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陰陽の龍  作者: aqri
番外編
22/23

出会い

龍の誕生は数百年に一度と言われている。なぜなら龍は性別がなく他の生き物のように交尾をするわけではない。

陰陽五行。それぞれ気が高まり集まったところに龍が生まれるのである。自然の中で、いつどこでどんな龍が生まれるのか。それは同じ気を持つ龍にしかわからない。生まれたての龍を大切に育てる龍もいれば、特に興味がないので放っておく龍もいる。

陰陽の龍は非常に珍しい。なぜならこの二つは互いが互いを引っ張り拮抗している。どちらか片方の気が強まること自体が珍しいのである。


陰龍であるシュウセンが新たな陰龍の誕生の気配を感じた時は本当に喜んだ。おそらく自分の次に生まれた存在だろう。そうなると千年ぶりだ。

しかしどうしたことか。龍の形をしているものの命の気配がない。目を閉じたまま浅い呼吸を繰り返している。

「これは、陰陽の拮抗が崩れているのか」

この世のどこかで陽が強すぎるものがあるのだ。場所なのか、命なのかわからないが。しかしこのままでは陽に負けてこの新たな命が消滅してしまう。それに気づかなかったがおそらく自分も力が落ちてきているに違いない。


焦ったシュウセンは天上界へとやってきた。仙人たちは思いっきり顔を顰めてなんやかんやいろいろ言ってきたが。それらを全て無視して、何にも属さない場所。真の無垢の地にやってきた。

ここは陰陽五行すべてが打ち消されていて忌み嫌われている場所だ。植物も育たない、何もない荒野。ここなら陽の力が届かないのではないか。わずかな可能性を信じてここにやってきたが、それでもやはり龍の雛は今にも散って消えてしまいそうだ。

「頑張れ、がんばってくれ」

千年以上生きてきたのに今にも涙がこぼれそうだった。龍は孤独な存在だ、馴れ合ったりはしない。それが当たり前で寂しいと思ったことはない。しかし同じ陰龍が生まれたことがこの上ない幸せなのだと初めて知った。


その時どこからか足音が聞こえてくる。山の影に隠れて様子を見ると1人の女がおくるみのようなものを抱いて走ってきた。辺りを見渡しそれを大地に置くと再び走って戻っていく。

(どう考えても赤子ではないか)

女が完全にいなくなったのを確認してから覗いてみれば案の定、産まれて間もないであろう赤子だった。しかも声が出ないように口には符が貼り付けられ術がかかっている。それがうっとうしいのか、泣くことができずに苦しいのかバタバタと暴れている。


チラリと小耳に挟んだことがあるが、仙人は基本的に夫婦になるもの以外の異性と子作りはしない。捨てにきたということは、不義の子なのだろう。命をなんだと思っているのか。

あまりにも小さくてかぎ爪ではどうにもできないので、器用に長いヒゲを操る。蛇のようにうねうねと動き、2本使って何とか剥がそうとする。するとそれがまるであやしているような役割になったのか、赤子は泣き止みじっとみつめていた。

ぺりぺり、となんとか符を取ることができた。仙人の術など全て知っているわけではないが、多少の知識はある。これは呪いだ、周囲から気配を隠しいずれ弱らせて死なせる。誰にも気づかれることなくたった1人で死ぬしかない呪い。その場でとどめをさせなかった何か事情があるにせよ。本当に自分勝手だと腹を立てる。

「おっと、俺が覗き込んでいたら怖かろうな」

何せ大きな龍が真正面にいるのだ。さてこの子をどうしたものかと思っていると。

「おひげ、おひげ」

きゃっきゃと喜ぶ赤子に驚いた。

「しゃべれるのか」

確かに仙人の子供はかなり高い知能と力を持っている。赤子がどんなことができるのか知らなかったが。

赤子は髭を掴もうと手をバタバタさせている。あやす必要はなさそうだが、遊び相手にはなってやるかとヒゲをちょこちょこ動かしてやっているとついに左手で髭をつかんだ。

「~~~!!!」

その力たるや思わず悲鳴を上げそうになったほどだ。叫んでしまうと突風が出てこの子が吹き飛んでしまうからぐっと堪えたか。

「ぼ、坊。もう少し優しくつかんでくれ」

「うー?」

わかっているのかいないのか。にぎにぎと握っていたが、ちなみにこれもけっこうな痛さだった。やがて言われた通り強く握るのをやめた。

「賢い子だ。俺が育てるわけにはいかないからどこか別の仙人を探さなくては。いっそ地上におろして人間に育ててもらうのもありか」

悩んでいると赤子は自らおくるみを蹴飛ばし四つん這いで近寄ってきた。四つん這いで歩けるのも、普通はもっと後のはずだがこの子はできるらしい。近寄った先は生まれたばかりの陰龍だ。大切な存在だがこの子なら悪さをしないだろうとじっと見守る。

「あそぼ」

「その子は……まだ起きていない。ねぼすけなのだ」

「ねぼすけ。あーそーぼ」

そう言うと左手でそっと手のひらに乗せようとしたようだったが。


ぎぅぅぅ!と硬いものがこすれるような嫌な音が響いた。まして龍は耳が良い、凄まじい音に思わず顔をしかめる。


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