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プロローグ『宰相就任と、クズ男の記憶』



──金の装飾が施された石畳を、黒靴の音が静かに響く。


中世風の壮麗な玉座の間。その中央を進むのは、黒髪の青年。

白金の礼装に包まれたその姿は、誰の目にも気高く、凛としていた。


「……よくぞ来た、レオニス・フォン・エイリス。そなたに、宰相の位を授けよう」


王の言葉に、静寂が満ちる。

臣下たちが見守る中、青年はゆるやかに跪き、頭を垂れた。


「謹んでお受けいたします。陛下の御威光の下、この身すべてをもって国政に尽くしましょう」


その声音に、偽りはなかった。


けれど──彼の心の奥底では、まったく異なる声が響いていた。


(……ああ。思い出した。思い出しちまったよ、前の俺を)


 



 


彼の名は、レオニス・フォン・エイリス。

名門・宰相家の嫡男として、18年を律儀に生きてきた青年。

父の厳格な教育を受け、剣も学問も優秀、王城でも誰もが一目を置く存在だった。


だがその日、宰相就任の儀という節目で──彼は前世の記憶をすべて思い出してしまったのだ。


酒と女に溺れ、愛人を次々に裏切り、恨みを買って刺された、どうしようもないクズ男。

名前は“まさき”。25歳であっけなく死んだ哀れな人間。


(……あんな終わり、もう二度とごめんだ)


だからこそ、レオニスは誓った。


今度こそ、誠実に生きる。真っ当に、生き直す。


それが転生した自分にできる、唯一の贖罪だと思った。


──そう思った、たった数秒後までは。


 


「やっほー☆ おめでとー☆ 祝・就任~~♪」


空気をぶち壊す、甲高く浮かれた声が脳内に響く。


「……誰だ?」


「女神アナステシアでーす♡ 転生の管理やってまーす♪」


現れたのは、頭に星を浮かべた金髪の少女。

どこか二次元的な存在感。だが間違いなく、神的な“圧”を感じる。


レオニスは思わず眉をひそめた。


「貴女が……転生を司る存在か。なら、俺に何の用だ?」


「うーんとね~、ちょっとだけシステム的な問題がありましてぇ☆ 君、転生条件の一部が未達成だったのぉ」


「……未達成?」


「つまりぃ、“真面目に生きる”ってのは、君の希望だったけど、こっちの課題はまだ残ってるってワケ!」


アナステシアはウィンクしながら、信じられない言葉を告げる。


「王妃三人を攻略しなきゃ、君の魂、ポンって消えちゃいまーす☆」


 


レオニスの口元が引きつる。


「……冗談だろう」


「じょ・う・だ・ん♡ なわけなーい!」


女神はポーズを決め、指を三本立てて数え出す。


「攻略対象は──

 第一王妃エリザ、第二王妃リシェル、第三王妃フィリシア♪

 全員、君を毛嫌いしてるよーん! しかも全員、好感度マイナス100からのスタート♡」


レオニスは額に手を当てた。意識が遠のく。


「……おい。真面目に生きたいんだ。俺は、前世みたいに……」


「うんうん、それも素敵だよ? でも、真面目に生きながら、

 背徳的に王妃を堕とすのって、めちゃくちゃ燃えない?」


「貴様……神というより、“悪魔”だな」


「えへ♡ ありがとぉ〜♪ それとスキルもプレゼントぉ☆」


 


瞬間、レオニスの脳内に奇妙な知識が流れ込む。


──【催淫スキル】

【Lv1】:視線で軽微な快感と羞恥を引き起こす。

【Lv2】:言葉で心を揺さぶり、快楽を浸透させる。

【Lv3】:触れずして官能を覚醒させる。

【Lv4】:記憶と快楽を結びつける(限定的)。


 


「……なにが“真面目”だ……どこが“誠実”だ……ッ」


「じゃあ、がんばってねー♡ 女神アナステシアの無理ゲー☆ 開幕でーす♪」


女神は陽気に指を鳴らし、空間ごと弾けて消えた。


 


残されたレオニスは、深く息を吐き、冷たい玉座の間を見上げる。


(……やれやれ。結局、前世よりもっとタチが悪いな)


けれど彼は、ただの男ではない。前世でクズを極めたからこそ──

女性の“心の隙間”に気づける目がある。


(……仕方あるまい。ならば俺は──

 王妃三人を、“真面目に”堕としてみせよう)


こうして、ひとりの宰相が背徳に満ちた“攻略戦”へと足を踏み出した。


それは、誰のためでもない。

真面目に生きるために、王妃を堕とすという、矛盾だらけの道。


その果てに待つのは──快楽か、破滅か。


 


──いま、禁断の幕が上がる。

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