはやってない。「ネェ、カガアナ終わっちゃった?」まだTVを見ている父母に聞いてみる。「あれはもう不倫騒ぎで終わった。俺も好きだったんだがなぁ」これは父情報。「あんなにバッチリ写真撮られてたらねー。ミキは幹事長と離婚だって。女優も引退だよ」これは母情報。そうなんだ。カガアナは今まで何を言ってたんだろう?聞きたかったな。

 とりあえず階段登って自室に入る。記憶を辿ってカガアナの言葉を考える。人類学が危機だ。鳥類学に助けてもらわなければならない。豚肉料理をレパートリーに入れる。確認、確証が必要。

 私が覚えているのはこのくらいかな。何かのメッセージだったんだろうか?でもこれ以上考えても仕方ない。だから何?って感じだよね。


 朝になった。オムニブック第1曲目のConfirmation から練習しようか。音源を聴いて楽譜見て、あー難しそうだ。ゆっくり吹いて、難しい。テーマだけでも時間かかりそう。チャーリーはこれをスイスイ吹くわけだ。アドリブで。スゴ。凡人は少しずつ頑張るしかないか。

 それからバイト行ったり、練習したりしてたら、キーボードのソニさんセッションの日が迫ってきた。


 どの店も初めてなんだけど、キーボードも初めて来た。ここも2階に店がある。入り口にドーンとウッドベースが飾られている。店に入るとすぐステージでドラムセットがある。奥にグランドピアノ。客席はステージ前に少し。一段上がると中央に大きなテーブルがあって、客席がある。

 ピアノの横の席にソニさんらしき人発見。テーブルにサックス置いて、ホストミュージシャンらしき人とお話し中。

 「セッションに参加するの?」声をかけられる。ママさん、かな?「はい、お願いします」「じゃあ、ここに名前と楽器名書いてね。やりたい曲があったら曲名も。あら、サックスなのね。今日はソニさんという上手い人がホストだから、サックスの参加が多いから頑張ってね」えーサックスの人が多いんだ…めちゃ不安…曲はNow’s the Time にしようかな。というか、これしかできないからな。できるとも言えないんだけど…

 とりあえず後ろの方に座ってみた。店内を改めて見る。ベースを弾いてる人の写真パネルがある。大きいな。等身大?他には…LPも飾られている。LPジャケットってオシャレだよねー。店内の壁はグレー。全体的にインテリアは黒かグレーかな。ママさんは優しそうだけど、マスターは怖そうだな。おふたり共スレンダー。

 マーゴ来ないな。どうしたんだろう…マーゴ不在でセッションなんて…心細いな…他の参加者が皆上手そうに見えて、不安、緊張。帰ろうか…でもせっかく1時間電車に乗って来たのに…覚悟を決めるか。

 セッションはホストの演奏からスタート。何かよく分からないけど、ソニさんカッコイイ。生のテナーサックスってズーンと深い音。曲名はReflections って言ってたっけ。カッコイイな。やっぱり距離が近いから、ブレッカーの時とは全然違って聞こえる。生音って感じかな。息使って吹いてる。当たり前か…。これが聴けただけで良かった。マジ帰ろうかな。

 「じゃあセッション始めましょう。イズさんいきますか?」うわ!いきなり呼ばれた。「はい」と言ったものの、頭の中はどうしようがいっぱい。テーマは何とか…アドリブは頭が迷い、指が迷い、掛け合いはした方がいいのかしら?どうしよう、これでいいのかな…Now’s the time はどうしようが丸出しの演奏になって終わった…。

 あー今度こそ帰ろう。楽器をしまい始めたら「マイケル・ブレッカー行ったよ!もう最高だったよ!」と常連さんらしき人が話してる。私も行ったんだぞ、ブレッカー。マーゴと一緒に。マーゴどうしたのかな。具合でも悪いんだろうか…

 「でもさ、不可解な事があってね。男用のトイレがバッキバキに壊されてたのよ。興行主が気付いたのはコンサートが終わってからなんだけどね。オレはさ、偶々現場を見たけどね、凄かったよ。破壊されてたよ」えっそうなの?そんな事全然知らなかった。

