2 シバリ
「なるほど、凶兆っぽいな。ちっとばかし見回りしてくる。どうせ三家と八家に言っても自分達が何も感じてないからお前らの気のせいだバーカって言われるの目に見える」
そう言うとラオは窓を開けて飛び出し空を飛んでいった。残されたチョウカは複雑な気持ちだ。ラオの祖父、シュウセンがいなくなる前に空を見ながらこんな事を言っていた。
「チョウカ、ラオを頼むな。俺がいなくても頑張れるよう助け合ってくれ」
「え? いなくなるのかよ?」
「俺だっていつかはいなくなるさ、もう歳だ」
そう言って数日後、彼は姿を消した。何で教えてくれなかったんだと泣きながら責めるラオにごめん、と言う他なかった。数日後、お前のせいじゃなかったのに責めて悪かったと地面に頭を叩きつけて謝るラオに、チョウカは改めて謝りながら思った。
大切な友達を泣かせる大馬鹿野郎の自分。それでもなお友達でいてくれるラオを大切にしようと。
自分も外に出る。ラオと違って空を飛ぶことができないので、高いところから空を見ようと地面を蹴って山を駆け上がる。あっという間に山の頂上につくと周囲を見渡した。無論光の道は見えない。……否、何かが見える。
「光の粒?」
今は真昼、真上に太陽があるのでまぶしくて見えづらいが確かにキラキラと光るものが太陽の下に集まってきているように見える。その光景に背筋がゾクリと泡立つようだった。
あれは、虫だ。
「シバリか!」
普通の人は普段その姿を見ることができず、仙人の血を引く者たちから嫌われている虫、シバリ。この虫が体にとまると倦怠感に襲われる。そして何の力もない普通の人間は徐々に体が弱り死んでしまう、シバリに生命力を奪われてしまうからだ。生命力に溢れ元気のある者よりは、少し体の弱い者や老人、子供に取り付くことが多い。
そういう虫なんだな、と思っていたが考えてみれば不思議だ。なぜ動物や植物ではなく人と言う生き物だけに取り付いてくるのか。もしも人の命を蓄えるためのだとしたら、その力を蓄えたときに一斉に集まる習性があるのだとしたら。何のために?
「ラオ!」
力の限り叫ぶ。彼は耳が良いので絶対に聞こえるはずだ。案の定凄まじい速度でこちらに飛んできてくれた。
「びっくりした、なんだよ!?」
「頼みたいことがある、地上に降りて人々が大量に死んでいないか確認してきてくれないか」
「え?」
「シバリがとんでもない数集まってる。これだけの数が集まるなら下界の人々が犠牲になったはずだ! ……そうか、だから日照が続いてるんだ」
特別な力を持ち寿命が長い自分たちは何とも思っていなかったが、これだけの長い期間日照が続けば作物が育たず水が枯れていく。人は徐々に体が弱っているはずだ。
「シバリが餌を求めやすくするために日照が続いているのだとしたら」
「おいおい、本当に神様が降りてくるためにこんなことしてるとか言うなよ!?」
「こんなクソ面倒な手段取るのが神なわけないだろ」
その言葉と同時にラオは急いで地上に向かって飛び、チョウカはシバリに向けて指を差した。
「消えろ」
その言葉と同時に指先から炎が飛び出る。しかしシバリたちはスイッとかわしてしまった。チッと舌打ちをしたが、ふと思いつき近くにある尖った山に飛び跳ねて移動した。その山の深い部分に溶岩がある。息を吸って右手で拳を作ると、渾身の力を込めて山の頂点を殴りつけた。
窪みができるほど大きく抉れ、中の溶岩が刺激されて地鳴りと共に溶岩が吹き出した。先程の炎と今の地鳴りに気がついた他の者たちが怒鳴りつけてきている。山に登ろうとするも溶岩が吹き出していたので皆溶岩をなんとかしようと慌てているようだ。戻ってきたラオも「なんじゃこりゃ!?」と叫ぶ。
「お前何やってんだ! つーか熱くないのかよ!」
チョウカは相変わらず噴火しているすぐそばに立っている。
「よし、こっちに来た」
シバリたちは太陽の下ではなく溶岩の方に集まり、次々と突っ込んで死んでいく。それを確認してから隣の山に飛び移った。集まってきた者達は噴火をどうにかしようとしているようだが、さすがにこれだけの事態ではどうにもできない。
「八家全員慌ててるの面白いな」
「三家の長どもの頭が怒りで噴火しなきゃいいな。で? なにこれ」