4 サカナシとの戦い
「軽口でお前の右に出る者いないよな。……ありがとうよ、頭に上った血が下がったわ」
「あいつの舌戦が下手すぎて痛くもかゆくもなかった。じいさんが勇敢に戦ったってこともわかったしな」
「うん……ありがと」
「じゃ、いくぞ」
「おう!」
ラオは勢いよく飛ぶ。サカナシは他の仙人相手に苛々してラオたちから気が逸れたらしい。大きすぎるので小回りがきかない、そこら中を飛びまわることができないようだ。
その隙にラオたちはサカナシの頭めがけて突撃する。近づいてきてようやく気がついたらしく、何か攻撃を仕掛けようとしたようだが他の仙人に邪魔をされてうまくいかなかったようだ。
純血の三家らはさすがに圧倒的だった。チョウカの出した炎とは比べ物にならない術をくり出している。頭の近くにやってくるとチョウカは飛び降りた。サカナシの耳に捕まると、サカナシは再び怒り狂う。
「触れるな穢らわしい!」
「お前、シュウセン様に何回か噛みつかれただろ。あちこち歯型が残ってるぞ、無様無様」
「喧しいわぁ!」
「今ならあの御方がどうして一人で行ってしまったのかわかる。勝てないと分かっていても戦いに行ったのはラオを守りたかったからっていうのもあるけど。力をつけた俺たちがお前にとどめをさしてくれると信じていたからだ!」
「笑わせるな小僧!」
サカナシはチョウカを振り落とそうと滅茶苦茶な動きを始めた。その影響であちこち山が砕かれ、突風によってあらゆるものが吹き飛ばされていくがチョウカは振り落とされない。
「愚かな龍、少し痛い目を見ろ」
オオオォォォ!!
ラオの雄叫びとチョウカの術によって雲が呼ばれる。一気に辺りが真っ暗となった。入道雲が重なりに重なって太陽の光が全く届かないのだ。
「がぁあ!?」
サカナシは光の中にいる龍。光を遮られては力が格段に落ちてしまう。辺りに響く雷の音にサカナシも何をしようとしているのか気づいたようだが鼻で笑った。龍に雷が効くわけない。
サカナシは口の中に思いっきり吹雪を用意する。とどめを刺したと浮かれている時に氷を叩きつけてやる、とニヤリと笑ったが。
「オラァ!」
チョウカが渾身の力で耳元を蹴飛ばす。その瞬間サカナシに激痛が走った。そして雷が落ちる。
ゴウ! バキバキバキ!
「ぎゃああああ!?」
雷がたたき落とされた瞬間、今まで感じたことのない凄まじい激痛が全身を駆け巡る。耳のそばに突き刺さっていた龍の歯、それを骨まで打ち込んだのだ。雷が歯に直撃するようチョウカは雷を操った。サカナシの骨と神経に伝わり全身をかけめぐる。白目を剥いたサカナシは、ゆっくりと天上界に落ちていった
雷を落とす瞬間にサカナシから飛びのいたチョウカをラオが咥えて背中に乗せる。
「死んだか?」
「いや、気絶しただけだ。後は暇人共に任せよう。今の俺たちではトドメを刺すのは無理だ。ちっとばかし刺激の強い按摩程度だな」
二人合わせても半人前以下だ、勝てるわけない。凄まじい雄叫びとともにサカナシは暴れまわってどこかへ飛んでいく。
「逃げられてやがる。三家もいたのに情けねえな」
「あいつら威張りくさってるだけだから。それにしてもサカナシの兆しを夢で見るなんて。お前実はすごいんじゃないのか?」
これだけのことになったのだ。それを夢で見ていたなんて、三家より凄い力を持っているのではないかと思った。
「俺が見たのは光の道だろ」
「うん?」
「俺虫嫌いだからな」
「……そういえばそうだった。お前ってちょっと残念だな」
ため息をつくラオの頭を軽く叩く。
「うるさいわ。それより、もっとうるさいのが来たぞ」
見れば三家の長老が全員こちらに来ているのが見える。その中でも中心になっているメイエが険しい表情で目の前に来た。
「一体これはどういうことか! 申開きは聞かぬぞ!」
「うるせえクソババア、男汁臭いんだよ。どこの野郎と励んできたんだ?」
「な!?」
「え、図星なの?」
鼻で笑っていたチョウカと違って驚いたようにラオが突っ込む。メイエはあまりにも下品な内容に頭に血が上っただけなのだが、ラオは言い返せなかったことに驚いて本当なのかと思ったようだ。その様子にチョウカは爆笑した。
「さて、ババアの頭が噴火する前に逃げるか」
その言葉を合図にラオは地上へ急降下する。上からは怒り狂う声がしているが、仙人たちは地上に行くのは汚らわしいと降りることはない。
「しばらく戻らないほうがいいか。別に戻る理由もないけど」
「俺はいいけど、チョウカはどうするんだよ」
「探そうぜ」
「何を」
「シュウセン様、どこかに落とされたんだろう。探して弔ってやろう」
そう言うとサカナシから吹き飛んだシュウセンの歯を見せる。それを見てラオは驚いたようだが、小さく笑った。
「お前の手癖の悪さ、さすがだな」
「どうせまたあの野郎が元気になったら光の道の夢を見る。それまでにちょっとは強くなっておかないとな。真っ先に俺らに会いに来るだろうから」
「強くなるまではせっせと虫退治だな」
笑い合う二人の目の前に、雲間から割れた太陽の光が差す。
「お、正真正銘の光の道だ」
「あそこから降りようぜ、なんか神々しいし」
そう言うや否やラオは急いで光さす場所に飛んでいく。この後、その姿を地上の人に見られて神が降臨したと追い回されるとも知らずに。
光の道はやはり、人々に希望を与えるものなのだと。およそ半年追い回されて身をもって二人は知るのだった。