1 集会
金持ち連中は明らかに後ろに並ぶ貧乏人たちを蔑んだような顔をして見ている。時折後ろを見ながら何かを話しクスクスと笑っている。念のため意識を集中して耳を済ませた。
「相変わらず惨めな連中が多いのう」
「あんなふうにはなりたくないものだ。臭い臭い、まるで牛小屋にでも入っているかのようだ」
「同じ場所に入れないでほしいものだ」
「仕方あるまい。これもランカ様のご意向だ」
「早く罪人の沙汰が始まらないものか。鼻が曲がりそうだ」
雰囲気からして熱心な信徒、というわけではなさそうだ。人を集めているのは何か理由があるにして、あの金持ちの連中が来ているのは何となく予想がついた。罪人を連れてきて沙汰を待つと言っている。
祭壇の前に女が一人やってきた。貧しい者たちに教えを説いていた女だ。ランカ様、とやらだろう。女はまず祈りを捧げにやってきた者たちの方を向いて口を開いた。
「皆さん。今日もまた皆さんを虐げる者達を連れてきました。この者たちが考えを改めるのか、それとも悪しき道に進んでしまうのか。キノクニ様の沙汰を受けていただきましょう」
その言葉に貧しい者たちが一斉に首を垂れる。金がありそうな連中も一応形だけ頭を下げた。だが、深々と下げたわけではなく一礼といった感じだ。
「何の説明も受けてないんだけど、これから何やるんだよクソババア」
静まり返っていた中で声を張り上げるとそこら中に響く。全員ぎょっとした様子だ、おそらくランカが取りまとめ役なのだろう。キノクニとやらが拝む相手なら実質権力があるのは彼女に間違いない。そんな相手をクソババア呼ばわりしたのだから皆唖然としている。
「あ――」
「あ、やっぱ想像ついたからいいや。罪人でもないやつを無理矢理連れてきて、沙汰っていう名の処刑をするわけだ。逆らったらこうなるぞっていう恐怖を民衆に植え付けるのと、最前列に並んでる奴らは娯楽かな」
自分で聞いておいてランカが喋ろうとした瞬間に遮ってベラベラと喋ってみせる。一番頭にくるやり方だがランカは表情を一切変えない。むしろ、変えたのは周囲の白服の男たちだ。
ようやくみんな我に返ってチョウカを凄まじい勢いで罵り始める。そんなわけあるか、侮辱するな、なんだこのガキは、罪人の中でも極悪人だ。聞こえる範囲ではそんな感じのことを言われている。
「沙汰って言うけど、どうせ助かった奴なんていないんだろう。いるとすれば利用目的がある奴だけだ。助けていただいた、皆さんこちらの御方についていきましょうって触れ回ってくれる馬鹿野郎を助けるくらいか? あとは金を巻き上げられる商人か」
ニヤニヤ笑いながら言うとますます周囲が騒がしくなる。静まれと抑えようとする者たちの声を聞く様子は無い。
そこにラオが来た。大きさは人の倍ほどしかないので、器用にすいっと柱を避けてきている。不可視の術は見えないし「人」は触れられないが、壁などの物には普通に当たってしまうのだ。
「今どんな感じ?」
「喧嘩売ったとこかな」
「ああ、うん。そんな雰囲気だね。それにしても臭いなここ」
辺りはうっすら香の匂いが充満している。五感がいいラオにとっては鼻が曲がりそうな不快さだった。
するとランカが祭壇の方を向いて膝をつくと深々と頭を下げた。その様子に気づいた者からはっとした様子で慌てて頭を下げ静かになっていく。
わかりにくかったが祭壇には箱が置かれているようだ。大きさは化粧箱くらいでそれほど大きくはない。豪華な見た目ではなく装飾も何もない、本当にただの木でできた箱である。ランカが立ち上がってその箱を手に取るとゆっくりとチョウカの方に歩いてきた。
「お、俺は関係ない! そのガキが勝手にしゃべったからな!」
近くにいた罪人や罪人に仕立て上げられた者達が怯えた様子で必死に叫ぶ。どうやら庶民の間にはアレが何なのかは既に伝わっているらしい。
「愚かなる者、キノクニ様の沙汰を受けなさい」
「沙汰って事は罰ではないんだな。じゃあ聞くけどよ、俺は一体何の罪なんだ。ちなみに侮辱は罪じゃねえなあ、子供の喧嘩程度のことだ。そんなに狭い心の持ち主じゃないだろ、頂点に座す御方様なら」
は、と鼻で笑いながらそう言うとランカは何も言わずに黙っている。
「改めて尋ねるが、俺は何の罪だ。罪名を教えてもらわないのに何の沙汰を受けるって? 沙汰っていうのは善悪の区別だ、裁きとは全くの別ものだ。馬鹿にされたり侮辱される事は悪じゃないだろ、人は一体何のために戦の歴史を繰り返してきたと思ってやがる」
今までのヘラヘラした雰囲気ではなくわずかに低い声で言えば金持ちの連中からは「屁理屈だ」という声が上がる。しかし貧しい者たちは静まり返っている。日照りが続いて作物が育たないから生活が苦しいのもあるが、戦に行って帰ってこなかった者たちも多い。それでいて今の皇帝は再び戦をするからと徴兵の触れを出したばかりだ。




