表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

1章 第2話『ひび割れる理性』


 


──再び訪れた、王城の大図書室。

静けさは前回と同じはずなのに、レオニスの鼓動はわずかに高鳴っていた。


あれから三日。

あの幼き王妃──フィリシアは、その日以来、誰とも言葉を交わさず、ただ黙々と書を読み続けているらしい。


だが、レオニスは確信していた。


(身体は、確かに反応していた。あれは知識の熱などではない。本人も、気づき始めている)


 


扉を開けると、予想どおりそこに彼女はいた。


読書席に小さな背を預け、脚を組み、視線だけでこちらを射抜いてくる。

幼さの残る顔に、どこか神秘的な光を宿すその姿は、まるで造られた聖像のようだった。


「……また来たか、小童。妾の読書を邪魔する気か?」


レオニスは一礼し、近くの机へ腰を下ろす。


「とんでもない。むしろ王妃殿下の知見を拝聴したく、またこの図書室を訪れた次第です」


「……ふん、妾に教えを請うとは、良い度胸じゃのう」


「よろしければ“師弟ごっこ”でもいたしましょうか。私が生徒、あなたが師。とても理に適っている」


 


フィリシアの眉がぴくりと動いた。


「……ごっこなどと、たわけた提案を。妾は戯れを好まぬ」


「ですが、少しばかり演じてみるのも悪くありません。知識の共有は、演技から深まりもしますゆえ」


その声音はあくまで穏やか。だが、スキルはすでに発動していた。


【催淫スキルLv2:言葉に快感の“種子”を織り込む】


 


「ほら、フィリシア殿。ここ──『性質分化理論』の箇所。

 “触れずとも伝わるものがある”、とは、何とも示唆的ですね」


「……妾は触れずに教えておるだけじゃ」


「ですが、その語り口が妙に耳に残る。舌先でなぞられるような心地がします。……まるで、優しく撫でられているような」


 


フィリシアの指先が止まり、緩やかに口元が歪む。


「……たわけ。それは貴様の気のせいであろう」


「では、王妃殿下の声が甘美であるというのは、私だけの錯覚ですか?」


そのときだった。

ページをめくっていた彼女の細い指が、わずかに震えた。


 


言葉の端々に、じわじわと“快”が染み込む。

肌ではなく、脳で感じる。それはあまりにも知的で、だからこそ背徳的だった。


レオニスはあえて話題を変え、分厚い書物を指でなぞった。


「この“魔導感応論”も面白いですね。

 “感応は意識を介さず、欲望に従う”──まるで、誰かの本能のようだ」


「…………」


黙っていたフィリシアは、ふいに本を閉じた。

息が少し荒い。額に小さく汗が滲む。


だが彼女は、なおも高慢に、涼やかに言い放った。


「妾はただ……知識に酔っておるだけじゃ。快感でも何でもない」


「ええ、もちろん。知の陶酔は、まるで蜜のように甘く、熱をともないますからね」


そう応じたレオニスの声は、まるで口づけのように柔らかかった。


 


──そこに刺激はない。だが、“感じている”と錯覚させる言葉。


少女の太腿がわずかに揺れ、唇がきゅっと結ばれる。


「……な、なんじゃこれは。ぬくもりが……喉奥に、からんで……」


 


彼女の内腿には、微かな湿り気が滲みはじめていた。


だがフィリシアはそれに気づかぬふりをして、凛と顔を上げた。


「……妾は、愚かではない。これしきのことで……っ」


 


──だが、限界はあっけなく訪れる。


「……っ……あぁ……っ」


ほんの一瞬。


漏れた声は、かすれた息に混じり、幻のように空気へ消えていった。


 


沈黙。


レオニスは顔を上げず、あくまで書物を読み続けるふりをしていた。


「……フィリシア殿?」


「な、なんでもない。黙れ、小童……ッ!」


椅子を引き、少女は足早に席を離れる。


だがその足取りは、先ほどよりも、ずっと脆く揺らいでいた。


 


(──ほう。言葉だけでここまで崩れるとは。やはり、王妃殿下は飢えている)


だが、ここで踏み込むにはまだ早い。


彼女の理性は、まだ高貴なる仮面として残っている。

それを砕くには、もう一段、心を揺らす刺激が必要だった。


 


静まり返った図書室に、書を閉じる音が響く。


レオニスは、ゆっくりと立ち上がった。


「……さて。次は、“実践”の時間ですね、フィリシア殿」


 


──彼女がその言葉の意味を悟るのは、もう少し先のことになる。


 


第三王妃攻略:進行度 25%(知の陶酔による快楽の認知)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