 それは不思議な事だけど、私は今は帰りたいでいっぱいだ。マーゴは心配だし、何より何も出来なかったという事実が私を固めている。さっさと片付けて帰ろう。

 「イズさん、もう帰るの?」視線を上げるとソニさんだ。「あ、今日は帰ります」「パーカーやってるんだね。どんどんやるといいよ。やれば魔法がかかるよ」「やるだけでいいんですか?」「やるだけでいいよ。難しいでしょ?」「難しいです。頑張れるかどうか、わからないです」「そうか、またおいでよ」

 私はコソコソとキーボードを出て、トボトボ階段を降りて、フラフラと駅に向かった。分かってたはずなのに、ジャズは丸裸にされる音楽だって事。自分は何も分かってないという事、分かってたはずなのに。半分泣きそうだ。

 その時、私のすぐそばに黒い大きな車が停まった。ドアが開いたらマーゴがいた。「イズ、乗って」私は一瞬、ウン?となって静止したけど、すぐ乗り込んだ。車は走り出す。


 「ごめんね。セッション行けなくて本当にごめんなさい」「うん、どうしたの?」「ちょっと話せないんだけど、セッション吹いた?」「吹いた。超ボロボロ…泣きそうだった」「そっか。そんな時もあるよ。私もそうだよ。それだけイズが真剣にやったってことだよ」「そうなのかな」確かに今回は頑張った気がする。真剣になってきたってことかな。「イズにジャズやりたい気持ちがあるなら、また頑張ってほしいな」そうだ。やりたいならやるしかないな。

 「それでね、話は変わるんだけど…私は外国へ行くことになったの」「え!どういう事!離れて会えなくなるの?」「うん、会えなくなる…」「え〜」涙が出てきた。セッションショックで緩んでた涙腺が崩壊した。「どうして、どうして」私のジャズ友が…会えなくなるなんて…「ごめんね。どうしても行かなければならないの」私は黙った。マーゴも黙った。マーゴはヤクザの親分の娘なのかな。今ヤクザ間抗争が激しいから外国に避難するってことかな。車を運転してる人も助手席にいる人もヤクザっぽいし。きっとそうなんだ。

 「紹介するの忘れてた。助手席に座ってるのはタツヤ兄さん。運転してるのはリョーマ君。タツヤ兄さんの後輩なの」2人がチラリと私に顔を見せた。あれ!この人達見覚えある。何だっけ…ああ、この人達セッションの時もブレッカーのコンサートの時もいた。覚えてる。カッコイイけど、ジャズぽくないから、よく覚えてる。

 「はじめまして、イズです」と言いながら、やっぱりマーゴはヤクザの親分の娘で、この人達は用心棒なんだ、と確信する。マーゴのボディガードだな。

 「それでね、イズとちょっとした旅行に行きたいの。外国へ行っちゃうと会えなくなるから。淋しいけど…。青列車をイズと見に行きたい。ブルートレインだよ。おまけに、そのブルートレインはコルトル山を走ってたらしいから」「え〜何それ!コルトル山のブルートレイン!コルトレーンのブルートレインみたい」コルトレーンは『ブルートレイン』というアルバムを発表している。コルトル山とコルトレーンは何の関係も無いが、言葉が似ていて面白い。

 その後、私達は旅行の日程を決める。マーゴは高飛びしないといけないから、割と急な話だ。そしてリョーマ君は私を家まで送り届けてくれる。私の家を知ってるみたいにスムーズに着いたのは、きっと知ってるんだ。いわゆる身辺調査ってことかな。大事なお嬢様の友達だもんね。


 という訳で、今日はマーゴと旅行に行く日。最寄り駅で待ち合わせ。といっても構内のお土産屋さんだ。いつも通り過ぎてるだけで、こんな所にこんなお土産屋あったんだ…初めて知った。店内をぶらぶら見てたらおばちゃん店員さんに声かけられる。「こっちにサックスの鉛筆削りあるよ」「え、ほんと?見たいです」とおばちゃんについて行ったら、あら不思議。外に出てる。と思った瞬間車に乗せられ、運転手はリョーマ君。私を乗せた人はタツヤさんだ。びっくりしたけど仕方ない。何しろヤクザ間抗争激しくなってる。昨日は銃弾が飛び交ってた。日本とは思えない。

