57 入学時実力判定試合 08
私の第二回戦。相手はファーバー公爵家のルシア・ファーバーさんです。公爵家はアーヴィン王国の貴族でも最高位でワイズ伯爵家よりも格上ですが、学院内では建前としては同じ生徒です。試合に手心を加えるわけにはいきません。
私の前に立つファーバーさんが宣言します。
「堂々たる勝負をしましょう。その上で、私こそがクリフ様にふさわしいのだと照明して差し上げますわ」
ファーバーさんが示している感情は、嫉妬。この方はクリフさんに惹かれているのでしょう。ですがクリフさんは言っていました。貴族の令嬢たちはクリフさん自身を見ずにただ王子様という立場を見ていると。
「堂々と試合をすることには異論はありません。ですがクリフさんと私は少なくとも今のところはそのような関係ではありません。クリフさんは私に友人になってほしいと言ってくださいました」
私がクリフさんと友人づきあいしていることは、他の令嬢たちからすれば十分に嫉妬に値することではあると理解はしているつもりです。それがこの場で現れたのでしょう。私が以前クリフさんにエスコートされたことも噂として流れているそうですし。
「ファーバー公爵家の娘たる私が、努力に頼る凡才に負けるわけにはまいりません」
「いかに才に恵まれていても、努力しなければその真価を発揮することはできないと私は教育されています」
「……」
この方はおそらく周囲から褒めそやされてきたのではないかと思います。それで努力する必要性を感じていなかったのではないかと。ですがこの方は私の返事に言葉に詰まる様子を見せました。もしかしたらこの方も努力が必要であることに薄々とであっても気づいているのかもしれません。
私の今の実力は天性の才によるものもあるのでしょう。ですが努力によってその才を使いこなせるようになるのだというお母様たちの教えは正しいものであると考えています。
アボット先生が声を張り上げます。
「では試合始め!」
私も最初の失敗を繰り返すわけにもいきません。先手を取るべく、攻撃魔法の準備をします。一瞬遅れたファーバーさんは防御魔法の準備に入ります。
「ウィンド・アロー八十連!」
「水よ。我を害意から阻め。ウォーター・ウォール!」
ファーバーさんが使える属性は水と地。その二つの属性に軽減されない風属性の攻撃魔法を使ったのです。この方は魔力が結構強いようなので、矢の本数を少し多めに。ファーバーさんも防御魔法の選択は間違いませんでした。風属性に弱い地属性の防壁を使っていたら勝負はついていたでしょう。ファーバーさんの水の防壁は私の風の矢に対して持ちこたえます。
ですが私の攻撃はこれで終わりではありません。
「ライトニング・ボール!」
「きゃああああ――――――!?」
短縮魔法で放った私の中級範囲攻撃魔法にファーバーさんの防壁が砕け、炸裂する電撃がファーバーさんを包みます。先生の無効化結界があるのでファーバーさんに怪我はありません。
「そこまで! ワイズさんの勝利です!」
「そんな!? 私はまだやれますわ!」
「厳しいことを言いますが、無効化結界がなかったらあなたは重傷を負っていたでしょう。命を落としていた可能性すらあります。負けを認めることは恥ではありません。この先成長して勝てるようになれば良いのです」
「……はい」
ファーバーさんも先生の言葉を受け入れたようです。ですがこの方も自分でもわかってはいたのでしょう。自分はまだやれると言っても、そこには虚勢が籠もっていたように思いました。
「……無様に負けた私が、今は何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないのでしょう。今回は私の負けを認めますわ」
「ここで私が謙遜しても、おそらくあなたには嫌みにしか聞こえないでしょう。忠告させていただきます。あなたは魔法の才に恵まれているのだとは思います。ですが努力を否定するようでは、その才の真価を発揮することは難しいと思います」
「……あなたは嫌な人ですわね。勝ち誇ってくれれば憎むこともできますのに」
私は真摯に忠告したつもりですが、嫌な人呼ばわりされてしまいました。ファーバーさんは私が勝ち誇っているわけではないと理解してくれたようで、私に嫌悪感を示しているわけではないように思いますが。ですがこちらが善意を示しても相手がそれを素直に受け取ってくれるとは限らないとは、こういうことなのかもしれません。
アボット先生もファーバーさんに声をかけます。
「ファーバーさん。おそらくあなたに魔法の教育をしてきた人は、公爵家のご令嬢たるあなたに遠慮せざるをえなかったのでしょう。また厳しいことを言ってしまいますが、努力せずに才能だけで一流の魔法使いになれる人がいるとしても、それは百年に一人いるかどうかではないかと考えます」
「……はい」
「ワイズさんのお母上はあのワイズ伯爵夫人です。その教育は私の想像を超えるほどに厳しいのかもしれません」
「まあ、安全は保証されていたとはいえ命の危険を感じたことは十回や二十回ではないことは確かです……」
「……はい」
ファーバーさんは葛藤している様子です。この方も理解してくれるといいのですが……
本来は大賢者を目指す私こそが導いてあげないといけないのでしょうが、どうすればいいものかよくわかりません……




