2章 第1話『覗きの悦楽』
「……本当に、下品だこと。宰相家の跡取りともあろう者が、この程度とはね」
宰相執務室の外回廊。紅い絨毯を踏みながら、艶やかなドレスの裾を翻した女が、毒の混じった声でそう吐き捨てた。
第二王妃、リシェル
青髪のボブカットに高貴なティアラ。華美に着飾った姿は、まさに王妃そのもの。
だが、その美貌を彩るのは笑顔ではなく、見下すような冷たい瞳だった。
「……お言葉が過ぎますよ、リシェル様。私はただ、報告書の確認をお願いしただけですが」
レオニスは眉一つ動かさず、優雅に頭を下げた。
その姿に、リシェルはふっと鼻を鳴らす。
「頭を下げれば黙るとでも思ってる──あたくしを誰だと思ってるの? どれだけ着飾っても、下郎は下郎よ」
言葉は鋭いが、どこか苛立ちを隠しきれていない。
レオニスはそれを見逃さず、内心で呟いた。
(……満たされていないんだな。心も、身体も)
王妃という立場と華やかさの裏にある、孤独な欲望の影。
それは、ほんの数日間で垣間見えた何気ないしぐさ──
夜の紅茶に落とす滴数、指先の爪の噛み跡、疲れた瞳の奥にある滲み──に如実だった。
その夜。
レオニスは執務の合間、ひとけのない通路を静かに歩いていた。
やがて王妃の私室近くの角を曲がった時、風に乗って、微かな吐息の音が耳に届いた。
(……これは)
彼はすぐに足音を殺し、カーテンの陰から、慎重に視線を走らせた。
月光に照らされた窓辺。
ひとり、薄衣に身を包んだリシェルが、身をくねらせながら腰掛けていた。
脚を組み替えるたび、白く整った太腿が月に照らされ、ひとしずくの汗が滑る。
そして、その指先は──秘められた場所へと伸びていた。
「……んっ……ぅ……なぜ……こんな……」
潤んだ瞳を虚空に向け、彼女は誰かに見られているような錯覚に震えている。
だが──そこに本当に“誰か”がいたとまでは、まだ知らない。
レオニスは静かに瞼を閉じた。
スキルが起動する。
【催淫スキルLv2:言葉を介さず、視線で“誘導”する】
窓越しに向けられた無言の“想い”。
そこに乗せたのは、欲望の許し。
(感じていい。見られてもいい。貴女は、美しい)
次の瞬間、リシェルの指が跳ねた。
「……あっ……ぁ……っ」
背筋が弓のようにしなる。頬は紅く染まり、喉の奥から甘い吐息が漏れる。
それは、彼女が決して人前では見せぬ、無垢で獣じみた女の顔だった。
そして──その姿を見ているという事実に、レオニス自身も微かな熱を覚えていた。
(……こんなにも、哀しい悦びに、身を委ねているとは)
リシェルは、その夜、何度も身体を震わせ、静かに窓を閉じた。
──翌朝。
王宮の回廊で、リシェルと再びすれ違ったとき。
レオニスは、あえて言った。
「おや……今朝は、たいへん良い香りがしますね。リシェル様の傍にいると、不思議と……熱を感じる」
その瞬間、彼女の全身がビクリと揺れた。
「あ、あたくしは、なにも……っ! なにを……!」
リシェルの視線は、どこか泳いでいた。
唇は強く結ばれ、指先は自身の腕を握りしめていた。
その背には──昨夜の残響が、確かに宿っている。
「……では失礼いたします。また、夜にでも」
レオニスは微笑みを残し、その場を後にした。
背後で、リシェルがなにかを言いかけて、言葉にならず飲み込む気配があった。
その姿に、背徳の香りがひとつ、濃くなる。
第二王妃攻略:進行度 20%(自慰行為の刺激&羞恥の埋植)
──彼女は、もう“見られる悦び”から逃げられない。