 「おはようございます。マーゴは?」「ああ、向こうで待ってるから」と言われたきり、シーン…朝早かったし、ヒマだし、寝ようかって感じだな。

 家族には大学の時の友達と旅行に行く、と言っといた。まさかヤクザの親分の娘とそのボディガードと一緒に行くとは言えない。私も24歳だし、母は「お好きにどうぞ」みたいな感じだった。

 バイト先のレンタル屋には、体調が悪いので、しばらく休むと伝えた。急だから迷惑だろうと思うけど、最近「イタメシ行こう」だの「ティラミス行かない?」だのウルサイから、これくらいの迷惑かけていいのだ。このまま辞めてもいいなあ。

 どこにいくんだろう?と思ってたら高速道路に入った。これは時間かかるな。マジでねるか。


 眠りこけていると起こされた。「おい、休憩だ。トイレ行くか?」リョーマ君だな。「はい、行きます」辺りを見るとドライブインのようだ。周りは山ばっかり。小さなファーストフードみたいな店もある。どこに行くのか?トイレから帰ると2人はもう車に乗っている。「そろそろ着きます?」と聞いてみたら「イズさんは呑気だね」byタツヤさん「だからいいんじゃないですか?」byリョーマ君。終了。またシーン。


 ホントによく寝たー。やっと到着。車から降りた瞬間、日差しの強さにびっくり。今日も太陽はギラギラして暑くなりそう。何はともあれ、やっとマーゴと再会。「イズ来てくれて嬉しい」「私も会えて嬉しい」ナンちゃらカンチャラ…

 マーゴと肩を並べて歩く。こういう時間はもう来ないのかもしれない。寂しさを心の奥底に閉じ込めながらも、今この時は楽しみたい。

 あれか?昔っぽいチンチン電車みたいな…青色はくすんでいる。「青列車だね」「ブルートレイン」「見てみて。ほらコルトル山で石炭を運んでたって書いてある」「すごーい。コルトルなんてね。コルトレーンみたい」「入ろうよ」「入ろう。入ろう」 

 チンチン電車の中は床も壁も木製。窓枠も。両サイドに並んだ座席に私達は座る。「キーボードのセッション、私何もできなかった。だからもう少しジャズ頑張ろうと思った。もう少し分かりたい」「うん、そうだね。また日本に来たら会いに来る。またイズとジャズやりたい」本当はマーゴがいなくなったら続けていく自信がない。寂しすぎる。でもそれは言わない。「また会いに来てね」どうしてか?今生の別れの気がする。また泣くのはイヤなんだけど。

 青列車から降りて歩きかけた時、急に身体を持って行かれる。あれ、また襲われてる?急に意識がスローになる。何で?マーゴ…何か叫んでる。タツヤさんがマーゴを抱き抱え走り出すのが見える。私は宙に浮いてる気がする。左腕に痛みが走る。なんだか朦朧としてきた。どうなってる?


 「☆#×:.¥○=〒!」「*%$→〆÷€*\!」なーんか、訳の分からない会話で目が覚める。薄目を開けて様子を窺う。広い部屋。ホテルのスイートルームみたいにきれい。ここはどこ?

 外国人が2人、言い合っている。私はどうも縛られているようだ。私って襲われたよね。すぐ意識を失ったけど、こんな所に連れてこられたんだ…。目が覚めてないフリして様子を窺おう。

 「コイツらを黙らせろ」「+<%¥→」あ、静かになった。「要するにお前達は間違えた。この娘に能力は無いということだな」「そのようです」外国人とは別に2人いる。間違えた、ということはマーゴと間違えた。能力って何?ジャズ力?

