3章 第3話『純潔と汚濁の間で』
──このままでは、きっと、堕ちてしまう。
そう思いながら、エリザは彼の胸に身を預けていた。
「……わたくしを……あなたで、染めて……」
それは王妃としてではない。
聖女としてでも、忠義の女としてでもない。
ただひとりの、女としての──願いだった。
レオニスは何も言わず、彼女の指先にそっと、自らの指を絡めた。
「私は……もう、抗えそうにありません。
ずっと夢を見ていたのです……あなたに抱かれる夢を」
「それは夢ではありません。あなたの心が、覚えていたのです」
レオニスの言葉は、穏やかな風のようだった。
柔らかく、あたたかく、静かに、心の奥に吹き込んでくる。
その瞬間──
【催淫スキルLv4:発動】
《記憶と快感の重なりを引き起こす、精神連結型刺激》
彼女の瞳が揺れる。
過去と今が、夢と現が、ゆるやかに重なっていく。
──かつての夜。
まさきの腕の中で感じた、初めての熱。
胸に触れた手の温もり、唇に重なった吐息。
その記憶が、いまこの瞬間に蘇る。
触れていないはずの場所が、疼く。
見ていないはずの光景が、瞼の裏に浮かぶ。
「やめて……これ以上は……汚れてしまう……」
「もうあなたは、充分に美しい。
今のあなたも、あの時のあなたも──ずっと、私の宝物です」
指先がそっと頬をなぞる。
まるで過去の恋を撫でるように、優しく。
エリザは、自らその手に頬を預けた。
「……まさき……いいえ……レオニス……」
その名前を呼んだ声に、愛しさが滲む。
「あなたに、抱かれたいのです。
忠義でも義務でもない、ただ……ひとりの、女として──」
彼女の唇が震え、細い肩が小さく揺れる。
レオニスは、そっと口付けを交わした。
熱く、ではなく、深く静かに。
まるで儀式のように、心と心を結ぶように。
その瞬間、エリザの身体が、ふるりと揺れた。
快楽というには穏やかで、
涙というには甘い感覚が、胸の奥から広がっていく。
──白いドレスの裾が、花弁のようにほどけていく。
彼女の中の“純潔”が、誇りが、
ゆっくりと、蕩けて、崩れていく音がした。
「もう、どうなってもいい……
だから……私を、あなたで染めて……」
その言葉とともに、エリザは涙を流した。
それは悲しみではない。
やっと許された、幸福の涙だった。
レオニスは彼女を抱きしめ、額をそっと重ねる。
(これで……三人すべてが)
思い返せば、女神アナステシアの言葉がよみがえる。
──「三人の王妃を攻略しなきゃ、君の魂、ポンって消えちゃいまーす☆」
ふざけた啓示。だがその中に、
確かに本物の出会いがあった。
第一王妃攻略:進行度 100%(快楽と涙による自我の開放)
聖女の仮面は、静かに崩れ、
いま、ただ一人の女として、レオニスの腕の中にいた。
──三王妃、すべて攻略完了。