2章 第2話『開かれる羞恥』
──誰にも知られてはならない。
夜、あの窓辺で自らを慰めていた姿。
あの甘ったるい熱に飲まれ、ひとりで身体を震わせたこと。
あれは夢。そうでなければ、悪い幻覚。
あたくしが、そんなはしたない真似をしたなんて……許されるはずがない。
「……下郎の顔を見たせいで、寝つきが悪かったのよ。きっと、夢……夢だったわ……」
リシェルは自室の鏡の前で髪を整えながら、唇を強くかみしめた。
頬の熱は収まらず、どこか身体がむず痒い。
まるで──誰かの目が、まだあたしの中にあるみたい。
***
「おはようございます、リシェル様。おや……少しお顔が赤いように見えますが、昨晩はよくお眠りに?」
朝の庭園。薔薇の香る中、レオニスが差し出した声は、あくまで礼儀正しい。
けれど──どこか底知れぬからかいが混じっている気がして、リシェルの背筋が震えた。
「……っ。別に、眠れなかっただけよ。変な夢を見たの」
「それはお気の毒に。まさか誰かに見られている夢など……?」
「っ!!」
リシェルの指先が、手にしたティーカップをわずかに滑らせた。
中の茶が揺れ、白磁の縁から雫が指を濡らす。
レオニスは、あくまで無邪気に微笑む。
「……それとも、夢ではなく、現だった……など?」
「ふ、ふざけないでッ……!」
息が乱れる。喉の奥が熱を持ち、胸がきつく締めつけられる。
なぜこの男が、そこまで知っているか──わからない。
だが、身体の奥はなぜか、彼の言葉を待っている。
レオニスは、そっと距離を詰める。
半歩。呼吸が届く距離。
彼の低い声が、耳の奥を撫でるように響く。
「……リシェル様。昨夜、あなたは美しかった。とても──魅惑的だった」
「なっ……な、なにを……言って……っ」
──その瞬間だった。
彼の視線が触れただけで、背筋に走る痺れ。
太腿が震え、吐息がひときわ浅くなる。
【催淫スキルLv3:非接触・高密度刺激】
身体が、まるで指先で撫でられているように錯覚する。
喉奥にとろりと熱が絡み、胸元に汗が滲む。
「う、そ……わたくし……触れられてもいないのに……っ」
リシェルは後ずさりながら、手すりに背を預けた。
けれど、逃げ場などなかった。
レオニスの気配が、吐息が、声が──内側に入り込んでくる。
「ねえ、リシェル様。昨夜、どんな夢を見たのか、聞かせてくれませんか?」
「や、やめて……っ。そんな顔で、そんな声で……わたくしを……っ」
涙ぐんだ瞳が揺れ、唇が震える。
理性は拒んでいる。
だが、誇りは既に揺らいでいた。
「……わからない……こんな、の……おかしいわ。あたくしは、王妃なのに……っ」
──そして。
次の瞬間、彼女の太腿が震え、喉から甘い吐息が漏れた。
「……っ、あぁ……んっ……!」
一瞬だけ訪れた、身体の弛緩。
まるで──絶頂の直前、その崖の縁に触れたような震え。
レオニスはあえて、何も言わなかった。
そのままゆるやかに頭を下げ、静かに立ち去る。
リシェルは動けなかった。
ただ、手すりに凭れたまま、震える指先を見つめていた。
「……なんで……あの男なの……っ」
その問いに、答えはまだ出せない。
けれど確かに、彼に触れられていないのに、触れられた気がした。
そして、それが──“悦び”だったことを、身体だけは知っている。
第二王妃攻略:進行度 50%(羞恥と快楽の混乱)
──誇り高き王妃は、いま、その尊厳の縁で揺れている。