親不孝者の転生
「お前、この文字がわかるのか?」
――それが、転生先の父親に、二言目に言われた言葉だった。
***
俺の前世の名前は、佐藤 悠真。
別に特別な名前じゃない。田舎の公立中学を卒業した、どこにでもいるような少年だった。
小中学生の頃は、まだ良かった。
田舎の学校はクラスが30人くらいで、みんな顔見知り。
俺は勉強が得意だった。テストで90点以上取ると、先生に褒められ、親にも「よくやったな」って頭を撫でられた。
友達も多かった。
夏休みは川で魚を捕まえたり、冬は雪合戦したり。
「将来は医者になるんだ」なんて、冗談半分で言ってたこともあった。
あの頃は、本当に何も怖くなかった。
人生の分岐点は、高校に入ってからだった。
親の仕事の都合で、俺は都心の進学校に転校した。
偏差値70超えの、超名門校。
制服はブレザーで、校舎はガラス張り。
周りはみんな、塾通いで英検1級取ってるような奴らばかり。
俺は、田舎の公立中学から来た「田舎者」だった。
最初は頑張った。
朝5時に起きて、電車で1時間半かけて通学。
授業は全部英語で、数学は大学レベルの問題が出る。
友達はできたけど、みんな「将来は東大」「ハーバードに行きたい」なんて本気で言ってる。
俺は、ただ「大学に行きたい」って思ってるだけで、浮いてた。
高校2年の夏休み直前。
俺は、不登校になった。
別にいじめられたわけじゃない。
ただ、都会の空気が重すぎた。
満員電車、ビルの谷間、誰も知らない顔。
勉強についていけなくなった。
友達はできたけど、みんな「勉強の話」しかしない。
俺は、田舎の友達と違って、誰も「一緒にゲームしようぜ」なんて言ってくれない。
耐えきれなくなった。
ある朝、目覚ましを止めて、二度寝した。
それが、始まりだった。
***
両親は、優しかった。
父は「きっと環境の変化で大変なんだろう」と、俺の部屋にそっとおにぎりを置いてくれた。
母は「無理しなくていいよ。ゆっくり休みなさい」と、頭を撫でてくれた。
俺は、その優しさに甘えた。
1日中、部屋に閉じこもった。
ゲーム、アニメ、ラノベ。
食事は、家族と一緒に取らなくなった。
コンビニ弁当とカップ麺。
体重は、50キロから70キロに増えた。
部屋はゴミだらけ。
カーテンは閉めっぱなし。
外の光なんて、必要なかった。
毎週、俺のことを心配して、家に来てくれた友達がいた。
芽依。
中学時代からの付き合いで、俺のことを「ゆうま」って呼ぶ、明るい女の子。
「元気?」「学校、どう?」「何かあったら話してよ」って、いつも笑顔で言ってくれた。
でも、俺は嘘をついた。
「家の都合で、学校に行けないんだ」
「詳しいことはわからないけど、頑張ってね」って言われた。
「また一緒にラーメン屋行こうな!」って言われた。
「辛いことがあったら、全部は話さなくていいから、少しは頼ってね」って言われた。
俺は、全部嘘で返した。
「うん、大丈夫」「もうすぐ戻れる」「ありがとう」って。
嘘をついても、心は痛まなかった。
むしろ、楽だった。
本当のことを言ったら、芽依は悲しむだろう。
俺は、クズだったから。
大学受験シーズンになると、芽依も来なくなった。
当然だ。
俺は、高校3年生になる頃に中退した。
親には、「大学受験の勉強してる」って嘘をつき続けた。
***
大学受験は、一応した。
県外の、偏差値50くらいの私立大学。
でも、結果は不合格。
当然だ。
俺は、1年間、勉強なんてしてなかった。
でも、親には言えなかった。
「合格した」って嘘をついた。
「入学手続きは全部こっちでやる」って言った。
「学費は自分の口座に振り込んでくれ」って言った。
親は、信じてくれた。
毎月、20万円を振り込んでくれた。
俺は、そのお金で、都心から少し離れたアパートを借りた。
1K、風呂なし、トイレ共同。
家賃は5万円。
残りは、食費とゲームとラノベ。
引きこもり生活の、完成だった。
親には、嘘をつき続けた。
「大学、楽しいよ」「友達できた」「サークル入った」って。
電話で話すたびに、嘘を重ねた。
バレないように、必死だった。
バレたら、怒られる。
人生で、親に本気で怒られたことがなかった。
だから、怖かった。
こんなクズが、バレないように必死に……。
***
引きこもり生活も、3年目に入った。
俺は、23歳になっていた。
体重は80キロ。
髪は伸び放題。
部屋は、ゴミと埃で埋まっていた。
外に出るのは、コンビニに行く時だけ。
電車に乗るのも、1年に1回くらい。
ある日、買い物に行こうと、電車に乗った。
駅のホームで、芽依と出会った。
彼女は、大学生になっていた。
髪は少し短くなって、化粧もしてる。
でも、笑顔は変わらない。
「ゆうま!久しぶり!元気だった?」
「結構、変わったんだね」って、笑った。
俺は、言葉に詰まった。
何を話せばいいのか、わからなかった。
でも、咄嗟に出た言葉が――
「ありがとう。」
家に来て心配してくれたことへの感謝だったのか。
嘘を信じてくれたことへの感謝だったのか。
自分でも、わからなかった。
それが、人生最後の会話だった。
***
言った直後、駅のホームに電車が入ってくるアナウンスが流れた。
そして、電車がホームに入ってこようとした時――
それは、突然起こった。
芽依が、俺の横を飛んでいた。
ジャンプしたんじゃない。
誰かに押されたような感じだった。
飛んでいる彼女のロングヘアが、俺の頬に当たった。
まるで、ホラー映画で幽霊が突然出てきたような、驚きだった。
俺は、手を伸ばした。
なんで手を伸ばしたのか、わからない。
でも、伸ばした。
芽依の肩を、思いっきり引っ張った。
ただ、立ち位置が悪かった。
一瞬のうちに、俺と芽依の位置が入れ替わった。
俺は、電車に吹き飛ばされた。
***
飛んでいる時、人生で1番頭が回った。
まず、痛みがなかった。
電車に跳ね飛ばされたのに、痛みがない。
右目しか見えない。
左側は、すごいことになってるんだろうな、と思った。
次に、ホームを見た。
芽依が、服が乱れて、肩から血を出して座っていた。
「強く握りすぎてごめんね」って言いたかった。
でも、口が動かなかった。
緑色の服を着たおっさんが、周りの大人に取り押さえられていた。
あいつに、中指を立てたかった。
でも、力が入らなかった。
そして、最後に――
誰かに話しかけるように、思った。
『死ぬ直前とわかったからかなぁ。
なんか、ずっと背負ってたものから解放された気がする。
溢れてくるのは、後悔みたいなもんばっかりだなあ。
嘘に嘘を重ねた人生、なんか疲れちゃった。
多分、お父さん、お母さんは、俺の嘘に気づいていたのかな。
まあ、それは今、思っても確かめる方法はないけど。
でも、一言でいいから謝りたいなあ。
でも、こんなクズでも、女の子一人救えたと思うとお釣りが来るレベルかなあ。』
そう思った瞬間、意識が消えていった。
初投稿です!異世界ものというのを書いてみました!1話目で主人公について書きすぎたかなあと思います。
これから異世界パート書いていきます。キャラのセリフや会話は苦手ですが精一杯頑張るので応援よろしくお願いします!




