52 入学時実力判定試合 03
風の防壁魔法の向こうでヘンズリーさんが魔法を使おうとしています。その次の手は私の予測の範囲内です。
「地よ。土塊より我が僕を作り出せ。我が作りしは石の巨人。クリエイト・ストーンゴーレム!」
ヘンズリーさんの周囲の土が盛り上がり、人の背丈の三倍から四倍はあろうかという石でできた巨人が作り出されました。ヘンズリーさんはそのゴーレムの胸部分に取り込まれ、のぞき穴からその顔が見えます。観戦の人たちが驚きの声と歓声を上げています。
予測の範囲内ではあります。ですがこれだけ見事なゴーレムを作るとは、学院の新入生が使うものとしては予測の上限を越えていました。私も油断はできません。
「お見事なゴーレムです。これほどの魔法を使えるようになるために、どれほどの努力をしたのでしょうか。あるいはたぐいまれな素質によるものなのかもしれませんが」
「……君はどちらだと思う?」
「おそらくは血のにじむような努力によるものではないかと。そうでなければここまで完成度の高いゴーレムを作れるとは思えません。素質によるものだとしても、どちらにしても賞賛するべきだと思いますが」
素質に頼った魔法は大雑把なものになりがちだそうです。それは私自身が素質に頼っているとお母様から指摘されたことです。
ですがヘンズリーさんの作ったゴーレムは大雑把なものではなく見るからに洗練されています。それは虚栄によるものではなく、戦うために洗練されたものです。
「……追従ではなく、こうまで真面目に褒められたのは初めてだ」
「そうなのですか? 手放しで賞賛するべきと思うのですが。おそらく現時点で王国魔法騎士団に入隊しても、短期間で一人前の戦力とみなされるようになるのではないかと思います。私はまだ未熟なので想像でしかないのですが」
ヘンズリーさんは照れくさそうに、でもうれしそうにしています。私は素直に思ったことを言っただけなのですが。観戦の人たちも感心する言葉を発しているようですね。
実際ヘンズリーさんのゴーレムは見事なものです。その防御力も打撃力も十分に一人前以上の魔法使いと評価されて当然の力を秘めているのが見ただけでわかります。
「でも君はその僕の作ったゴーレムを前に怯んでいない。かといって僕を侮っている様子もない。僕が何を参考にこの戦い方にたどり着いたのか、君は知ってるんじゃないかい?」
「ザカライア・ワイズ著、魔法戦闘教本応用編第三巻、ゴーレム運用法の一節でしょうか?」
「あっはっは! さすがワイズ伯爵家のご令嬢だ! なら当然対応策も知っているというわけだ」
「ええ。それを私が実行して勝利できるかは別問題ですが」
ヘンズリーさんの戦い方は推測できています。その対応法も知っています。知っていることとそれを実行して勝利できるかは別問題ですが。
ですがヘンズリーさんは一人称を僕と言っています。先程は私と言っていたのですが、こちらが素なのでしょうか。
「僕がミスをせずに対処できるか、それとも君の魔力が尽きるかの勝負というわけだね。君から感じられる魔力からすると、僕の分はずいぶん悪そうだ」
「はい。おそらく私が勝てるとは思います」
「正直だね。でも不思議と不快じゃない」
私は勝てると思っています。ですが慢心してはいけません。ヘンズリーさんの実力も相当なものです。並の魔法使いや戦士相手なら苦もなく勝てるほどに。
「君は僕がゴーレムを作るのを待ってくれた。なら僕も君が準備するのを待とう」
「あの……過大評価です。私はどうするべきか決断できずに様子を見ただけなので……」
「あ……なるほど。君が自分を未熟と言うのは本心ということか」
「はい」
「あっはっは! 君は本当に正直だね! でも僕は待つと言ったからには待つよ」
過大評価されるのも困ります。私は先手を取る決断ができなかっただけなので。私は大賢者を目指しているとは言っても、まだ15歳の未熟な女の子でしかありません。魔法戦闘に関してはそれなりに自信はありますが、絶対的に経験が足りないのです。




