60 エマとコニーの試合 03
防がれたなら、次です。コニーから言ったので、次も私の順番です。
「では、次です」
私は先程と同じように優雅に右腕を掲げます。魔法の前兆を見たコニーの表情が引きつりました。
「あの……エマさん。今度は火球を十個放とうとしているように見えるのですが……」
「はい。五個ではあなた相手では全く不足のようですから」
コニーは涙目になっています。この子はもっと自信を持っていいと思うのですが。
「コニー。あなたはもっと自信を持っていいですよ。先程の感触では、火球十個程度なら余裕で防ぎきられるでしょう」
「……はい!」
怯んでいたコニーが、気を引き締めて凜々しい顔になります。その顔も素敵です。ですがその次の瞬間、また気弱そうな顔になりました。
「あの……それも防ぎきったら、次はどうなるのでしょうか?」
私はにっこり笑って答えます。
「頑張れば、二十個はいけます。それが防がれたら、負けを認めるしかありませんね」
「……」
コニーが固まってしまいました。どうしたものかと、私も準備していた攻撃魔法を使うわけにもいかず、止まってしまいます。
次の瞬間、コニーが絶叫しました。
「無理――――――! 無理無理無理――――――! 死んじゃいます――――――!」
どうしたものでしょう。コニーは恥も外聞もなく泣きわめいています。とりあえず腕は下ろして魔法の準備も解除します。
「は……はっはっは……僕はワイズさんに手加減をしてもらって命拾いしたようだね……」
「エマさん……ちょっと怖いです……」
「私はあの子に勝とうとしていたのですか……? いえ、届かないわけではないはず……」
観戦している皆さんも私に対してドン引きしているようですし……
「エマの異名を思いついたよ。『焼滅』のエマなんてどうだと思う?」
「はっ。彼女にふさわしい異名かと」
クリフさんはよく通る声で強調するように言っています……
ひどいです……
それでは私が怖がられてしまうのではないでしょうか……
ですがへたり込んで泣いているコニーをそのままにしておくこともできません。飛行魔法で抉れた地面を飛び越え、コニーに近づいて膝をついて抱きしめます。コニーはビクッとします。
「すいません。コニー。あなたを怖がらせてしまいました」
「エマさん……」
「今回の試合はこれで終わりにしましょう」
「はい……私の負けです……」
コニーはまだ涙目で、顔も涙で濡れています。その顔をハンカチでふいてあげます。まるで幼い子供をあやしているようですね。
そこにアボット先生が声をかけてきました。
「あー、ワイズさん。君は授業中の試合で本気を出すのは禁止です」
「……え?」
その先生の言葉の意味がわかりませんでした。
「ファイア・ボール十個分くらいなら、君の魔力で放たれても私の無効化結界はなんとか耐えられると思いますが、二十個だと間違いなく結界が吹き飛びます」
「……お母様の無効化結界は、二十個でも全く揺るがなかったのですが」
「ワイズ伯爵夫人と比べないでください。君が本気で攻撃魔法を使うなら、教師級二人以上の魔法使いが無効化結界を張るか、それともオリヴァー君に張ってもらいなさい」
「……はい」
もしかして、私の常識は歪んでいたのでしょうか。お母様やお兄様という圧倒的に強力な魔法使いが側にいた状況に。学院の魔法使いの教師は全員が宮廷魔術師団に入れるクラスの魔法使いだそうですから、大丈夫だと思っていたのですが……
「……私たちは、ワイズさんと試合しても大丈夫なの?」
「ワイズさんは本気を出すのが禁止されたのだから、大丈夫なはず……」
「そのうち騎士科と魔法使い科の生徒間での試合もあるはずだよな?」
「今から寒気がしてきた……」
観戦していた級友たちと騎士科の人たちはこの会話にさらにドン引きしているようです……
「ですが、穏やかな性格のミス・ワイズには『焼滅』の異名は少々物々しくは思います」
「まあね。でもエマを周囲の嫉妬から守るためには、畏怖されるくらいで丁度いい」
「はっ。殿下のご深慮、思い至っていませんでした」
クリフさんは楽しそうに見ながら、何か小声で話しているようですが……