 「この娘を使って本物を手に入れるんだ」「分かりました。早急に計画します」と言うや否や、バーンと轟音がしてリョーマ君が部屋に入って来た。私は即刻リョーマ君に抱えられて、スィートルームを脱出!助けに来てくれたんだ。さすがリョーマ君。ありがとう!私達が逃げている間にもスィートルームでは戦いが続いている模様。きっとタツヤさんとその仲間達。何しろヤクザ相手だから激闘に違いない。


 次に目覚めたらマーゴがいた。「イズ、大丈夫?痛いところある?」マーゴの顔、心配そうだ。「うん、大丈夫」と言いながらベッドの上で上体を起こす。うーん、やっぱり身体中が痛いかな…

 「ここはどこ?」さっきはスィートルーム。今は南仏の民家って感じだ。「知り合いの家なの。たまたま近くにあったから、お願いしたの。アンドウさんには医療の心得があるから、イズを診てもらったんだけど、かすり傷程度で心配ないって。だから病院に行くより、ここの方がいいと思って…」

 「アンドウさん?ここはアンドウさんの家?」「アンドウさんはリョーマ君の上司。タツヤ兄さんの先輩でもあるんだけど。この家は他の人の家。また紹介するね」なるほど。ヤクザの世界は複雑だ。

 ふかふかの布団、木製のベッド、壁紙もきれいな花柄。何だか絵本の世界にいるみたいでいい!こんな所に住んでたら性格変わりそう。しかし今度はアンドウさんか…ヤクザのお嬢様にはお付きの人がたくさんいるんだ。

 「イズ、元気そうね。ご飯食べに行こうよ。美味しいご飯だよ」「へー、行こうかな。楽しみ」

 2人で部屋を出た。長い廊下の片側に部屋が並んでいる。私の部屋はすみっこらしい。廊下にはカーテンがかかっている。外はどうなっているんだろう。もう暗いからわかんないかな。

 廊下の中ほどに階段がある。螺旋階段だ。くるくる回る階段の中心側には数字が書いてある。「何で数字が書いてあるの?」「素数なんだって。この家の主が素数好きなの」へー、だからこんなに不規則な…

 螺旋階段を降りると玄関ホールに出た。「食堂はこっちよ」マーゴから言われた方に行くと、明るい雰囲気の食堂兼リビングが現れた。南仏だ。いいな、いいな。壁紙もきれいだし。

 「こんばんは」品の良さげな中年婦人から挨拶された。「モーリーさんよ。ご飯作ってくれるの」「こんばんは、よろしくお願いします」私は頭を下げて挨拶した。モーリーさんも南仏ぽい。フンワリした雰囲気と大きなコットンのエプロン。「じゃあ、お二人ともここに座って待っててね。支度してくるわ」

 マーゴと2人、南仏の食卓に座る。ここに座ると、とても長閑な気持ちになって、すべての物事に逆らう気持ちが溶けてなくなる。

 「なんか、ゆったりしていい所だね」「そうよね」「私、マーゴのジャズとの出会いを聞きたいな」「うん」


 私は日本生まれなんだけど、父が仕事でアメリカへ行くことになって、私もアメリカで過ごすことになった。それは私が10歳の時。

 父はジャズが大好きで、レコードをたくさん持っていて、家でもよくかけていた。だから私も子どもの時からジャズをいつも聴いていて、だんだん好きになった。

 アメリカへ渡ってからは、ジャズクラブへ連れて行ってもらった。いろんな人達の演奏、いろんな形態のジャズを聴いた。父は仕事が忙しく、ポッと時間ができた時にライブを聴きに行ったのだと思う。

 アルトサックスを父の友人から譲られることになり、私が吹くことになった。その友人は病気でサックスを吹けなくなったらしい。私は子どもだったので、細かいことはよく知らない。

 ジャズを教えてくれる人もいたし、ジャズが好きだったから、私は結構練習した。そんな感じ。


 モーリーさんが料理を持ってきてくれた。スープやサラダやお肉が並ぶ。どれも美味しくてひと味違うって感じ。きっと手間ひまかけて作ってるんだろうな。料理ってひと手間で変わるそうだから。


 「マーゴがジャズをよく知ってて出来るのはそういう訳なんだね。いいなあ」「ジャズ好きには恵まれた環境だよね」「今度もまたアメリカへ行くの?」「ううん、今度は東欧へ。これは内緒の話だけどね」へー東欧…ちょっとヤクザとイメージ離れるな。それとも今時のヤクザはそうなのかな…。

