表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/12

3章 第2話『鍵と鎖/禁断の口付け』


 


──夢を見ていた。


あたたかな手が、わたくしの髪を撫でていた。

何も語らず、ただ優しく、何も求めずに。


 


「……あなた……」


 


その声に目覚めた朝、エリザの胸の奥に、柔らかな余熱だけが残っていた。


心が揺れている。わかっているのに、止められなかった。


 


(わたくしは……王妃。忠義を誓った、この身で──)


 


けれど、彼を見るたびに、胸の奥が騒ぐ。

レオニス・フォン・エイリス──宰相。理知的で礼儀正しく、決して距離を詰めてこない男。


……けれどその仕草、その目線、その声音は──


 


(どうして……あなたに似ているの)


 


彼と視線が交わるたび、夢の中のまさきの面影が揺らぎ、現実と重なっていく。


 


 


***


 


「王妃殿下、次回の祭礼配置について、ご意見を賜れればと」


執務室。形式的な報告に、エリザは整然と応じた。


「問題ありません。従来通りでよろしいかと」


「……さすが、変わらぬご判断。ですが──」


ふと、レオニスが視線を逸らした。


「ですが、王妃殿下が苦しんでいらっしゃるように、私には見えるのです」


 


その一言に、エリザの手がぴたりと止まる。


「……そのようなこと、ありません」


「私の言葉が差し出がましかったのなら、お詫びします。ですが……」


レオニスは、まっすぐ彼女の目を見た。


「あなたを、ずっと探していた気がするのです。

 どこかで、あなたの手を、確かに握った記憶がある──そんな錯覚を、何度も夢に見る」


 


──それは、前世のまさきが、かつてエリザに何度も言った言葉だった。


 


エリザの瞳が揺れる。指先が震え、書類を持つ手が力を失う。


「……まさき……」


呟いたその名を、彼女自身が意識していない。


レオニスは、その名を聞いても、黙って受け止めた。


ただ、そっと近づき、目の高さを合わせるように膝をつく。


 


「王妃殿下。もしこれが罪だというなら、私は喜んで罰を受けましょう」


「……それでも……あなたは、わたくしを……?」


 


その問いに、レオニスは何も言わず、

ただ、彼女の手をそっと包み込んだ。


 


触れた瞬間──


震えが、走った。


 


(ああ……このぬくもり……知っている)


理性が、忠義が、かたく締めた心の鎖に、ヒビが入る音がした。


 


──そして。


エリザのほうから、そっと身体を寄せる。


 


レオニスは目を閉じ、何も言わない。


触れた唇は、優しく、静かだった。


熱はない。むしろ、切なさが胸に満ちる。


けれど、触れ合うだけで──胸の奥が震えた。


 


「……これは……夢?」


「いいえ、これは……現です」


 


エリザの目から、ひとすじの涙が落ちる。


罪の意識と、懐かしさと、

なにより──もう一度、愛されたいという想い。


 


「……許されることでは……ないのに……」


 


レオニスは黙ってその手を包んだまま、彼女の傍にいた。


彼の目に浮かぶのは、快楽ではない。

ただ、ひとりの聖女の、鎖の解ける音だった。


 


第一王妃攻略:進行度 50%(夢と記憶、心の鍵に亀裂)


 


──次は、“過去の愛”を現在へと繋げるとき。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