2章 第3話『潤む誇り』
──あたくしは、王妃。
誰よりも美しく、気高く、誰にも媚びることなど──決して、ない。
そう信じていた。
けれど、いま目の前にいる男に、身体の奥が熱を持って疼いている。
視線ひとつで心が乱れ、
言葉ひとつで脚が震える。
(……お願い、やめて。あたくしは──堕ちたく、ないのに)
けれど、その拒絶さえも、すでにレオニスには見抜かれていた。
彼は微笑を浮かべたまま、まるで空気を撫でるように一歩、彼女へ近づく。
そして囁く。
「今朝も素敵な香りがします、リシェル様。甘く、華やかで──どこか、蕩けそうなほどに」
「や、やめなさい……っ。あたくしを、からかって……っ」
「からかうつもりなどありません。ただ……惹かれているだけです」
言葉と視線。
それだけなのに、また“それ”が始まる。
【催淫スキルLv3:非接触快楽、継続】
何もされていないのに、身体が勝手に熱を帯びていく。
背筋がゾクリと痺れ、内腿が無意識に擦れ合った。
「……あぁ……また……っ、なんで……っ」
思わず手すりに掴まり、細い肩が揺れる。
脚の付け根から走る甘い刺激に、喉が鳴る。
誇りが、羞恥が、全てを押し留めようとする。
けれど──
「……どうして、こんなに……あたくし、誰にも……こんな風に……っ」
かつて誰かに抱きしめられた記憶などない。
冷たい王。気取った廷臣たち。
その誰一人、あたくしを女として扱った者はいなかった。
だけどこの男は、まるで──
「……リシェル様。ご自身の心に、正直になってください。
私は、あなたを辱めたいのではない。ただ……」
優しい声が、耳の奥にまで入り込んでくる。
まるで、抱かれているような感覚だった。
「お願い……やめて……」
「本当に?」
その問いに──
リシェルの瞳が揺れた。
歯を食いしばり、眉を寄せ、唇を噛んで。
それでも、ついに──声が漏れた。
「……お願い……続けて……もう、止めないで……」
その瞬間だった。
誇りが砕けた音が、心のどこかで聞こえた気がした。
──快感の奔流が、胸を、腹を、脚の奥を押し流す。
息が漏れる。
「あっ……んっ……ふ、ぁ……っ!」
指先は震え、脚は力を失い、腰が抜けるように膝をつく。
「な、なんで……こんな……」
その瞳には、涙が滲んでいた。
快楽のせいではない。
自分が自分でいられなくなった悔しさ。
けれど、同時に──満たされた安心があった。
誰かに求められる幸福。
レオニスはその姿を黙って見つめたまま、そっと膝をついた。
決して触れず、ただ同じ目線で、彼女の手に自らの手を重ねた。
(……やはり、貴女も、孤独だったのだな)
「私は、真面目にやっているだけですよ」
そう、静かに囁いた。
リシェルは何も返さなかった。
ただ、濡れた瞳で彼を見つめながら──そのぬくもりを受け入れていた。
第二王妃攻略:進行度 100%(誇りの崩壊と快楽の受容)
──背徳の香りは、いまや甘く濡れた記憶となり、王妃の心に根を張る。