番外編『知識の悦び、恋の目覚め』
──第三王妃フィリシア視点
あれは、図書館の午後じゃった。
厚い本をめくる妾の指先が、知らぬ間に震え、心がざわめいていた。
冷静だったはずの頭が、彼の言葉ひとつで、熱くなる。
レオ。宰相殿。
──いいや、レオニス。
初めて名で呼ばれたとき、
妾は不覚にも、鼓動が跳ねるのを感じてしまったのじゃ。
快楽に揺れながらも、妾は自分に言い訳しておった。
「これは知識の探求……ただの知的刺激じゃ」
「妾は飽いていた、だから少し、愉しんでいるだけなのじゃ」
──じゃが、本当は、違ったのかもしれぬ。
あの夜、一人で書を閉じた後。
指先に残る余熱と、唇に残るあの囁き。
「……可愛い、フィリシア」
その声を思い出しては、妾は眠れぬ夜を何度も過ごした。
そして、気づいてしまったのじゃ。
──妾はあやつに、恋をしておった。
プライドの仮面を剥がされて、羞恥に濡れたその瞬間。
高貴であることを忘れ、ただの女となったとき。
妾は、あやつのことを「欲しい」と、思ってしまったのじゃ。
知識も、理性も、千年生きた高貴さすらも。
あやつの前では、何の盾にもならぬ。
「妾は……ただ、レオに褒めてほしかっただけかもしれぬの」
誰にも言えぬ本音。
だが、いまなら──囁ける。
背徳の関係に身を委ね、
小さな身体で、あの大きな胸に飛び込んだ日から。
妾の世界は、彩りを変えていった。
「あやつ以外の男など、全て霞んでしまったのじゃ」
そう気づいたとき、妾の恋は完成した。
知識では得られぬ。
言葉では説明できぬ。
ただ“胸が熱くなる”感情。
それが、恋であった。
──今宵も妾は、レオの膝の上。
「のう、レオ。妾のこと、もっと褒めてくれてよいのじゃぞ?」
軽口の奥に、本物の愛情を宿しながら。
第三王妃・フィリシアは、いま誰より甘えん坊で、誰より幸せな“恋する女”となっていた。
【進行度:100%(自覚的な愛情による完全攻略)】