 「今は里帰り的な感じ?」「まぁ、そんなとこかな」

 私達はモーリーさんの料理を堪能。私は南仏風インテリアにも心を動かされ、さっきまでの誘拐事件は遠い過去のような気分。忘れてもいいな。

「モーリーさん、ごちそうさまでした。今まで食べたご飯の中で1番美味しかったです。ありがとうございます」

「私はモーリーさんを手伝って後片付けするから、イズはシャワーでも浴びてて」「え、私もやるよ」「いいのいいの。イズは大変だったんだから、ゆっくりしてほしいの。後でおしゃべりしようよ」「そう?わかった。ではお言葉に甘えて。モーリーさん、ごちそうさまでした」


 そうして私はダイニングを後にし、玄関ホールに出た。反対側には観音開きの大きなドアがある。ここは何の部屋かな?単なる興味本位で、そーっとドアを開けてみる。暗い。狭い。あ、もう一枚扉がある。二重ドアなんだ。開けようとして手が止まる。中から声が聞こえる。

 「では、今回の件、後処理を頼む」あれ、この声どこかで聞いたような…

「そうだな…早急に処理してもらいたいから、3人で」分かった!カガアナの声だ。声に出す寸前!危なかった…でもどうしてここにいるの?

「分かりました」これは誰だろう?

「ところで、マーゴの件、手配は大丈夫か?」これはカガアナ。

「はい、既にダミーがアフリカへ向かっています」これはタツヤさんだな。

「上手くいくといいが…。オカダは恐ろしい男だ。また航空機を爆破されるのは絶対避けたい」カガアナ。

「全くです」あ、リョーマ君の声だ。

「ねぇそんな事より、あのイズって子、始末しなくていいの?」イズって私じゃん。始末って何?やだー。これは誰?あ…この声…ミキ!カガアナの不倫相手。どうしてここに?

「それはいい。彼女はまだ私達の関係に気づいていない。それにトラブルを増やしてどうする?」カガアナ。

「あらそうなの?」ミキ、不服そうだ。もういい。早く部屋に帰ろう。そーっと部屋を出る。そーっと螺旋階段を登って、そーっと部屋に入る。


 部屋のドアを閉める。部屋を眺める。ここはどこ?何故私はここにいる?さっきの会話が頭の中でぐわんぐわんしてる。

 カガアナ、ミキ、タツヤさん、リョーマ君、マーゴは繋がっている。そして顔を見たことはないけど、アンドウさんも繋がっている。それは確かだ。

 東欧とか航空機爆破とか、ヤクザ間抗争とは関係ないのではないか?もっと国際的な組織なのかしら。

 カガアナは自身のニュース番組のコーナーで何か指示を出していたのではないか。鳥=バード=チャーリーのネクタイピンをつけている時は、曲名がメンバーのコードネームで、指示や伝達を行っていたのだ。

 ミキもメンバーなんだろう。彼女は与党幹事長の妻だった。その気になれば情報を集めることは容易かっただろう。ミキとカガアナが組めば一般大衆による世論なるものを操作することもできるかもしれない。

 今回は写真に撮られてしまった。不倫という事にして、さっさと姿を隠したわけだ。もしかしたら写真に撮られる事も計画の内なのか。

 ミキも大胆だが、カガアナは大胆過ぎる。テレビで、自分の番組で暗号を送るなんて…

 タツヤさんとリョーマ君は手先1と手先2って感じかな。マーゴは何だろう。手先というより、大切にされてるように聞こえた。カガアナは「人類学が危機」と盛んに言っていた。マーゴのコードネームは人類学=Anthropology だろうか。

 それより…私、殺されちゃうのかな…。うーん、まだジャズやり始めたばかりなのに…。「それはしない」とカガアナは言ってたけど、ミキは不服そうだった。

 あー、もー何が何だか分からない!


