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61 兄たちとの会話

 入学二日目の夜、夕食の後に人道派の会合がありました。貴族派も会合があったようで、三つある食堂のそれぞれ別の部屋で行ったのですけどね。人道派は人数はそれほどでもないので、部屋が大きすぎるくらいでしたが。なおロビンさんとアスカムさんも人道派ですが、ヘンズリーさんとファーバーさんは貴族派です。

 そして人道派の会合も終わって、私たちはお兄様たちに連れられて談話室に来ています。メンバーは私とお兄様、クリフさんとパトリシア先輩とロニー先輩、コニーとロビンさんとアスカムさんです。男の人と女の人で分かれるように長椅子に座っています。

 ちなみに人道派にも四年の人もいるのですが、お兄様が入学する前は人道派の勢力は衰えていて、人道派の中心人物は三年のお兄様たち三人だそうです。

 お兄様が口を開きます。



「君たちも入学早々の試合ご苦労様。まだ慣れないこともあるだろうけど、ゆっくり慣れていけばいい」


「そうだね。私としては貴族派の者たちのなんで私が人道派なのかという視線がうっとうしいけどね」


「それは仕方ないわよ。私たちは少数派だということを忘れてはいけないわ」


「それはわかっているのだけどね」



 クリフさんも気になっているようですが、そのような視線がうっとうしいのも事実です。ですがパトリシア先輩が言うようにそれも仕方が無いのでしょう。



「あの……ところで私もここにいていいのでしょうか……?」


「私も殿下と同席させていただくなど、あまりにも(おそ)れ多いです」



 ロビンさんとアスカムさんはこの少人数の場に(まね)かれたことに(ひる)んでいるようです。コニーはもう慣れたようですけどね。ロビンさんは私とコニーの友達になったということで、アスカムさんはクリフさんのお供として招かれたんです。



「私はこの学院ではただの一生徒だ。気にする必要なんてないよ」


「ですが……」


「もちろん無理強いはしない。だけど君たちも私を友人だと思ってくれるとうれしいね」


「……はっ。身に余る光栄です」


「は、はい」



 穏やかに言うクリフさんのその言葉とは裏腹に、目には鋭い光があるように思いました。お兄様は言っていました。クリフさんはアスカムさんを将来の側近候補として育てようとしているのではないかと。それが正しいと思える様子でした。

 お兄様が私を見ました。



「ところでエマ。聞いたよ。クリフから『焼滅(しょうめつ)』のエマという異名をつけられたんだって?」


「……はい。クリフさん、ひどいです……これじゃ私が怖がられてしまうじゃありませんか……」


「す、すまない」



 私の恨みがましい視線にクリフさんが(ひる)みます。クリフさんも悪いと思っているようなので、これ以上は言いませんが……



「エマ。クリフを責めてはいけないよ」


「そうですね。クリフ君。君はエマ君を守ろうとしているのではないですか?」


「ははは。先輩たちにはお見通しか」



 私にはロニー先輩の言葉の意味がわかりません。私を守ろうとしているとはどういうことでしょう。



「どういうことですか?」


「私自身に原因があるのだから、恩に着せるように言うわけにもいかないのだけどね。エマ。私と君たちが仲良くしていることに、君に嫉妬(しっと)する者もいるだろう」


「でもエマが畏怖(いふ)という感情であれ一目置かれるようになれば、エマに嫉妬する連中もうかつに行動に移すわけにもいかなくなる、ということね?」


「そう思ってね。だから今日の試合でのエマの活躍は私にとっても都合が良かったよ。エマが自分で自分を守れるんだからね」



 クリフさんとパトリシア先輩の言葉に、私も納得できました。ファーバーさんという実例もあることですし。やっぱり私はこういうことについてはまだまだです。私ももっといろんなことを学ばなければなりません。



「あの……クリフさん。責めてすいませんでした」


「いや、いいよ。元々は私に原因があるんだからね。でも私とも仲良くしてくれるとうれしいね。コニーとロビンもね」


「はい!」


「は、はい!」



 私もクリフさんと仲良くすることに異論はありません。コニーとロビンさんも遠慮がちに返事をしています。

 ちなみにお兄様にも『凍土(とうど)』のオリヴァーという異名があるそうです。考えてみれば『焼滅(しょうめつ)』のエマという異名もお兄様と対になっていて、悪くはないようにも思えてきました。


 ですがやはり私は幸せなのでしょうね。

 前世でも、迷惑をかけることしかできなかった私を前世の家族たちは愛してくれました。

 今世でも、今世の家族たちは私を愛してくれています。そして家族以外にもこのようないい人たちと出会えました。

 そして思いました。私も大勢の人たちのために働きたいと。ただ人々の記憶に残るためだけではなく。そのためにも大賢者を目指そうと。

 ですが私の根本の目的は変わりません。前世の家族に、今の私は幸せにしているという手紙を届けたいと。





― ??? ―


 さて、少女は大賢者を目指す一歩を踏み出しました。

 少女が行く先にはどのような運命が待ち構えているのでございましょうか。

 試練などもなくあっさり大賢者に至るのかもしれませぬ。

 試練を乗り越えて偉大な人物として名を残すのかもしれませぬ。

 道の途上で挫折(ざせつ)し、名もない人物として終わるのかもしれませぬ。

 難しい目標など(あきら)めて、穏やかな幸せを(つか)むのかもしれませぬ。

 転落し、不幸な最期(さいご)を迎えるのかもしれませぬ。


 私には少女の行き着く先が見えております。

 ですが()の運命などいくらでも変わるもの。

 少女がどのような生をたどるのか、楽しみにございます。


 ただ、私にはほんの少し少女に助力する意思もございます。

 少女が大賢者を目指す目的の一つ、それは前世の家族に今の自分は元気にしているという手紙を出すことです。

 けなげにございますね。


 ですがそれにはいくつもの大きな課題がございます。

 一つは、この世界から見て少女の前世の世界がどこにあるのかわからぬこと。

 もう一つは、世界を超えて手紙を届ける手段が不明であること。

 そして最後が、少女の前世と今世が連続した時間とは限らぬこと。

 ことに時を前後させることにつきましては、人はおろか神々でも解決するのは難しいことにございましょう。


 ですがいずれも私にとりましては造作(ぞうさ)もなきこと。

 私には全てを手を貸すつもりはございませぬが、一部手を貸すことも考えているのでございます。

 少女が前二つを達成できるのならば、最後の問題は私が助力して差し上げようと。

 私はただ観察するだけで世界に直接の干渉はせぬようにしておるのですが、楽しませてもらう礼としてこの程度のことはしても構いますまい。

 あるいは少女が全てを自分で()し、神々をも超え私と同等の位階に進むというなら、それはそれで面白いことにございますが。


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