エピローグ『宰相の執務室と、甘い牢獄』
宰相執務室――
朝焼けにも、夕暮れにも染まらぬ、深い静謐の空間。
だがいま、その部屋には、香り立つような甘い熱が満ちていた。
「ふふっ……お仕事中なのに、レオの膝の上に乗ってはいけなかったかのう?」
銀の髪がひらりと揺れる。第三王妃・フィリシアは、まるで子猫のようにレオニスの膝上で甘えた。
「……いけない? あたくしにそう言える度胸があるのかしら?」
艶やかな青髪を揺らし、第二王妃・リシェルは机の端に座って脚を組み、挑発的に微笑んでいる。
「……二人とも、少しは節度をお持ちなさいな」
ため息交じりにそう言いながらも、最も距離を詰めているのは――
第一王妃・エリザだった。
レオニスの背後から腕を回し、その首筋に、微かに紅潮した吐息を落としていた。
「……私のことだけを、見ていてくださるなら……もう、ほかに何も要りません」
耳元に触れるその囁きは、清楚な仮面の下に眠る、ひとりの女の熱。
「……はあ……」
レオニスは、机の書類を閉じ、深いため息を漏らした。
「私の願いは、ただ一つだった。真面目に、誠実に……生き直すことだったのに」
「そんなこと言って、三人も落としておいて、真面目なんて言葉がよく出るのう」
「レオ……本気で言ってるなら、正座よ」
「ふふ……わたくしの唇に、あれだけ触れておいて?」
三人の王妃が、彼に絡み、絡まり、笑い声が溶けていく。
衣擦れの音、口付けの余韻、潤んだ視線。
ここは、かつて政の場だった。
いまはただ、背徳の甘い牢獄。
誰も彼を責めない。
三人は、心から彼を愛していた。
そして、レオニスもまた――
「……まったく……女神め。これが試練とは、笑わせてくれる」
そう呟きながら、
三人の王妃の髪に、そっと指を通す。
それぞれに違う香り。違う重さ。違う鼓動。
だが、確かに一つの真実。
──これは罰か、それとも赦しか。
「……まあ、いいか。
どうせこの結末に、抗えるはずもなかったのだから」
その夜、宰相の執務室は、長い沈黙に包まれる。
官能と愛と、背徳のぬくもりが交じり合う音を、誰も咎める者はいない。
――宰相レオニス。
異世界に転生し、三人の王妃を“堕とし切った”青年の、
真面目に生きたかったはずの、終着点。
これは、一人の青年の「真面目に生きたい」願いが、
女神によって背徳のハーレムへと塗り替えられていく物語。