 「イズ、ごめんね」マーゴがいる。いつのまにか部屋に入ってきた。グリーンなのかブラウンなのか…その美しい眼に涙が溢れている。

「マーゴ…どうして泣いてるの?」「だってイズが傷ついているのは、私のせいだから…ごめんね、ごめんね」「マーゴ、こっちに来て」私達は膝を並べてベッドにもたれる。


 「イズには全てを話したい」「うん」「私、秘密工作みたいなことをしてるの」そっか、ヤクザじゃなくてそっちか…「父もそうなの」「ジャズ好きのお父さん?」「そう。父は人の心が読める人だった。私達の民族は皆んなそうなの。持ってる能力が大きかったり小さかったりするけど、大体読める」ということは、私の心もバレてたの?マーゴと一緒の時は、いろんな感情が渦巻いていたからなー。少し恥ずかしいな。

「気持ち悪いでしょ?困るよね。付き合っていられないよね」いや、どうなんだろう?私はマーゴと一緒に居ることが楽しかった。今の私の心もマーゴには分かるんだ。それは嫌な事なのか?

 「父は他人の心が見える人だった。祖先から受け継がれた能力。この力は争い事に利用されてきた。私も利用されてる。私達民族が生き延びる為には仕方がない事。でも一方に就けば、他方から狙われる。生き延びるってどういう事なのかな」そうなんだ…ずっと狙われ続けて生きてきたんだね。

 「今回の訪日では、イズとセッションに行ったり、ブレッカーのコンサートに行って、私だけでなくイズも危険に晒してしまった。本当にごめんなさい」えー、狙われてるのに私なんかに付き合ってくれて、こっちこそごめんなさい。

 「私達が生き延びる為には、能力を高めていく必要がある。父はたくさん子どもをつくった。能力の高い人達と」うん?達?

「私とタツヤ兄さんは父も母も同じ。アンドウさんとリョーマ君は母が違う。私達は能力が高いのだけど、私はその中でもとても能力が高い」そうなんだ…。兄弟なんだね。

「私は遺伝子を繋ぐ為に子どもをたくさん作らないといけない」えっ…マーゴを見る。マーゴの美しい眼に涙が溢れている。涼しげな顔立ちが苦悶の表情を見せている。「マーゴ…」イヤだね。ツライね。震えているマーゴの肩をそっと抱く。私は難しい事は分からないけど、マーゴがかわいそうだ。こんなにかわいい女の子なのに。遺伝子の為に生きるのか…そんなの…


 急にドアが開いて、カガアナが入って来た。なんで…?

 カガアナは言う。「さあ、マーゴ、お別れはできたかい?マーゴの大切な友達だ。きちんとお別れしないとね」「はい」と言って、マーゴが立ち上がる。どうして?私も立とう。一言言いたい。マーゴは道具じゃな…アレ…足がフラフラだ。頭も回ってる…。

 「イズ、ありがとう。私、行く。元気でね」あ、マーゴが行ってしまう。私は意識があるのに、身体が動かない。リョーマ君とタツヤさんにベッドに寝かされる。

 「じゃあ君達、マーゴを頼むよ」「はい。ではドイツで待ってます」あゝ、マーゴ…

 「では、モーリー、よろしく頼むよ」えっ、何?「ねぇ、ホントに記憶を消すだけでいいの?」わ、ミキだ。記憶を消すの?私の?マーゴのこと、忘れちゃうの?

 「いいんだ。さっきも言った通り、この娘は人質なんだ。この娘が生きている限り、マーゴは私達のために働いてくれる」えー、やめて!そんなのやめて!お願い!「アンドウは引き続きこの娘の護衛をしてくれ」「はい」

 「じゃあモーリー始めてくれ」「はい、イズさん、大丈夫よ」と言いながら、モーリーさんが私の手を取った。ダメなの。マーゴを忘れちゃダメなの。でも眼は開かないし、身体も動かない。流せるのは涙だけ。なんだか意識が遠のいていく。マーゴとの思い出が走馬灯のように流れていく。このまま私はすべて忘れてしまうのか…

 「イズ」あ、マーゴ!ここに居るの?「私は少し離れた所に居るよ。でも、私はイズの心と話すことができる」そうなんだ。マーゴはいろんな事ができるんだね。「イズ、私はイズのことを忘れない。だから安心して。ずっと友達だよ。一緒にジャズ練習しようね」マーゴ…ありがとう…ジャズ頑張るよ…

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