53 入学時実力判定試合 04
ヘンズリーさんは言葉どおり私が準備するのを待つようです。風の防壁ももう消えています。
「ウィンド・ボウ。二連」
私の左右に目視は困難な球体が二つ出現します。これは風の矢を自動的に射出する魔法です。狙った敵に自動で風の矢を放ってくれる上に私自身も他の魔法も使えるので、使い勝手のいい魔法ですね。
この球体は見えにくくても属性魔法使いにはそこに何があるのかはわかります。ヘンズリーさんもその顔に緊張を浮かべました。
「さすがはワイズ伯爵家のご令嬢……短縮魔法を、しかもウィンド・ボウを二個同時に使うなんて……」
短縮魔法とは、呪文を省略して魔法の名前だけで発動する技術です。優秀な魔法使いなら使えるものですね。これも前兆は魔法使いにならわかるのですが、呪文の文言が短くなり短時間で発動できます。防御する方としては対処に使える時間が少なくなり、対処が間に合わなくなることもありえますね。
「ワイズ家の令嬢という呼ばれ方はあまり心地よくはありません。私自身の努力が否定されて、ワイズ家の娘だからできると言われている印象を受けます……」
「あ……すまない……ワイズさん。これは僕に否があった」
「謝罪を受け入れます」
私はワイズ家の令嬢という呼ばれ方は好きではありません。それは相手がエマ・ワイズという一人の女の子としてではなく、ワイズ家の付属物として私を見ているように思えるからです。私自身のことを覚える必要はないのだと言われているように思えるのです。
それにヘンズリーさんには私の努力を否定してほしくはありませんでした。この人もおそらくは血のにじむような努力の末にあれほどのゴーレムを作れるようになったのでしょうから。私が天性の才に恵まれていることは事実なのでしょう。ですがそこに必死の努力をした結果が今の私なのです。
ですがヘンズリーさんは先程私をミス・ワイズと呼んでいましたが、今はさんづけでした。ちょっと気取ってみたかったのでしょうか。この人は本質的にはいい人なのではないかと思えます。
「でも君なら無詠唱魔法を使うかもと、正直に言うとちょっと怯んでいたんだけどね」
「私はまだその域まで達していません。賢者としての勉強もありますから」
「安心したよ。君も人間であって、僕とは遙か遠い存在ではないと」
「ええ。私もそれなりの能力は持っているという自信はありますが、それでも私は未熟な女の子でしかありません」
無詠唱魔法とは、呪文の詠唱を全くせずに魔法を発動する技術です。一部の極めて優秀な魔法使いしか使えないもので、私もまだその域までは達していません。賢者としての勉強を後回しにしてひたすら魔法使いとしての訓練をしていれば、その域まで達していたかもしれませんが。ですが私は大賢者を目指しているのであって、ただ強力な魔法使いを目指しているわけではありません。
「最初からすごい勝負になりそうだな……」
「努力に頼る凡才にハーヴァー公爵家の娘たる私が負けるわけには……」
観戦している人たちも私とヘンズリーさんに注目しているようですね。
「でももしかして、君は本にあった対応策を使わずとも僕のゴーレムを火力で破壊することもできるんじゃないかい?」
「はい。可能です。ですがやり過ぎは良くないかと思いまして。ヘンズリーさんが手加減されるのは侮辱だと考えるなら、本気でいきますが」
「……いや。遠慮しておくよ。嫌な予感がする。怖いことになりそうだ」
「はい」
ヘンズリーさんが推測したように、私は火力であのゴーレムを破壊することも可能です。ですがそれはこの人相手ではやり過ぎではないかと思いまして。ヘンズリーさんを見下しているつもりはないのですが、無用に恐怖感を与えてしまうのではないかと思うのです。
「じゃあ、行くよ!」
「はい」
「ゴーレム! 行け!」
ヘンズリーさんの巨大な石のゴーレムが動き始めます。あんなものに接近されたら、さすがに私も厳しいです。ですが私は焦っていません。
私たちが使う属性魔法には地水火風の四大属性という考え方があります。そして属性間には相性の強弱があります。火属性は風属性に強い。水属性は火属性に強い。地属性は水属性に強い。風属性は地属性に強い。それは属性魔法使いにとって常識です。基準魔法という属性に関係なく使える魔法もあって、結界なども基準魔法に含まれます。他にもマイナーな属性を扱う魔法や、属性魔法とは全く異なる魔法として召喚魔法や神々の力を借りる神聖魔法などもあります。
そして私が展開したウィンド・ボウはヘンズリーさんのゴーレムにとっての天敵です。あれほどのゴーレムだと、この魔法にもそれなりに耐えるだろうとは思いますが。
「速射開始」
「風よ。我を害意から阻め。ウィンド・ウォール!」
私が二つのウィンド・ボウに指示をすると同時に、ヘンズリーさんは風の防壁を使ってゴーレムも前進を止めます。風の防壁は地属性の攻撃とそして同属性である風属性の攻撃に対して特に強い防御力を発揮します。猛烈な勢いで放たれる風の矢も風の防壁に防がれます。
「くぅ……なんて魔力だ! 負荷が高すぎる! 風よ。我を害意から阻め。ウィンド・ウォール!」
ですが風の防壁も同じ風属性の攻撃に対して無敵というわけではありません。負荷に耐えかねて防壁が破れそうになっていたので、ヘンズリーさんは再度風の防壁を使います。
私とヘンズリーさんが同等の魔法使いでしたら防壁にかかる負荷はそこまでではなく、ヘンズリーさんは防壁を使いながらゴーレムを少しずつ前進させて私に攻撃をかけることも可能だったと思います。ですが私の魔力が上回っているので、ヘンズリーさんは前進することができずに、下がりながら破れそうになる防壁を次々に作り直しているのです。




